北陸がもっと好きになる。あの人の「本と映画と漫画」の話

2020.06.02

第3回

売り込む。踏み倒したら謝る。落ち込む。そしてまたつくる

〈古本いるふ〉の店内。撮影:柴佳安

暮らしの中で変化を強いられる毎日が続いています。

 

自己啓発本のように即効性はないけれど、人間の根っこの部分をゆっくりと育ててくれる・生きる力と勇気を与えてくれる本や映画や漫画をこんな時だからこそいかがですか?

 

株式会社コラレアルチザンジャパン・代表取締役にして建築家の山川智嗣さん、sky visual works inc.の代表にしてアートディレクター・グラフィックデザイナーのナミエミツヲさん、株式会社IMATO代表取締役の漁師・東海勝久さん、宝生流能楽師の佐野玄宜さん、保育士の堀京子さん、金沢の茶屋〈藤乃弥〉〈照葉〉のおかみ・吉川弥栄子さん、映画監督の坂本欣弘さんが、北陸をもっと好きになる本や映画や漫画を今回は紹介してくれます。

 

生きる力を養う名作がそろいました。ぜひチェックしてみてください。

「好きこそものの上手なれ」山川智嗣(株式会社コラレアルチザンジャパン・代表取締役)

藤子不二雄Ⓐ〈まんが道〉(少年画報社、小学館など)

「大学進学で上京した時に出合った作品です。富山県が生んだ有名漫画家・藤子・F・不二雄と藤子不二雄Ⓐの2人の成長ストーリー。

 

県外や海外で頑張る若き才能たちにぜひ読んで欲しい作品。勇気づけられます」

どんなお話?
“著者の自伝的長編作。藤子不二雄Ⓐと藤子・F・不二雄をモデルにしたふたりのマンガ少年が、デビューを果たして上京、トキワ荘というアパートで同世代の若いマンガ家たちと生活をともにしてプロへの道を歩む姿を感動的に描く。”(小学館クリエイティブのホームページより引用)

教えてくれた人

 

山川智嗣さん
「お抱え職人文化を再興する」職人と新たな価値を創造するデザイン事務所コラレアルチザンジャパン代表取締役。日本初の職人に弟子入りできる宿〈BED AND CRAFT〉のクリエイティブディレクター。〈HOKUROKU〉の特集「GNLの明石さん×BnCの山川夫妻と考える。『愛される場所』のつくり方」にも登場する。

作品名:まんが道
著者:藤子不二雄Ⓐ
出版社:少年画報社、小学館他

「日本を代表する作家の令和にも通ずる青春物語」ナミエミツヲ(sky visual works inc.・アートディレクター/グラフィックデザイナー)

藤子不二雄Ⓐ〈まんが道〉(中央公論社、小学館他)

「漫画好きな後輩から勧められました。

 

読んだ時は藤子不二雄のお2人が富山出身ということも意識せずに地方から上京した2人の話として読んでいました。

 

自分たちのことに必死で好きなことをやり続けたい2人と時を同じく生きる仲間たちの物語はたくさんの印象深いシーンを生み出しています。

 

みんなが知っているあの2人が富山で出会っていたなんて最高ですよね。

 

〈少年時代〉の原作のこともこの漫画で知りました。

 

作品を作って人に見てもらう。売り込む。踏み倒したら謝る。落ち込む。そしてまたつくる」

教えてくれた人

 

ナミエミツヲさん
広告制作会社勤務後、スカイビジュアルワークス設立。コンセプトの整理・C.I.・V.I・エディトリアル・パッケージ他、ブランディングにおけるアートディレクション・デザイン業務に関わる。2015年(平成27年)に心機一転、10年構えた恵比寿事務所を引払い富山へ。〈HOKUROKU〉の特集「あの人も愛用する。北陸・暮らしの「道具と日用品」(後編)」にも登場する。

「昔も今も変わらぬ田舎が富山にはある」東海勝久(株式会社IMATO代表取締役)

 

「少年時代」DVD発売中 発売元:小学館 販売元:東宝

篠田正浩監督〈少年時代〉(東宝)

「中学生のころ同級生と地元氷見の市民会館で上映された映画を見に行きました。

 

富山出身の藤子不二雄Ⓐが富山を題材としたストーリー。漫画・映画どれもいいから一度は見るべきと思います」

こんなお話
“漫画家の藤子不二雄Aが企画・制作し、自身の同名漫画と芥川賞作家・柏原兵三の小説「長い道」を原作にした意欲作。戦時下に疎開した少年たちを描いた群像劇。”(東宝のホームページより引用)

教えてくれた人

 

東海勝久さん
漁民として25年。今は網元として干物加工業者として日々勉強中! 魚を知ったからこその「新しいひもの屋」としても、もっか挑戦中! IMATO代表取締役。〈HOKUROKU〉の特集・ヒットメーカーの漁師さんが地域の魚から価値を生む「ブランディング」の方法。にも登場する。

作品名:少年時代
出演:風間静江・岩下志麻、他
原作:藤子不二雄Ⓐ・柏原兵三
監督:篠田正浩
製作:「少年時代」製作委員会
配給:東宝
公開:1990年(平成2年)

「北陸は能楽が大変盛んな土地柄。この本を読んで興味を持っていただけたら」佐野玄宜(宝生流能楽師)

世阿弥著・竹本幹夫訳注〈風姿花伝〉(角川ソフィア文庫)

「初めて世阿弥の〈風姿花伝〉を手に取ったのは大学に入ったころだったでしょうか。もちろんその名前は知っていましたし、能楽師として舞台にもすでに立ち始めていましたので一度読んでみようと思いました。

 

能楽師は師匠の下でけいこは受けますが勉強はしません。能の研究にも私は興味を持って大学・大学院で学びました。この角川ソフィア文庫の本は当時の恩師が訳注しており、刊行の際にお送りいただいたものです。

 

風姿花伝が日本にとどまらず翻訳されて海外の方にまで読まれている理由は、能楽論・芸術論として優れているだけでなく一般にも通じる普遍性も持っているからです。

 

年齢ごとに心得ておくべきこと・人の心をつかむために必要なこと・勝負で勝つために必要なことなどなど人の生き方やビジネスにも通じるポイントがたくさんあります。

 

最近だとジャパネットタカタの高田社長の愛読書として知られ、『社長がいつも話していることがこの本に全て載っています』とある社員が勧めたとのこと。

 

この本は少し学問的なところもありますが、現代語訳もありますので読みやすいと思います」 

こんなお話
“能の大成者・世阿弥が子のために書いた能楽論を、原文と脚注、現代語訳と評釈で読み解く。実践的な内容のみならず、幽玄の本質に迫る芸術論としての価値が高く、人生論としても秀逸。能作の書『三道』を併載”(KADOKAWAのホームページより引用)

教えてくれた人

 

佐野玄宜さん
1981年(昭和56年)生まれ。加賀宝生の流れをくむ宝生流能楽師・佐野由於の長男として4歳で初舞台を踏み、東京と北陸を中心に舞台活動を行う。これまでに〈石橋〉〈道成寺〉〈乱 和合〉を披演。東京・金沢・富山各地にけいこ場を持ち、趣味で楽しむ方向けに謡・仕舞の指導を行う。早稲田大学・学習院大学・椙山女学園大学で非常勤講師を勤める他各地で講演やワークショップを行い、能の魅力を伝えている。

作品名:風姿花伝
著者:世阿弥
訳注:竹本幹夫
出版社:角川学芸出版
出版年:2009年(平成21年)

「10年日記、私も書いてみようかな」堀京子(保育士)

宮下奈都〈田舎の紳士服店のモデルの妻〉(文藝春秋)

「宮下奈都が福井出身の作家とは以前から知っていて、最初の出合いは彼女のエッセイでした。この作品は彼女の小説になります。

 

作品中に『福井』という地名は出てきませんが、福井を知る人や子育て中のお母さんには共感できる部分が多々ある作品です」

こんなお話
“夫のため田舎に移り住んだ梨々子が妻、母、女として迷いながら進む日々を丁寧に綴る。注目の著者がすべての女性に贈る“私の物語””(文藝春秋のホームページより引用)

教えてくれた人

堀京子さん
今は保育士をしているが国文学科卒でもともと読書好き。ここ数年は仕事や子育てなどに追われ読書から遠ざかる日々を過ごしてきたが、最近やっと少しずつ読書の時間をつくっている。

作品名:田舎の紳士服店のモデルの妻
著者:宮下奈都
出版社:文藝春秋
出版年:2010年(平成22年)11月
定価:本体1,333円

「貴方(あなた)のお力で死花を咲かせてください」吉川弥栄子(〈藤乃弥〉〈照葉〉おかみ)

提供:マツダ映画社

入江たか子主演・溝口健二監督〈瀧の白糸〉(新興キネマ)

「若いころから泉鏡花先生の作品が好きでした。映画化されている中では〈義血侠血〉を原作にしたこの作品が好きです。

 

冒頭のシーンで流れてくるのは今もお座敷太鼓で最初にたたく〈竹に雀〉という曲です。

 

白黒ではありますが、太夫の衣装・年齢の設定からは驚くほどの深い恋愛と哀しみが胸を突きます」

こんなお話
“「瀧の白糸」と呼ばれる女芸人は、学問をあきらめようとしている苦学生の青年と出会い、彼のために仕送りを続けることを決意する。明治を舞台とした悲劇の物語”(岩手県立美術館のホームページより引用)

教えてくれた人

 

吉川弥栄子さん
ひがし茶屋街の元芸妓(げいぎ・げいこ)。現在はひがし茶屋街にあるお茶屋〈藤乃弥〉おかみ。もう1つのお店〈照葉〉は泉鏡花の照葉狂言から名付けた。〈HOKUROKU〉の特集「違いも歴史も知らないもので。実録・金沢『茶屋遊び』の作法。」にも登場する。

作品名:瀧の白糸
主演:入江たか子主演
原作:泉鏡花
監督:溝口健二
配給:新興キネマ
公開:1933年(昭和8年)

「絶望の先にある本当の幸せを見ました」坂本欣弘(映画監督)

※書影は原作版

塙幸成監督〈死にゆく妻との旅路〉(ゴー・シネマ)

「東京のバイト先で新聞を読んでいた時、富山での事件の記事を発見しました。

 

いつか自分がこの事件を映画化したいと強く思っていて映画を見て号泣しました」

こんなお話
“多額の借金を背負った久典(三浦友和)は大腸がん手術をしたばかりの妻ひとみ(石田ゆり子)を娘夫婦に預け金策に走る。だが3ヶ月走り回って成果はゼロ。もう一時も離れたくないという妻の願いを受け入れた彼は、50万円を手に旅に出る。”(日本映画データベースより引用)

教えてくれた人

 

坂本欣弘さん
1986年(昭和61年)生まれ富山県出身。大学在学中に映画監督の岩井俊二が主宰する〈play works〉にシナリオの陪審員として参加。その後は冨樫森や呉美保らの下で助監督として活動。監督作には〈真白の恋〉〈もみの家〉がある。

作品名:死にゆく妻との旅路
出演:三浦友和、石田ゆり子、他
原作:清水久典
監督:塙幸成
公開:2011年(平成23年)
配給:ゴー・シネマ

編集長のコメント:「暮らしとロングライフデザイン」に関する本と映画と漫画を次は紹介します。)

 

※クレジットが記載されていない書影についてはデータベース登録済みの書影を使っています。

 
 

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