実録・金沢「茶屋遊び」の作法。三茶屋街の違いも歴史も知らない初心者なもので

2020.06.25

vol. 04

「ホーム」を決めたら浮気しない

取材後に二次会へ向かう様子。詳細は第5話で

 

―― 引き続き質問させてもらいます。お座敷の予約はやはり夜だけですよね?

 

吉川:必ずしも夜に限りません。芸妓(げいぎ・げいこ)さんの都合がつくようなら昼でも大丈夫です。ここは、お茶屋のおかみの判断ですね。

 

―― 〈藤乃弥〉さんには1階にバーがありました。芸妓さんとバーでお酒を飲むといった楽しみ方も可能なのですか?

 

吉川:はい。お座敷を上げる14ほどではないけれどお酒を飲みながら芸妓と話したいといった場合にはカウンターがお勧めです。

 

―― カウンターの場合は「一見さん」でもオッケーですか?

 

吉川:カウンターであっても「一見さん」はお断りしております。まずは、どなたかと一緒にお越しいただいたり、旅の人であれば、ホテルや料亭に紹介をもらったりしていただければと思います。

金沢に舞妓(まいこ)は居ない

 

―― ちょっと話がそれますが、小千代さんも唐子さんも芸妓さんですよね。舞妓さんも所属しているのですか?

 

吉川:舞妓さんは金沢に居ません。舞妓さんは、芸妓さんになる前の見習いの立場を言います。この見習い期間を「舞妓」と呼ぶ地域は京都だけです。

 

―― 全く知りませんでした。

 

吉川:金沢では修行期間の立場を「仕込みさん15」と呼びます。半年ほどの仕込みの期間を経て芸妓としてデビューします。お座敷に出られる年齢は18歳からです。

 

―― 仕込みさんにはたくさん応募があるのですか?

 

吉川:県外から芸妓になりたいと来る子は下宿代・けいこ代・生活費・支度金も必要です。初期の負担は結構大きな額になります。

 

それでも毎年のように新人さんは来てくれます。おけいこもなかなか厳しいですし環境に合わないストレスなどで1カ月ほどで辞めてしまう子も居ます。

 

ただ、けいこを積み1人の芸妓としてお座敷デビューする際には市長さんがお祝いしてくださったり、新聞社さんが取り上げてくださったりします。

 

―― 金沢のまち中が1人の芸妓の誕生を祝福しているのですね。金沢らしいと思います。

茶屋遊びの敷居は意外に低い

 

―― お茶屋さんのルールやタブーを教えてください。

 

吉川: お茶屋さんって敷居が高く見られがちなのですが、そこまで厳格なルールはありません。

 

―― ドレスコードとかないのですか?

 

吉川:ありません。畳のへりを踏んではいけないわけでもありません(笑)お客さまに楽しんでもらうための場所なので。

 

―― ですが、強いて言えば、あえて言えばこんなルールがあるという点を教えていただけないでしょうか?

 

吉川:そうですね。強いて言うのであれば「自分のホームのお茶屋さんを決める」でしょうか。ひがし・にし・主計(かずえ)町、それぞれの茶屋街に1つずつ窓口となるお茶屋を決める必要があります。

 

―― とても興味深いです。

 

吉川:例えば、ひがし茶屋街で藤乃弥をメインで使うと決めた場合は藤乃弥以外のお茶屋でお座敷を上げてはいけません。

 

―― はい。

 

吉川:お座敷ではなく料理屋さんに芸妓さんを呼びたい時や別のお茶屋さんの芸妓さんを呼びたい場合であっても窓口となるお茶屋さんに連絡するのがルールです。このルールは、京都の花街16でも同じですね。

 

小千代:あとはむやみやたらに芸妓さんの着物や体に触ったりしないことでしょうか。これは、お茶屋のルールというより社会のルールかもしれません。

 

―― とても勉強になります。

 

編集長のコメント:「お茶屋のルールというよりも社会のルール」という言葉、響きました。第5回は芸妓さん・常連Yさん・Kさんへのインタビューと二次会・三次会の話題に続きます。)

14 自分が呼び掛け人となってお茶屋の座敷を利用する行為。「座敷をかける」とも言う。
15 京都の場合、舞妓のさらに前の修行期間を「仕込み」と呼ぶ。
16 花街(はなまち、かがい)は芸妓たちが活動する地域を言う。金沢では茶屋街(チャヤガイ)、その他の地域では芸者町(げいしゃまち)や花柳界(カリュウカイ)と呼ばれる場合も。

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