発酵の知識は〈もやしもん〉で読んだくらい
はじめに
〈HOKUROKU〉ウェブディレクターの武井靖です。
突然ですが「発酵」と言ったらどんな食べ物や飲み物、文化をイメージしますか。
人並みに普段から料理する私・武井としては、みそ、しょうゆ、みりん、酢などの発酵調味料を真っ先にイメージします。
晩酌には日本酒を飲み、朝ご飯では納豆を食べてるので、日本酒、納豆なども思い浮かびます。
他には、漫画〈もやしもん1〉で読んで得た知識でしょうか。もやしもんとは、空気中の菌が見えるというちょっと特殊な学生がゼミの仲間や教授と醸造や発酵について学んでいく物語です。
こんな変わった漫画を好んで読んでいたのですから、身近な発酵食品に関する興味は潜在的にあったのだと思います。
しかし、それ以外に何か知識があるかと言えば、そうでもありません。
そんな私が、福井県の鯖江市や越前市などで毎年開催される工房見学イベント〈RENEW〉で「発酵デザイナー」の小倉ヒラクさん(以下ヒラクさん)とばったり再会する出来事が先日ありました。
もともと、昨年のRENEWで、主催者でありデザイナーの新山直広さんからヒラクさんを紹介してもらった経緯があります。
ヒラクさんは、早稲田大学(東京)で文化人類学を学んだ後、デザイナーとして活躍する中で、東京農業大学の研究生となり、発酵を学び始めます。
その後、47都道府県の超ローカルな発酵文化を巡り、発酵文化の伝道師として海外でも活動してきました。
最近では〈渋谷ヒカリエ2〉でキュレーター3を務めた発酵文化の展示会を大盛況の下で開催したり〈発酵デパートメント4〉を東京にオープンしたりと、発酵文化の継承・発展に寄与する方です。
肩書きの通り、発酵文化をデザインされている方と言えますね。
そんなヒラクさんがキュレーション5した展示会〈発酵ツーリズムにっぽん/ほくりく〉を、福井県あわら市にある〈金津創作の森美術館〉まで私は先日見に行きました。
展示を楽しんだ後は、せっかく福井へ来たので、同じ時期に開催されていたRENEWへも行こうと思い、メイン会場へ移動しました。
すると、びっくり仰天、発酵ツーリズムにっぽん/ほくりくを手掛けたヒラクさんご本人とばったり再会したのです。
予期せぬ再会を喜びながらお話させてもらう中で、
「武井さん。明日から、発酵ツーリズムにっぽん/ほくりくに絡んだインバウンド発酵ツアーをするのですが、同行取材しませんか?」
とお誘いを受けました。
「北陸発酵インバウンドツアー」とは、飲食業界で働く外国人ツアー客と一緒に3日間掛けて北陸各県の発酵文化を見て周るツアーです。
そのプログラム初日のスタートにおいて、発酵ツーリズムにっぽん/ほくりくの展示解説をヒラクさんご本人から受けられるらしいのです。
言い換えれば、ヒラクさんの解説付きで、先ほど訪れた展示会をあらためて巡るチャンスが不意に到来したわけです。
しかし内心は、
「え……」
と、しり込み状態でした。何しろ、私の発酵に関する知識量は先ほど書いたとおり、もやしもんで読んだくらいで終わっています。外国人向けツアーの取材となれば英語力も必要かもしれません。
撮影用の一眼レフカメラもその時は持っていませんでしたし、編集長のように取材慣れもしていません。
「ついさっき見に行ってきたんですよ」
「全く取材の準備していないんですが」
「スマホのカメラで撮影になるんですが」
など、断る言い訳が幾つも浮かんだのですが、この機会を逃したらチャンスはないかもしれません。
〈HOKUROKU〉編集長あてにチャットで状況をシェアすると、
「いいねー。取材よろしくー」
みたいなのんきな返信がすぐにあったので、気持ちを切り替え、思い切って同行させてもらいました。
飲食業界のトップランナーが23名も集まった
〈発酵ツーリズムにっぽん/ほくりく〉展の会場。金津創作の森美術館 アートコアにて。休館日は月曜日。観覧料は一般1,000円、中学・高校生は600円、65歳以上・障がい者は各半額。小学生以下、障がい者の介護者(当該障がい者1人につき1人)は無料。詳細は公式ホームページを
ただ、インバウンドツアーに参加するにあたって、素朴な疑問もありました。
新型コロナウイルス感染症に関係した入国者数の上限がそのころはすでに撤廃されていたとは思いますが、外国人観光客をまだまだ北陸で見ない時期に、外国人が大挙してなんで来たのでしょう?
聞けば、サンジェイ・インターナショナル(SAN-J)とヒラクさんがインバウンドツアーを企画したからなのだとか。
サンジェイ・インターナショナル(SAN-J)とは、三重県にあるサンジルシ醸造株式会社6のアメリカ法人として設立された歴史を持ち、アメリカだけではなくヨーロッパ市場でも現在は商品を販売しています。
そのサンジェイ・インターナショナル(SAN-J)が参加者を募ったインバウンドツアーは3日間の行程で開催され、具体的な日程とコースは次のとおりでした。
1日目(福井):金津創作の森美術館の展覧会・ESHIKOTO(黒龍酒造)・米五 ・常山酒造
2日目(石川): ヤマト醤油味噌・四十萬谷本舗・福光屋
3日目(富山):山元醸造・SAYS FARM・柿太水産
このプログラムの初日の最初に、金津創作の森美術館で開催中の発酵ツーリズムにっぽん/ほくりくの展示解説が、ヒラクさんご本人によって行われるわけです。
航空券なしで25万円ほどの旅行商品みたいですが、SNS(会員制交流サイト)の事前募集のみでなんと3時間で定員に達し、飲食業界に身を置くトップランナーたちが23名も集まったとの話です。
さらに、参加メンバーを詳しく聞くと、取材慣れしていない私は余計に緊張してしまいました。
ミシュラン星持ちレストランのシェフだとか、フードライターだとか、酒類メーカーの人だとか、海外で独自にみそをつくっている職人だとか、飲食業を営む経営者などなど。
例えば、みそ・しょうゆを海外で製造・販売している職人さんは、ご自分でつくられたサンプルを持ってきて、視察先の職人たちに食べてもらって意見を聞いてました。
この熱量、すごいですよね。
そこで、今回の特集では、アメリカとカナダ在住の外国人23名の参加者を3日間にわたって北陸各地の発酵文化施設に連れ回すインバウンドツアーの最初の訪問先(発酵ツーリズムにっぽん/ほくりく)で聞いた、発酵文化に関するレクチャーを紹介します。
特集を組んでまで伝えたいと思った理由は、身近すぎて見過ごしてきた発酵食品にこそ、北陸の文化と魅力が意外にもいっぱい詰まっていると感じたからです。
発酵という切り口は北陸の地域性にすごく適していて、食の魅力を内外に伝える際には、とても大事な視点になってくると感じました。
北陸の地域性を考えると、発酵食品の存在は触れずにはいられないと言えばいいでしょうか。
ツアー当日のヒラクさんは、参加者をガイドしたり、あっちで質問に答えたり、こっちで展示品を解説したりと大忙しでした。私に構っている時間などなかなかありません。
しかし、あちらこちらで語るヒラクさんの言葉に聞き耳を立て、息抜き的に私の下にやってきてくれるヒラクさんに質問をぶつけるなどして、北陸に暮らす人たちに役立つ情報を集めてきました。
ヒラクさんの言葉の数々は、身近な暮らしを北陸の人が面白がる、あるいは、北陸の外に暮らす人に北陸の文化や魅力を伝える際のヒントになると思います。
ツアー参加者の一員として一緒に館内を歩いているイメージで読んでみてくださいね。
こんな感じで会場はレイアウトされています。参考までに。
(編集長のコメント:「海外から集まったツアー客に会えたのだからいっぱい話した?」と武井に聞いたら「全然(話していない)」との答えが返ってきました。
まあ、IT系の開発用語以外は英語が得意じゃないだろうし、丸腰で不意に同行取材したわけですから仕方ないかもしれません。
ただ、発酵文化に魅了される海外グルメ業界の要人たちが、何を語り、何に関心を持ったのか、自分の持ち場でどんな形にして発酵文化を表現しようと感じたのか、すごく気になりました。
現に、食と発酵に興味のある海外のスペシャリストが集まっただけあって、前のめりな質問がツアー中は飛び交い、ほとんどの視察先においてスケジュールが押したのだとか。
それにしても、SNSでの事前募集だけで3時間で定員に達し、飲食業界に身を置くトップランナーたちが23人が集まったなんて、すごいですね。各県の観光行政に携わる人も大いに学んだ方が良さそうです。
もしも、同様のツアーが次回開催されるとなった時は、関係者の皆さん、武井だけでなくぜひ私も呼んでください。ずるいぞ、武井。
という感じで第2回は、そのツアーの様子を紹介しつつ発酵文化の学びをスタートします。)
2 ショップ・カフェ&レストラン・イベントホール・カンファレンス・東急シアターオーブ・オフィスからなる渋谷駅(東京)直結の複合施設
3 何らかの情報を、特定の視点を通じて収集・選別・編集し、新しい価値を持たせる人
4 「世界の発酵みんな集まれ!」を合言葉に、ユニークな発酵食品・食材やお酒などをそろえる。発酵デザイナーの小倉ヒラクがオーナーを務める。
5 何らかの情報を、特定の視点を通じて収集・選別・編集し、新しい価値を持たせる活動
6 創業は1804年(文化元年)本社を三重県桑名市に置く日本の食品メーカー。
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