実録・北陸人のための金沢「茶屋遊び」入門。
vol. 04
自分のホームを決めたら、浮気しない。
大坪:引き続き、質問させてもらいます。お座敷の予約は、やはり夜だけですよね?
吉川:ご利用は必ずしも夜に限りません。芸妓(げいぎ・げいこ)さんの都合がつくようなら、昼でも大丈夫です。ここはお茶屋のおかみの判断ですね。
大坪:<藤乃弥>さんには、1階にバーがありましたが、バーで芸妓さんとお酒を飲むといった楽しみ方も可能なのですか?
吉川:はい。「1人なのでお座敷を上げる14ほどではないけれど、お酒を飲みながら芸妓とお話したい」といった場合には、カウンターがお勧めです。
大坪:カウンターの場合は、一見さんでもオッケーですか?
吉川:カウンターであっても、一見さんはお断りしております。まずはどなたかと一緒にお越しいただいたり、旅の人であればホテルや料亭に紹介をもらったりしていただければと思います。
金沢に舞妓(まいこ)は居ない。
大坪:ちょっと話がそれますが、小千代さんも、唐子さんも、芸妓さんですよね。舞妓さんも所属しているのですか?
吉川:舞妓さんは金沢には居ません。舞妓さんは芸妓さんになる前の見習いの立場を言います。この見習い期間を「舞妓」と呼ぶ地域は、実は京都だけなのです。
大坪:全く知りませんでした。
吉川:金沢では修行期間の立場を「仕込みさん15」と呼びます。半年ほどの仕込みの期間を経て、芸妓としてデビューします。お座敷に出られる年齢は、18歳からです。
大坪:仕込みさんは、たくさん応募があるのですか?
吉川:県外から芸妓になりたいと来る子は、下宿代やけいこ代、生活費に、支度金も必要です。初期の負担は結構大きな額になります。
それでも、毎年のように新人さんは来てくれます。おけいこもなかなか厳しいですし、環境に合わないストレスなどで、1カ月ほどで辞めてしまう子も居ます。
ただ、けいこを積み、1人の芸妓としてお座敷デビューする際には、市長さんがお祝いしてくださったり、新聞社さんが取り上げてくださったりします。
大坪:金沢のまち中が、1人の芸妓の誕生を祝福しているのですね。金沢らしいと思います。
茶屋遊びの敷居は実は低い。
大坪:お茶屋さんのルールやタブーを教えてください。
吉川: お茶屋さんって敷居が高く見られがちなのですが、実はそこまで厳格なルールはありません。
大坪:ドレスコードとかないのですか?
吉川:ありません。畳のへりを踏んではいけないわけでもありません(笑)やはりお客様に楽しんでもらうための場所なので。
大坪:ですが、強いて言えば、あえて言えば、こんなルールがあるという点を教えていただけないでしょうか?
吉川:そうですね。強いて言うのであれば、「自分のホームのお茶屋さんを決める」でしょうか。ひがし、にし、主計(かずえ)町、それぞれの茶屋街に1つずつ窓口となるお茶屋を決める必要があります。
大坪:とても興味深いです。
吉川:例えば、ひがし茶屋街で<藤乃弥>をメインで使うと決めた場合は、藤乃弥以外のお茶屋でお座敷を上げてはいけません。
大坪:はい。
吉川:お座敷ではなく、料理屋さんに芸妓さんを呼びたい時や、別のお茶屋さんの芸妓さんを呼びたい場合であっても、窓口となるお茶屋さんに連絡するのがルールです。このルールは京都の花街16でも同じですね。
小千代:あとは、むやみやたらに芸妓さんの着物や体に触ったりしないことでしょうか。これはお茶屋のルールというよりは、社会のルールかもしれません。
大坪:とても勉強になります。
(編集長のコメント:「お茶屋のルールというよりも、社会のルール」という言葉、響きました。それでは第5回、今度は芸妓さん、常連Yさん、Kさんへのインタビューと、二次会、三次会の話題に続きます。)
15 京都の場合、舞妓のさらに前の修行期間を「仕込み」と呼ぶ。
16 花街(はなまち、かがい)は芸妓たちが活動する地域を言う。金沢では茶屋街(チャヤガイ)、その他の地域では芸者町(げいしゃまち)や花柳界(カリュウカイ)と呼ばれる場合も。
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