「愛されるSNS」は片手間でつくれない。北陸の代表企業&インフルエンサーの座談会(前編)

2021.03.16

vol. 01

公式Twitter(現・X)は何となく開設しました

インタビュアーの大坪史弥。北陸各地の専門家たちにオンラインで取材した。場所は〈水辺の民家ホテル〉(富山県射水市)

―― 今日は皆さん、座談会にご参加ありがとうございます。〈HOKUROKU〉の副編集長・大坪史弥と申します。今日の司会進行を担当します。

 

年度末なので、なかなかシビアな日程調整でしたが、これだけの方にご参加いただき本当にうれしく思います。

 

あらためて、今回の企画の趣旨について説明します。今回のテーマは「愛される公式SNS論」です。

 

あらゆる企業やお店が今や公式SNS(会員制交流サイト)アカウントを開設し、フォロワーや顧客とコミュニケーションしています。

 

しかし、SNSのアカウントだけあって、ほとんど運用できていない企業やお店もいっぱいあるはずです。

 

運用していたとしても社内に詳しい人・積極的な人が居ない場合も多く、自社のPRを何となく発信して終わりといったケースも少なくないと思います。

 

経営陣や意思決定者の構成によっては「SNS=炎上リスクがある」と社内で判断されるため、無難な内容の発信に担当者が終始してしまうケースも考えられます。

 

さらに言えば、HOKUROKUの公式SNSを私(副編集長の大坪)も担当しているので分かるのですが、運用は大変です。

 

商品やサービスの情報を日々投稿し、ユーモアやクリエイティブなコンテンツも時には織り交ぜて、多くのユーザーと交流するスキルが求められます。

 

多くの人が見るので良識ある内容・表現にも気遣いが必要です。

 

にもかかわらず、他の業務との兼任が求められるわけです。忙しさを言い訳に片手間で適当にやっていると、インプレッションの数・リツイートの数など数字的な部分は伸びません。

 

フォロワーの最前線に立ち正解がない中で孤軍奮闘する公式SNSの「中の人」たちは本当に大変だと思います。

 

そこで、企業の「中の人」としてSNSに実際に取り組み、顧客やファンとのコミュニケーションに成功している皆さんに、積み重ねてきた経験や知恵を教えていただければと思います。

 

多くの人から反応やフォローをもらえる、気にしてもらえる、いわば「愛される」SNSはどうすれば運用できるのか。

 

その内容を記事化して、大企業からまちの小さな飲食店まで、情報を発信し続ける公式SNS担当者の背中を押すコンテンツにしたいと思います。

 

HOKUROKUとしては同時に、情報発信が弱いと言われがちな地方の問題にもポジティブな影響を与え、北陸全体のSNSにおけるコミュニケーションスキルを向上させたいとの大きな野望も抱いています。

 

どうぞ皆さん、よろしくお願いします。

 

 

一同:よろしくお願いします。

 

―― ご存じの方も多い北陸の有名企業3社の「中の人」たちとインフルエンサーの方々が今回の参加メンバーです。それでは順番に紹介していきます。

参加者その1:チャンカレさん(チャンピオンカレー)

―― まずは「チャンカレ」の愛称で、石川の人には特におなじみ〈カレーのチャンピオン〉を展開する株式会社チャンピオンカレーのチャンカレさんです。

 

チャンピオンカレーさんは今年60周年の歴史を誇る老舗企業であり、金沢カレーの元祖とも言われる存在でありながら、新しいコミュニケーションツールであるSNSを積極的に運用されています。公式Twitter(現・X)のフォロワー数は7万人以上です。

 

キャンペーンなどもSNS上で積極的に仕掛けていて、多くが成功しているように私には見えました。そこで今回は、声を掛けさせてもらいました。

 

チャンカレさん

チャンカレ:はじめまして。チャンピオンカレーの公式SNS運用を担当しています。よろしくお願いします。

 

―― 背景までばっちり「チャンカレ」の店舗ですね。

 

チャンカレ:はい。これは、野々市(石川県)にある本店です。店内バージョンの背景もこれとは別にあります。

 

―― ありがとうございます。座談会で多くの方の顔が並ぶので、どこの会社の人がしゃべっているのか私的には非常に分かりやすいです。

 

なお、チャンカレさんの顔や名前は非公開ですので記事の公開時にはロゴで顔を伏せます。

参加者その2:ハチコさん(ハチバン)

―― 続きまして2人目。北陸人の「ソウルフード」といっても過言ではない〈8番らーめん〉を展開する株式会社ハチバンのハチコさんです。

 

ハチバンさんはHOKUROKUで以前取材させてもらった関係でもあります。

関連:漫画家ちさこ先生と考える。北陸にある「8番らーめん」の愛し方・愛され方

 

「8番」の本店で聞いた。野菜トマトらーめんの通な食べ方講座

 

新・テイクアウトの楽しみ。8番らーめんの「ちょい足し」レシピ

 

「HACHIBAN-RAMEN」がラーメンの呼び名になるくらい8番らーめんがタイで成功した話

SNS上でコミュニケーションを続けながらハチバンさんに取材後も注目していると、ユーザーとの距離感が絶妙だなと感じました。

 

HOKUROKUに関連したコメントをハチバンさんがSNS上で投稿するたびにHOKUROKUへの流入数が明らかに多くなります。

 

以上から考えてもハチバンさんはSNSを最も効果的に運用している北陸の企業の1つのはずです。この企画の座組に欠かせない専門家だと思い声を掛けさせてもらいました。

 

ハチコさん

ハチコ:はじめまして。8番らーめんのSNSを担当しています、ハチコです。今日はよろしくお願いします。

 

―― 背景も、しっかり8番らーめんですね。8番らーめんさんも担当者さんの顔は非公開ですので、8番らーめん公式キャラクター・ハチコとして参加してもらいます。

 

ハチコ:よろしくお願いします。

参加者その3:尾間俊雄さん(日の出屋製菓産業)

―― 最後は、米菓専門店〈ささら屋〉を全国展開し、富山のお土産の代表格である〈しろえびせんべい〉を製造・販売する、日の出屋製菓産業株式会社のSNS担当・尾間俊雄さんです。

 

富山県内に本社を置く企業アカウントの中で日の出屋製菓産業さんはトップクラスのフォロワー数を誇ります。

 

「チャンカレ」さんや8番らーめんさんと違い、実店舗での飲食体験も少ない中での実績ですから、お客さんとの接点を生む場のつくり方を聞ければと思っています。

 

日の出屋:はじめまして。日の出屋製菓産業のオンラインショップやSNS運用を担当している尾間と申します。よろしくお願いします。

 

―― 尾間さんには、中の人として唯一の顔出しOKをいただきました。ありがとうございます。

 

日の出屋製菓産業の尾間俊雄さん

日の出屋:今日は、楽しみにしていました。よろしくお願いします。

オブザーバーその1:みーもぐさん

―― 企業の方だけではありません。オブザーバーとして北陸のSNS事情に詳しい方々にもご参加いただいています。

 

〈Instagram〉や〈YouTube〉で富山のグルメ情報を発信しているみーもぐさんがまず1人です。

 

みーもぐさんと言えば、富山のグルメ系Instagramの中でトップクラスのフォロワーを誇ります。

 

みーもぐさん

みーもぐ:はじめまして。みーもぐです。今日は、よろしくお願いします。

 

―― みーもぐさんのプロフィールを確認しますと、メディアプランニングや編集者としてのキャリアを北陸の出版社で積んでこられたそうですね。プライベートではInstagramでグルメ情報を発信されています。現在のフォロワー数は2万9000人超です。

みーもぐさんのInstagramアカウント

https://www.instagram.com/miii_mogumogu/

現在は、出版社を退職され、InstagramやYouTubeで富山の飲食店を精力的に紹介されています。

 

みーもぐ:よろしくお願いします。

オブザーバーその2:高橋舞衣さん

―― 最後は、高橋舞衣さんです。ライターやSNS運用のアドバイザーとして北陸で活動されている専門家です。

 

高橋:こんにちは。高橋と申します。今日は、よろしくお願いします。

 

高橋舞衣さん

―― 高橋さんのプロフィールを確認しますと、富山のタウン誌〈Takt〉で編集長を経験した後に独立。県内外の媒体で執筆や編集をしながら、県内企業のSNS運用の代行サービスも現在は手掛けています。

 

SNS運用の代行サービスのご経験から今回の座談会では横断的な視点でご意見をいただければと思っております。よろしくお願いいたします。

 

高橋:どうぞ皆さん、よろしくお願いします。

 

一同:よろしくお願いします。

きっかけは「チャンカレクリスマス」

 

―― この豪華なメンバーと共に座談会に移ります。「公式SNSを運用する目的について」が最初のテーマです。

 

公式SNSアカウントを運用する目的は幾つかあると思います。売り上げのアップや市場ニーズのリサーチ・お客さまとのコミュニケーションなど。

 

あまりにも素朴な質問なので恐縮ですが、どのような背景や目的があって公式SNSを皆さんは運営しているのでしょうか?

 

チャンカレ:私からまず答えさせてもらいます。明確な目的がうちはあったわけじゃないんです。

 

「チャンカレ」の公式Twitter(現・X)の開設は2016年(平成28年)の11月です。きっかけは「クリスマスキャンペーン」です。Twitter(現・X)に関して言えば前任の担当者が居て僕は2代目なんです。

 

チャンカレの公式Twitter。

「クリスマスに独りぼっちでチャンカレに来てくれたお客さまへ無料でチキンレッグのトッピングをプレゼントする」という企画を当時の担当者が思い付きました。

 

チャンカレの公式〈Facebook〉は当時からありましたが「Facebookでこの企画をやるにはちょっと固すぎるだろう」と意見がありました。「じゃあ、Twitter(現・X)でやってみよう」と開設したんです。

 

当時のツイート

弊社は、そんなに大きな会社ではありません。SNS専門チームが居るわけでもありません。

 

お客さまからのダイレクトな声を頂く、あるいは売上や集客を最大化する広報ツールとして現在は運用していますが、公式Twitter(現・X)も平たく言えば、クリスマスの企画ありきで何となく開設しました。

 

―― なるほど。いきなり意外な話が出てきました。企画ありきで何となく開設したわけですね。そのスタート地点から現在の状況にどのように至ったのか気になります。

 

8番らーめんさんはいかがでしょう?

 

ハチコ:SNS運用の目的は大きく2つです。お客さまとのコミュニケーションとソーシャルリスニングです。

 

―― ソーシャルリスニングとは何でしたっけ? 

 

何となく記憶している限りで言うと、ソーシャルメディア、ブログ、掲示板、レビューサイトなどに発信された自社に関する情報を収集・分析してマーケティングに生かす活動だったと思うのですが。

 

ハチコ:おっしゃるとおりです。8番らーめんに来てくださったお客さまの反応はもちろん、投稿に対するコメントまでチェックして、お客さまの本音を聞かせていただいています。

 

8番らーめん公式Twitter

2015年(平成27年)から8番らーめんとしてはInstagramを運営しており、コミュニケーションもソーシャルリスニングもInstagramを中心にやっていました。

 

Twitter(現・X)の運用を本格的に始めたきっかけは新型コロナウイルス感染症の拡大です。2019年(令和元年)9月にアカウント自体は非公開で開設していたのですが運用はあまりしていませんでした。

 

―― アカウントはあったのに運用しなかったのはなぜですか?

 

ハチコ:単純に人員の問題です。「Twitter(現・X)もいつかはやらないとね」と部内で話していたのですが運用できる人が居ませんでした。

 

ただ、コロナ禍で来店数が減少し、今までとは違う戦略を考える必要が出てきたんです。ウェブやSNSをフル活用しようと会社の方針で決まりました。

 

Twitter(現・X)はその一環です。情報の拡散力が高いので、Twitter(現・X)で割引券を配布したり、キャンペーンを周知したりする目的で運用してみようと。

 

ただ、このTwitter(現・X)もこっそり私が開設していたアカウントでした。その非公式のアカウントが会社に見つかり、その縁で私が担当になって、2020年(令和2年)6月にゆるゆると運用し始めた形です。

 

―― え、じゃあ、もともとは、会社から非公認でつくったアカウントだったんですか?

 

ハチコ:そうなんです(笑)

 

アカウント開設にやましい思いがあったわけではもちろんありません。先に取得しておかないと取られてしまう恐れがあったので独断で取得していました。

 

ちなみに、Twitter(現・X)だけでなくInstagramも私が勝手に始めています。商品の写真をInstagramにアップしてもらう「投稿キャンペーン」が飲食業界に限らず、当時のマーケティングのトレンドでした。私もやってみたいなと思い実験的に始めました。

 

 
 
 
 
 
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8番らーめん公式Instagram

―― なるほど。序盤からユニークな話が出てきますね。日の出屋製菓さんはいかがでしょうか?

 

日の出屋:自社EC(電子商取引)サイトの運営業務を僕は主にやっているので、SNSを通じてお店を知ってもらい、ECサイトにアクセスしてもらう目的で運用しています。

 

SNS担当に僕がなった理由は、IT(情報技術)やSNSに慣れていると社内で思われていたからみたいです。8番らーめんさんと同じく、できる人が私しか居ない状態でした。

 

Twitter(現・X)に関しては入社時にすでにありましたが、とりあえず誰かがつくっただけで活用されずに放置されていたんです。

 

ただ、後で詳しくお話ししますが、Twitter(現・X)である企画を実施すると、フォロワー数が200人から6,000人以上に増えました。フォロワーさんとのコミュニケーションにもそれ以降は力を入れるようになり、SNS運用のメイン担当に今は私がなっています。

 

―― 200人から6,000人ですか。30倍ですよね。企画についても後ほど詳しく聞かせてください。それにしても、のっけから興味深い話の連続で驚いています。

 

何となく始めただとか、社員が個人で始めたアカウントがそのまま公式になっただとか、フォロワー数を30倍に伸ばした企画の存在だとか。

 

この先も楽しい話が聞けそうでワクワクしてきました。

 

編集長のコメント:こっそり開設していたアカウントが会社の目に留まり、ハチコさんが担当になって本格的に運用が始まったなんて確かにびっくりですね。

 

チャンカレさんも平たく言えば、クリスマスの企画ありきで何となくTwitter(現・X)を開設したと。このゆるさが「ちょっと北陸らしいな」と思いました。悪口ではもちろんありません。

 

日の出屋さんの「とりあえず誰かがつくっただけのSNSが活用されずに放置されていた」なんて「あれ、うちの会社だ」と思った北陸の人も少なくないはずです。

 

今でこそSNSを上手に活用する上述の企業ですらスタートは、どこも似たような状況だったわけです。キャッチアップできる可能性はまだまだ十分にあるはずです。

 

次の第2回では、SNSを運用する目的や意義について話が及びます。

 

参考にできる部分は必ずどこかにあるはず。ぜひ読み進めてください。)

ツイートした内容が他のユーザーに表示された(読まれた)回数。
企業やブランドの公式SNSの運用を通じて、組織の見せ方を意識しながら、仲間やファンを集め、事業の広がりを生むSNS担当者。
1994年(平成6年)生まれ、富山県高岡市出身。高専卒業後に20歳で株式会社シー・エー・ピーに入社し、24歳で月刊情報誌〈Takt〉の編集長に就任。26歳でフリーランスの編集者兼ライターとして独立。現在はフリーペーパーやパンフレットを中心に編集・執筆する他、個人商店・中小企業のPRや商品開発などにも携わる。好きなものはすし・日本酒・かき氷。
1989年(平成元年)生まれ、富山県黒部市出身。新卒から9年間、地元密着型のフリーペーパーを発行する出版社に勤務。2017年から富山のグルメ情報に特化したInstagramアカウントを開設。最初は趣味の食べ歩きの記録としてスタート。フォロワーにとって有益なアカウントを目指し投稿を重ね、現在は2万9000を超えるフォロワーが居る。2020年10月からフリーランスとして活動。企業のSNS運営サポート・ライター・YouTube配信を行っている。

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