2020年に「最も読まれた」HOKUROKUの特集
vol. 02
象徴的なコントラスト
全盛期の面谷鉱山の全景。写真提供: 大野市歴史博物館
2020年(令和2年)に〈HOKUROKU〉を創刊してから、多くの人に読んでもらった特集の第3位は「100年前のニュースに学ぶ。北陸3県の『スペイン風邪』365日」でした。
公開日は創刊から間もない6月8日。HOKUROKUの創刊自体が5月31日で、そのころはまさに新型コロナウイルス感染症の第1波が世界中を混乱させている時期でした。
そこで急きょ企画して差し込んだ特集です。
当初公開を予定して準備していた特集は「アラサーデビューしてみない? 踊るクラブ入門」。北陸の若者が「イエーイ!」とハイタッチしたくなるような内容でした。
北陸には考えてみれば若者が大声で騒げる場所が少ないと思います。
もちろん踊るクラブはあるとは思うのだけれど、どこにあるのか分かりません。場所が分かったとしても踊るクラブは行く勇気も出ないはずです。
ならばHOKUROKUが北陸3県のクラブオーナーに取材して、クラブまで手を引っ張ってくれる地元の「先輩」みたいな感じでクラブ入門の特集をつくろうと思っていました。
しかしクラブのような「密」な場所への出入りが社会的に「駄目」と言われるようになって、方向性を大きく変える必要が出てきました。
その代打としてバッターボックスに立った特集が「100年前のニュースに学ぶ。北陸3県の『スペイン風邪』365日」でした。
「資料を読み込んでいるうちに歴史上の人物が生き生きと動き始める」
この特集では「100年に一度」と言われる新型コロナウイルス感染症の拡大と向き合うために、100年前に流行したスペイン風邪の歴史を物語風にまとめました。
当時を知る人が生きていません。直接話を聞けないので100年前の〈大阪朝日新聞〉北陸版〈北國新聞〉〈北陸タイムス(現・北日本新聞)〉〈富山日報(現・北日本新聞)〉などの報道、さらに医師の手記や公的な文書を読み込みました。
歴史小説の大家である司馬遼太郎さんが「資料を読み込んでいるうちに歴史上の人物が生き生きと動き始める」的な発言をどこかでしていました。
司馬さんにははるかに及びませんが「ああ、こういう感覚か」と思うくらい、資料を読みあさるうちに100年前の北陸の暮らしが目の前に立ち上がり、名もない人たちの声が聞こえ始めました。
取材を通じて最も驚いたエピソードは福井県の大野市にある面谷鉱山の集団感染です。
福井の九頭竜湖近くにある面谷にはかつて鉱山があって、最盛期には鉱山に劇場があったくらいにぎわっていた場所。
その鉱山でクラスターが発生し「全滅の危機に瀕している」と当時の新聞で報じられるくらい集落から死者が出ました。
亡くなる人が多すぎて連日の火葬により建物が熱を持ち、火葬場の建屋が焼失したというエピソードも強烈でした。
これだけ悲劇が起きている中で、同じ時期に感染のピークを過ぎた福井市内の足羽川の河川敷きでは第一次世界大戦終結の祝賀で花火が打ち上がっています。
雪深い山奥の鉱山で死者が次々と出ている中、福井の都市部では朝から小学生が祝賀のためにまちを練り歩き、河川敷きでは花火が打ち上っている、この象徴的なコントラストが今でも鮮明に残っています。
北陸の人でも「面谷」という地名すら知らない人がほとんどのはずです。
悲劇の大きさに比べて認知度が低い現状を目の当たりにすると、前にHOKUROKUのアンケートにも答えてくれた坂本欣弘監督などが、この話を映画化してくれないかなと勝手に夢想してしまいます。
新型コロナウイルス感染症に直面する現代人にも何かしらの導きの糸になる情報が隠されているはずですから、定期的に読み返してみてくださいね。
(副編集長のコメント:次は第2位の発表です。2020年(令和2年)にHOKUROKUで最も読まれた特集の第1位と第2位は、わずかな差でした。
しかし第2位の方が数としては多くの読者に継続して読まれている点を考慮すると、早晩順位は逆転するかもしれません。
そんな輝かしい可能性を秘めた第2位の特集は、あの「有名人」が登場します。ぜひチェックしてみてくださいね。)
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