連載「HOKUROKUのコーヒー・タンブラーづくり」
- 連載「HOKUROKUのコーヒー・タンブラーづくり」
コンビニやスタバへKeepCupを持ち込んでみた編。北陸で「コーヒータンブラー」のある暮らし
「どこのタンブラー?」と質問される気持ち良さ
土直漆器(鯖江市)の〈URUSHI MOBILE TUMBLER〉
福井ロフトなどを見学していると福井県の鯖江市に人気のタンブラーを手掛ける会社があると情報が入ってきました。
福井の鯖江と言えばメガネで有名ですが、鯖江には越前漆器11など伝統工芸の産地が集積しています。コーヒー・タンブラーづくりにその伝統技術を生かした土直漆器(鯖江市)の〈URUSHI MOBILE TUMBLER〉があると知りました。
公式ホームページで最初に見た時に「こういうタンブラーを探していた」と思いました。編集部に情報をシェアしても「これなら持ちたい」と気持ちの良いリアクションが返ってきます。
プロダクトとして持ちたいかどうかが大事だとすればURUSHI MOBILE TUMBLERは写真の段階で成功しています。
鯖江市の様子
同製品を立ち上げた土直漆器の土田直東さんにも会いに行きました。
取材当日の鯖江は曇り。近所の山からは水蒸気が立ち上っています。湿度が高いほど漆は固まりやすくなるため産地としては湿度の高さが大事みたいです。
産地として越前漆器は日本最古の1500年近い歴史があるそう。その産地の中でも土直漆器は歴史の若い会社だと2代目社長の土田直東さんが教えてくれました。
土田直東さん
URUSHI MOBILE TUMBLERをリリースする土田直東さんは世界的な大手レコードショップの社員として東京で働いた後、父親の仕事を継ぐために鯖江へUターンした人です。
「外の世界を知る私のような経営者がどんどんチャレンジして漆器の世界に対する憧れを若い人に持ってもらいたい」
との願いもあって、URUSHI MOBILE TUMBLERづくりを始めたのだとか。
慶応義塾大学のメディアデザイン研究科から伝統の技術を生かして海外へ物を売っていきたいと鯖江市に声が掛かったところからプロダクトの開発が始まります。
さまざまな課題を産地として抱えていた同市の越前漆器が手を挙げ、クラウドファンディングを経て商品化に至りました。
飽和状態のタンブラー業界で「違い」を実現
カメイ・プロアクト社(東京都)の〈Thurmo mug〉に土直漆器が伝統の技術で漆を塗る。色彩は経年変化して深みを増す
北陸の風土に似合うタンブラーとしてURUSHI MOBILE TUMBLERは1つの理想的な形を示した商品なのかもしれません。
真空二重構造のタンブラーに漆塗りを用いた製品は、飽和状態のタンブラー業界の中で差別化を見事に実現しています。
〈スターバックスコーヒー〉などにユーザーが持ち込むと店員から「どこのタンブラーですか?」と質問を受けるそう。使っている本人としてこの質問はうれしいですよね。
何気ないやり取りがきっかけで店員との会話も弾み、使っている人のステイタスにもなって、満足度にも直結しているみたいです。
価格帯は1万円前後12と決して安くありません。それでも月に500~600個、年間で7,000~8,000個のペースで売れていると言います。
海外の人に向けて当初は売り出す予定だったそうですが、都市部に暮らす30~40代の日本人に意外にも今は売れているみたいです。
贈答用としても好まれていて、企業が自社のネームを入れイベントでギフトにするニーズもあると土田さんは言います。
デザインやコンセプトが購買や贈答の原動力になっている、見本となるような商品が北陸3県にもあると分かりました。
コーヒー専用の容器として考えてみる
土直漆器。URUSHI MOBILE TUMBLERはこの建物の中でも販売される。都内や関西のショップ、Thurmo mugのルートでも取り扱われている
ただし、URUSHI MOBILE TUMBLERはコーヒー専用のタンブラーとして用途が限定されているわけではありません。
このタンブラーで土田さんは毎日お酒を飲んでいると言います。真空二重構造のため氷が溶けにくくお酒がおいしく飲めるのだとか。
しかし、今回の特集テーマにあえて寄せて、コーヒー専用の容器としてURUSHI MOBILE TUMBLERを見た時、真空二重構造の高い保温機能が裏目に出る可能性もあるはずです。
コーヒーを水筒に入れて持ち運んだ結果、酸味や雑味が増してしまった経験はありませんか? 高い温度で長時間保管したコーヒーは雑味や嫌な酸味が増すと知られています。
価格的に1万円前後の値段設定も日常的な利用をイメージした場合、ちょっと高すぎるハードルもあるはずです。
容器としての背の高さも、スクリュー式のふたについても、コーヒー専用の用途に限って見れば、商品選びの際に注意が必要かもしれません。
〈KeepCup〉の場合は現場に立つバリスタが開発した経緯もあって、カフェのカウンター内でストレスなく使えるように、エスプレッソ・マシンの抽出口に直接セットできるサイズ感を意識しています。
混雑時のバリスタの手間を考え、容器のふたもねじ込み式ではなく、押してはめるタイプが意図して選ばれています。
思わず手に取りたくなるデザインが大前提にあって、バリスタにも使い勝手のいい機能を持っている。コーヒー・タンブラーのある暮らしを北陸3県で広める鍵を、コーヒー専用の容器として計算された細部こそが一方で握っているのではないかと思いました。
とりあえず調査編(始まりのメルボルン編)はこれで以上です。まだまだ研究は続きますので、気長に続編を待っていてくださいね。
(副編集長のコメント:いろいろ調べて考えた結果、HOKUROKUオリジナルのドリンク容器づくりに最終的には展開したりするんですかね。時期については未定ですが続きを楽しみにしてください。)
文:坂本正敬
写真:山本哲朗
編集:大坪史弥・坂本正敬編集協力:明石博之
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5 - 連載「HOKUROKUのコーヒー・タンブラーづくり」
コンビニやスタバへKeepCupを持ち込んでみた編。北陸で「コーヒータンブラー」のある暮らし
何だか分からないけれど欲しい
福井の海の現状を目の当たりにすると、デザインに一度は不満を感じ始めた〈KeepCup〉への関心が戻ってきました。KeepCupの見た目に関する関心ではなく、同商品が生まれた背景に対する関心です。
同社の創業者であるJamie ForsythさんとAbigail Forsythさんは、メルボルンで人気のカフェを営んでいたと第1回の記事で書きました。
コーヒータンブラーや水筒など市販のドリンク容器を紙のコーヒーカップの代替品として使って、コーヒーを店内で提供しようと最初に考えたと言います。
しかし、当時流行していた市販品はサイズが大きく、エスプレッソ・マシンの抽出口の下に直接セットできません。
デザイン的にも満足できる商品がなかったため「それならば、つくってしまおう」と方向を切り替えます。
同社に問い合わせると、メルボルンで2009年(平成21年)に開催された小さなデザインフェアがKeepCupを最初に販売した機会だったと言います。
「時間の無駄」といった声も当初はあったそうですが6時間で1,000個も商品が売れたそう。「これが何だか分からないけれど(プロダクトとして)欲しい」と買ってくれた顧客も中には少なくなかったとか。
この印象的なエピソードは福井の海へ出掛ける前にも知っていました。しかし「何だか分からないけど物として欲しいから買ってもらう」大切さは、福井の海から帰るとあらためて説得力を持つような気がしました。
KeepCupの創業者たちもデザインフェアでの出来事を通じて、デザインの魅力で手に取ってもらう大事さを学んだと言います。
「環境にいいから使って」とのメッセージを最初に伝えるのではなく、まず手に取ってもらう。手に取ってもらえるチャンスが増えれば、結果として環境問題にもささやかなインパクトを与えられます。
タンブラーのある暮らしを北陸で実現する際にも「物として欲しいから手に取ってしまう」商品の存在は不可欠のはずです。
タンブラー探しの方向性が見えてきた気がしました。
「物としてほしいから手に取ってしまう」
「物としてほしいから手に取ってしまう」コーヒー・タンブラーを探す手段として、北陸3県でセレクトショップを手掛ける経営者や生活雑貨を扱うお店の店長、バイヤーなど、さまざまな情報通に声を掛けてみました。
一方で、水筒やタンブラーなどの品ぞろえが充実したお店にも一方で足を運んでみます。例えば福井ロフトです。
福井県の「マイボトル運動」にも協力する同店は、県と連携して売り場の一角で水筒やタンブラーの品ぞろえを充実させています。
売り場担当の六廣英典さんによれば、
「ロフトはセブン&アイ・ホールディングスの一員としてグループ全体でマイボトルやマイバッグに力を入れています」
との話。水筒やタンブラーのトレンドを知るためにはこれ以上のないお店なのですね。
福井ロフトの六廣英典さん
数ある選択肢の中から現状で9どの商品が売れているのか聞いてみると〈ポケトル10〉という水筒を一番に教えてくれました。
「ポケットに入るリトルな水筒」が名前の由来で、最も売れ筋のSサイズ(120ml)の場合は名前のとおりポケットにも入ります。
他の大きな容器との並びで見てもこのサイズ感は確かに異彩を放っていて、思わず手に取りたくなる商品だと思いました。
ポケトルのSサイズ。スリムなデザインなので、かばんの中の小さなスペースにも入り込んでくれる。180mlタイプの本体価格は1,500円。高さは19.6cm
120mlと言えば、標準的な大きさのコーヒーカップ(レギュラーカップ)の容量と一緒です。
六廣さんによればSサイズの大きさが女性に人気だとかで、2019/2020の冬にはピンク色が特に売れたと言います。
この愛らしいサイズ感とカラーバリエーションを持ったポケトルからも手に取りたくなるワクワク感の大切さをあらためて学びました。
(副編集長のコメント:福井の鯖江で見付けた〈URUSHI MOBILE TUMBLER〉を最終回の次回で紹介します。)
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5 - 連載「HOKUROKUのコーヒー・タンブラーづくり」
コンビニやスタバへKeepCupを持ち込んでみた編。北陸で「コーヒータンブラー」のある暮らし
越前海岸に漂着するごみは九頭竜川から
越前の海岸に流れ込む九頭竜川の河口周辺
譲り受けた〈KeepCup〉をローソンへ持ち込んで今までにない気分の高まりを体験した〈HOKUROKU〉編集長の私・坂本です。
さらなる心のときめきを求めて、北陸の風土に似合うタンブラー探しをスタートしたいと思い始めました。その一方で、ローソンのサービスを知るきっかけとなった福井の「マイボトル運動」にも関心が向き始めます。
「マイボトル運動」を福井県が進める理由となった漂着ごみの問題とはそもそも何なのでしょうか。
三国港の三国港突堤
石川の能登半島を含め福井の海岸線は「対岸」の朝鮮半島や中国と向き合うように日本海へ突き出しています。海外からのごみの漂着物が流れ付きやすい環境にあると調べてみると知りました。
例えば、冬の福井県坂井市(越前海岸の一角)に漂着するごみは、海外:国内のごみを1:1で分類できると言います。その上、国内ごみの7割が、福井県を流れる九頭竜川の流域から漂着しています。
要するに、自分たちで自分たちの海岸を汚しているのですね。この現状について県に問い合わせるとすぐに連絡が来ます。
県の担当者によれば、上に挙げた問題は福井の海岸に確かに存在するらしく、
「海洋プラスチック問題に県民が関心を向け、プラスチックごみの削減に自ら取り組んでいただくように意識啓発しています。身近に実践いただく方法としてマイボトル運動を今年度から推進しております」
と教えてくれました。足元の環境問題に対する危機意識こそが「マイボトル運動」を立ち上げ、マイボトルの利用を県民に訴える理由だったのですね。
想像を絶するレベル
車窓から眺める越前海岸の様子
KeepCupに替わる北陸らしいコーヒー・タンブラー探しと並行して、冬の福井の海にも出掛けてみようと思いました。しかし、福井の海岸線は長大です。どこへ行けばごみの漂着を確認できるのでしょうか。県の担当者によれば、
「集中してごみが漂着している海岸について、県では把握しておりません。しかし、冬季波浪によって越前海岸にも漂着している状況は把握しております」
との話。この言葉を頼りに福井の越前岬を訪れてみると事態は想像を絶するレベルでした。
福井の海岸線に漂着したごみの様子
移動中の車内から遠めに見ていた分には気付かなかったのですが、海岸線へ実際に下りてみると場所によっては足の踏み場もないくらいごみが漂着しています。
福井県の越前海岸のごみは環境省の情報によると、流木・低木が31%、木材が23%、プラスチック類が37%とされています。
その中でも、37%を占めるプラスチック類のごみに注意深く目を向けてみると、海外製のペットボトル・洗剤入れ・長靴・発泡スチロール・ブイなど、さまざまなごみが漂着していました。
流木・木材・プラスチック類以外の残り9%に該当するごみとしては、冷蔵庫・タイヤのホイール・スプレー缶・海外製の車のナンバー・注射器・配船・漁業の網などが散乱していました。
こうした膨大なごみは夏の行楽シーズンを前に一斉に掃除するため、あまり一般の人の目には留まらないと県の担当者は言います。しかし気づかないだけで、毎年冬には大量のごみが海岸に押し寄せているのですね。
年配の方が近所でお店を営んでいたので声を掛けてみました。毎年冬は海岸線が汚れ、その勢いは、とどまるところを知らないと言います。
早朝の海岸線に出て何か価値のある「ごみ」が漂着していないか探し回った時期も昔にはあったみたいですが、喜べるような「拾い物」は最近何もなく、プラスチックごみばかりが目立つとも言っていました。
何と戦うべきなのか
福井市の鷹巣海岸
福井市の鷹巣海岸や坂井市の三国サンセットビーチ、石川県白山市の松任海浜公園も歩いてみました。冬の越前と加賀の海岸は残念ながらどこも似たような状況でした。
白山市の松任海浜公園
海岸線だけではありません。国内由来のごみの出どころと言われる九頭竜川の河川敷きもひどかったです。流域からのごみが流れ下って集まっている様子が確かに見て取れました。
九頭竜川の河川敷
もちろん、この問題は福井に限りません。同じ北陸の石川・富山でも似たような問題があるはずです。海岸に漂着した国内由来のごみの中にはコーヒーの紙コップやボトル容器もたくさん見られました。
コーヒー・タンブラーを使う人が1人でも北陸に増えれば、ものすごくナイーブな考え方ではありますが、不必要な紙カップやペットボトルの利用を減らせるかもしれません。
単なる個人的な趣味で始めたコーヒー・タンブラーの世界に異なる深みが少しだけ見え始めた瞬間でした。
(副編集長のコメント:コーヒータンブラー探しの道へ次の第4回では戻ります。)
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5 - 連載「HOKUROKUのコーヒー・タンブラーづくり」
コンビニやスタバへKeepCupを持ち込んでみた編。北陸で「コーヒータンブラー」のある暮らし
「コンビニコーヒー」も割引
オーストラリア政府観光局から〈KeepCup〉を譲り受けた〈HOKUROKU〉編集長の坂本はコーヒー・タンブラーのある生活を自分でも北陸で早速スタートさせてみました。
しかし、ある課題に早々にぶつかります。KeepCupを持ち込める場所の選択肢が身の回りには意外にも限られていたのですね。
メルボルンのように、あるいは東京や大坂のように、カフェが身近に幾つも存在する都会とは違います。北陸3県で使える場所と言えば〈スターバックス コーヒー〉や〈タリーズコーヒー〉くらいしか思い浮かびません。
個人のカフェでも使えるのかもしれませんが、タンブラーを受け付けてくれるお店を知りません。持ち込んで容器の利用をお店に断られたらちょっと恥ずかしいです。
そこで、北陸3県のさまざまな地名と「カフェ」「タンブラー」「マイボトル」などの言葉を組み合わせて身近に使える場所をインターネットでも探してみました。
そのリサーチの最中に意外な情報を偶然発見しました。全国展開する大手コンビニエンスストア〈ローソン〉にもマイボトルを持ち込めると知ったのですね。
福井市の鷹巣海岸
きっかけは「マイボトル運動」を紹介する福井県の公式ホームページでした。
日本海に面して長い海岸線を持つ福井県では海岸に漂着するごみが問題視されていて、海外からの漂着ごみもあれば、県内の九頭竜川流域から流れてくるごみも多いと言います。
要するに、国外のみならず県内から出たごみで福井の海岸が汚れているのです。その問題を県民に広く知ってもらうために「マイボトル運動」が立ち上がったのだとか。
「マイボトル運動」の協力店にマイボトルを持ち込むとコーヒーが何十円か安くなる仕掛けも用意されています。その経済的メリットを1つのフックに、ごみ問題を考えるきっかけづくりをしているのですね。
福井県には協力店が現状で150店舗ほどあり(令和2年1月10日時点)、そのうちの7店はスターバックス コーヒー6、3店はタリーズコーヒー7です。個人のカフェが幾つかその他に名を連ねていました。この辺りは想定内です。
しかし、114店のローソン(MACHIcafe)が「マイボトル運動」に名を連ねています。何店舗のローソンが福井にあるのかその時点では知りませんでしたが、114店と言えばほとんど全てのはず。
見方を変えればローソンの「コンビニコーヒー」はテークアウト用の容器を持ち込むとどこでも割引が可能になるのかもしれません。
そんな話は一度も聞いた覚えがありません。身の回りの人に聞いてみても誰も知らなかったので、ドリンク割引について本社に問い合わせてみました。
ローソンなら10円引き
朝からゴクゴク飲める「アイスコーヒー」♪気分をシャキッとさせたい時にもぴったりです(^^)#ローソン #おうち時間を楽しく #おうちカフェ #マチカフェ https://t.co/Z8rJznqWY2 pic.twitter.com/2C10jXRocs
— ローソン (@akiko_lawson) July 1, 2020
本社に問い合わせた時点でHOKUROKUは創刊準備中でした。世の中にまだ存在しないメディアからの問い合わせでしたが担当者は丁寧に回答してくれました。
テークアウト用の容器を持ち込めば全国津々浦々のローソン8で割引してくれるとの話で、いつごろから始まったサービスなのか聞くと、
「カウンターコーヒー・MACHIcafe(マチカフェ)を販売開始した当初(2011年)から割引しています」
と回答がありました。認知度が低いのではないかと失礼を承知で率直に質問すると、
「店頭でのメニュー表、ホームページでの商品情報では、タンブラーご持参での割引について表示しております」
との答えがありました。店舗で確かめてみると、店頭のメニュー表には小さな文字で「割引」の記述が確かにあります。
朝からでもすっきり飲める「アイスカフェラテ」♪ほんのり甘いミルクがおいしいです(^^)#ローソン #おうち時間を楽しく #おうちカフェ #マチカフェ https://t.co/hWmdbDOo7N pic.twitter.com/5oNPpctwED
— ローソン (@akiko_lawson) June 28, 2020
マイボトルの持ち込み割引を実施しているコンビニエンスストアは執筆時点でローソンだけ。どうして他のコンビニエンスストアに先駆けてこのようなサービスを始めたのかと聞くと、
「使い捨てのカップを使用しなければ、環境に配慮できる上にカップのコストが不要になるからです」
との話です。環境面に配慮する企業の姿勢もその上で伝えられますから一挙両得の話なのですね。
「この人は何をしているのだろう」
〈KeepCup〉に入れたMACHIcafeのカフェラテ
本社に確認を終えるとすぐKeepCupを持ってコーヒーのテークアウトをローソンで挑戦してみました。
本社の担当者によれば、ドリンクが入りきるサイズである限り持ち込む容器は何でも構わないとの話。
「(タンブラーがコーヒーマシンに)適合しない場合、専用のステンレス製のメジャーカップにドリンクを抽出し、その後でタンブラーに移します。従って、小さ過ぎる場合を除き、タンブラーの大きさ・形状によるNGはございません」
アイスのドリンクについても持参した容器に移し替えてくれるみたいです。
ここまで聞いても、正直に言って最初は半信半疑でした。ローソンに誰かが容器を持ち込む姿を見た覚えがありません。
それでも、コーヒー・タンブラーのある暮らしを夢見て、富山県内のローソンにKeepCupを持ち込んでました。
「ホットのカフェオレをください。Sサイズで」
とレジカウンターで伝え、
「これに入れてください」
とKeepCupを差し出します。女性の店員は一瞬、間を置きました。その沈黙が筆者を緊張させます。しかし、担当の店員は容器を眺めると、
「これ、耐熱ですか?」
と聞いてきます。「そうです」と伝えると、手慣れた手付きでマシンからコーヒーをタンブラーに直接入れ、通常よりも10円引きで会計を済ませてくれました。
レジの周りに居た順番待ちのお客はこちらを見ていました。「この人は何をしているのだろう」という感じです。
お店を出てからKeepCupの容器でコーヒーを口にした時、とても豊かな気持ちになれました。
失礼を承知で言えば、ローソンのコーヒーは見慣れた・飲み慣れた、ただの「コンビニコーヒー」にすぎません。
しかし、容器が変わるだけで口当たりが変わり、手触りや重みも変わるため、値段以上のリッチな気分を満喫できたのです。
マンネリ化してしまった日常に新鮮な感動を取り戻すコンテンツづくりは、創刊時のクラウドファンディングでHOKUROKUが掲げた公約でもあります。
何気ない工夫によって生まれるこの感動は、持ち運ぶコーヒー・タンブラーでも違いが出てくるはず。北陸らしいタンブラー探しもスタートさせたいと今度は思うようになりました。
(副編集長のコメント:次の第3回では、福井の直面する漂着ごみの問題に続きます。)
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5 - 連載「HOKUROKUのコーヒー・タンブラーづくり」
コンビニやスタバへKeepCupを持ち込んでみた編。北陸で「コーヒータンブラー」のある暮らし
始まりはメルボルン
写真タイトル:ST. ALi Cafe、提供:Visit Victoria、撮影:Josie Withers
話の始まりはメルボルンから。オーストラリア南部のビクトリア州にある州都メルボルンをご存じでしょうか。
新型コロナウイルス感染症の影響で予定が吹っ飛んでしまいましたが〈HOKUROKU〉編集長である私、坂本正敬は〈Australian Tourism Exchange 20201〉に招待されていたので、この5月にもメルボルンを旅する予定でした。
地理的にも縁遠い北陸では、なかなか知られていないかもしれませんが、世界有数のカフェ先進地としてメルボルンは高く評価されています。
Australian Tourism Exchange 2020を主催するオーストラリア政府観光局の広報担当者によると、メルボルンのコーヒー文化は第2次世界大戦後にイタリア人とギリシア人の移民によってつくられたと言います。
期間にすれば100年に満たない歴史ですが現在では、世界トップクラスのバリスタ2を次々と輩出するカフェ文化の「先進国」で、あのスターバックスが撤退せざるを得なかった土地3でもあります。
要するに、地元のカフェが市民にきちんと愛されているため巨大企業も割って入る余地がなかったのですね。
メルボルンは〈KeepCup〉の生誕地
上から2段目のカラフルな容器がメルボルンで生まれた人気のテークアウト容器〈KeepCup〉。写真タイトル: The League of Honest Coffee、提供:Visit Victoria、撮影:Paul Philipson
メルボルンと言えば、オーストラリア・イギリス・アメリカの西海岸でも広く使われるテークアウト用のコーヒー容器〈KeepCup〉が誕生した土地でもあります。
日本を含む65カ国以上でKeepCupは現在販売されていますので、どこかで目にした覚えがあるかもしれません。
One for you, one for me. Each and every KeepCup is assembled by hand in either London, Melbourne or downtown Los Angeles. pic.twitter.com/KpW9VRzK5r
— KeepCup (@KeepCup) September 25, 2019
同社の創業者は、Jamie ForsythさんとAbigail Forsythさんきょうだい(兄と妹)です。メルボルンで人気のカフェを営みながら、自分たちの提供する紙のコーヒーカップの消費量を2人は毎日目の当たりにしていました。
一部の報道だと、5万個のコーヒーカップがオーストラリアでは30分ごとに捨てられていると言います。イギリスでは1日に約700万個、年間で約25億個が消費されているとの情報もあります。
オーストラリアの公共放送局4がメルボルンを走る路面電車5に5万個のコーヒーカップを満載し、まち中を走らせたキャンペーンの様子
この問題に一石を投じようと生まれた商品が先ほどのKeepCupです。KeepCup以外にも複数のブランドからテークアウト用のコーヒー容器がメルボルンでは現在リリースされていて、ひいきのバリスタが居るお店に自前の容器を持ち込みコーヒーを楽しんでいます。
その姿にかねて素朴な憧れを筆者は抱いていました。
観光局の担当者にその思いを伝えると「Tourism Australia」のロゴが入っているKeepCupを譲ってくれる話になりました。
石川県白山市の松任海浜公園にてKeepCupと(撮影は2020年3月)
憧れのメルボルン発の容器が思わず手に入ってしまった私。せっかくなので、自前のKeepCupを使ってコーヒータンブラーのある暮らしを自分なりに北陸でスタートしてみたいと思いました。
(副編集長のコメント:「コンビニコーヒー」でもKeepCupが使える「大発見」に次の第2回は続きます。)
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5 - 連載「HOKUROKUのコーヒー・タンブラーづくり」
コンビニやスタバへKeepCupを持ち込んでみた編。北陸で「コーヒータンブラー」のある暮らし
「コーヒータンブラーのある暮らし」を北陸で実現しようと企てるこの企画は〈HOKUROKU〉編集長である私、坂本正敬の極めて個人的な憧れが発端となっています。
自前の容器にコーヒーを入れてテークアウトする人たちをオーストラリアのメルボルンで知り、まねしたいと思ったところから始まる完全な趣味の追求モードです。言い換えれば、職権を乱用した「誌面」の独占です。
しかし「タンブラーを使えるお店が北陸のどこにあるのか」「どんなコーヒー・タンブラーが売っているのか」と調べるうちに北陸の環境問題を考えるきっかけにもなりました。
個人的な憧れの実現プロジェクトだけれど、もしかすると社会問題の解決にチャレンジできるかもしれない。そんな気付きまでの道のりを5回の記事にまずはまとめました。
HOKUROKU編集長・坂本正敬
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