実録・金沢「茶屋遊び」の作法。三茶屋街の違いも歴史も知らない初心者なもので
vol. 03
「たけす」ができれば経済人の仲間入り
お座敷太鼓の演奏では、大きな釣太鼓・小さな締太鼓をたたきます。バチを固く握り、スナップを効かせず、ひじから先を固定したまま動かします。
挑戦した曲目は〈竹に雀(すずめ)〉、通称「たけす」でした。お座敷太鼓の基本が「たけす」には詰まっているそうで、演奏できれば、他の曲の演奏にも応用できるのだそう。
リズムを口で表現するとこのような感じです。
どんどんつくつくどん
「おーや※」
どんどんつくつくどん
「おーや」
どんつくどんつくどん、つくつっつ
「はっ※」
どーつく、どんつくつっつ
※掛け声
このリズムを繰り返します。
あらためて動画を見直してみました。途中からすっと入ってくる小千代さんの三味線の響き、いいですよね。
Yさんいわく「たけすができれば金沢の経済人の仲間入りです」との話。YさんとKさんも私の後にたたきました。さすがの腕前です。
お座敷でお酒を飲んで太鼓をたたき、不器用な一面をさらし合えば、お互いの距離が気が付くと縮まっていきます。
打ち解けた気にようやくなれたので、お座敷遊びの流れやルール・マナーについてあらためて皆さんに聞いてみました。
ピザやサンドイッチがお座敷に並ぶ夜も
―― それではここで、インタビューさせてもらいます。あらためて、よろしくお願いします。いきなり素朴な質問なのですが、お座敷遊びってそもそも、どのくらいの時間やるのですか?
吉川:だいたい1座敷、2時間から2時間半くらいが多いですね。今日のような19時スタートは割と早めの方で、二次会として、20〜21時くらいのスタートが多いです。
―― 繁忙期はあったりするのですか?
吉川:繁忙期は、1月のお正月ごろです。12月は逆に割と空いています。
一番奥が、おかみの弥栄子さん。この日の食事は、お酒と簡単なおつまみがメイン
―― 食事は、どのようなスタイルになっているのでしょうか?
吉川:食事を取る場合と取らない場合とが座敷によってあります。金沢のお茶屋では基本的に、料理をつくって提供しません。仕出し屋12さんや近隣の飲食店さんに出前を頼みます。ですから、和食に限らず、サンドイッチやピザが並ぶ日もありますよ。
―― ピザやサンドイッチもお座敷に出るのですね。驚きです。
ちょっと聞きにくい質問なのですが、茶屋街はやはり、全体的に「一見さん」はお断りなのでしょうか?
吉川:おっしゃるとおりです。というのも、茶屋遊びの当日には皆さまに優雅に楽しんでいただきたいのでいったんお茶屋が費用を建て替えます。言い換えると、請求書を後日お送りする後払いとなっています。その仕組みがあるために「一見さん」は基本的にはお断りしています。
―― 「一見さん」の場合は支払いの保証がないので紹介者が居て初めて利用できるという話なのですね。
吉川:とはいえ紹介者は、個人の友人に限りません。例えば、ホテル・料亭・旅館さんからの紹介でもオッケーです。こちらの方が旅の方は気軽でお勧めかもしれません。
小千代:お茶屋さんに限らず他の業種も後払いが昔は多かったです。何においても「後ほど」の社会でした。お金に頓着しない姿が美徳でもありましたし、それぞれの信用で経済が成り立っていたのです。
―― そう言われると〈サザエさん〉に出てくる酒屋の三河屋さんとかもそうだったような気がします。「後ほど」の方が昔は多かったのですね。勉強になります。
茶屋遊びの「お会計」はどれくらい?
―― さらに、すごく聞きづらい質問が続きますが読者を代表してぶしつけにも聞かせていただきます。
吉川:はい。
―― 料金は、幾らぐらい掛かるんでしょうか.?
吉川:芸妓さんの人数やお客さまの人数にもよるのですが、芸妓さん1人がお座敷に2時間居た場合だと3万5千円ほどです。
―― 1人当たりですか?
吉川:いえ。お客さま10名のご利用だとすれば席料やお飲み物代でお1人当たり1万円ほどではないでしょうか。芸妓さんが2人、お客さまが10名の場合は、17万円ほどを10名で割るイメージです。
―― 今日のように3名の利用は一般的でしょうか。
吉川:人数としては少ない方です。〈藤乃弥〉だと、最大20名さまくらいまでお座敷に入れます。一番快適な人数はうちの場合8名さまほどでしょうか。
―― ものすごく高額なイメージがあったのですが、変な言い方ですけれど、大人数であれば人の数で割れるので普通の人でも楽しめる金額に収まるのですね。
ちなみに、こうして一度私は来させてもらいました。これでもう「一見さん」ではなくなっているのでしょうか?
吉川:はい。
―― 「あの時、Yさんと一緒にお邪魔した大坪です」みたいな話を電話ですればいいのでしょうか?
吉川:はい。基本的には電話でうけたまわっておりますがメールでのご連絡も最近はあります。当日の予約も大丈夫です。昼ぐらいまでにお電話いただいて空きがあれば対応が可能です。
―― 予約の電話を入れる時には何を聞かれるのですか?
吉川:ご利用の目的・ご利用者の人数・お料理の内容・芸妓さんのリクエストの有無などを確認しております。そのご要望を受けて、見番13に連絡して芸妓さんと料理の手配を致します。
―― お座敷には何分前から入れるのでしょうか?
吉川:大体30分前に上がれるお茶屋さんが多いと思います。上がったら、芸妓さんとの会話や芸事を気軽に楽しんでいただければと思います。実際に初めて来られていかがですか?
―― 最初はすごく緊張しました。しかし、芸妓さんのお話とお酒の力、さらには太鼓の演奏で、すごく打ち解けられた気がします。
(編集長のコメント:ちょっとずつ取材者の言動も文体もほぐれてきましたね。動画の雰囲気では、文体から受ける印象以上に、もっと盛り上がっていたと分かるはずです。
個人的には、後払いの方が昔は多かったという小千代さんの話を小粋に感じました。落語の世界でも確かに、言われてみると、月末にまとめて付け払いするシーンがよく出てきます。
今では、社会のシステムが極端に合理化されているため、コンビニエンスストアの店員さんなどは取り換え可能な「風景」の一部みたいな感じになってしまっています。
でも、ここまでなってしまうと逆に、かつて存在した、お店の人と利用者の親しい関係性に憧れてしまいます。少なくとも私は。
さて次は、第4回。茶屋街にまつわる謎・うわさ・都市伝説についてインタビューが続きます。)
13 見番(検番)はお茶屋と置屋の橋渡しをする場所。芸妓のスケジュール管理や事務処理、調整などを一手に引き受けており、建物は芸妓たちのけいこ場としても利用される。
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