地域の魅力と出合うには「発酵食品」との出合いが近道だという話

2022.11.24

第2回

麹(こうじ)をまずは理解する

おにゅうくんというキャラクターの帽子をかぶって展覧会を周るインバウンドツアー参加者たち

 

(インバウンドツアー参加者と共に展示会場内を巡りながら、小倉ヒラクさんに武井があれこれ質問をしていく、そんな構成で今回から情報を伝えていきます。

 

本展は、大きなフロアを3つに分割した展示エリアに、それぞれ展示物が並んでいます。

 

出入り口から近い順に、全国の発酵文化→北陸の発酵文化→発酵の科学と分かれています。

 

まずは、会場の出入り口から見て最も手前に展示される全国の発酵文化のエリアから見ていきます。)

 

 

―― まずは、全国の発酵文化から見学スタートですね。皆さん、いよいよって感じで、少し興奮気味に雑談しています。ふわふわした雰囲気ですね。

 

ヒラク:とりあえず最初に、武井さんもこの帽子をかぶってください。

 

―― なんですか? この帽子は?

 

 

ヒラク:色は、赤と青の2種類があります。

 

―― 皆さん、喜んでかぶっていらっしゃる。かわいいですね! 一般の来場者も目立ちますから、ツアーの参加者と他の来場者との見分けも一目瞭然(りょうぜん)で分かりやすいです。

 

ヒラク:ありがとうございます。それでは早速行きましょう。

 

 

―― まず、この展覧会の大まかな全体像を教えてください。

 

ヒラク:この展覧会は、以下の3つのエリアで構成されています。

  1. 全国の発酵文化
  2. 北陸の発酵文化
  3. 発酵の科学(酵素の働き)

北陸の発酵文化を見る前に、全国の発酵文化を大まかにまずは見ていきましょう。

 

(会場内には、テーブル1つ分くらいの展示台がたくさん並んでいる。そのうちの麹コーナーに小倉ヒラクさんは武井と向かう。)

 

 

ヒラク:まず、武井さん。日本の発酵文化を考える際に、ぜひ覚えてもらいたい前提知識があります。日本を含めたアジアとヨーロッパにおける発酵食品の発酵原理の違いです。

 

ヨーロッパの発酵は、乳酸菌や酵母など、比較的仕組みがシンプルです。

 

しかし、アジアの場合は気候が違い、生息する微生物も数が多いので、味もバリエーションも複雑です。科学的にも分類しづらく、学問としてはよく分かっていない部分も多々あります。

 

―― 分かっていない部分もあるのですね。意外です。

 

ヒラク:ただ、アジア的発酵文化は麹(こうじ)の存在を理解すると分かりやすくなります。

 

米麹(こうじ)

 

―― 麹(こうじ)と聞いて、このツアーに参加した外国の方々は、どのくらいの知識を持っているのでしょうか。

 

そもそも、日本人の私ですら、よく聞くけれどはっきりと正体が分かりません。

 

ヒラク:麹(こうじ)とは毒性の無いカビです。二ホンコウジカビという名前もあります。

 

この麹菌が媒介となって、いろいろな菌を呼び込み、非常に複雑な発酵が行われます。

 

発酵の過程で、特徴的なうま味をつくったり、まろやかな甘みをつくったりするので、日本の発酵文化の大きな特徴となっています。

 

―― 麹(こうじ)ってカビなんですね。

 

(小倉ヒラクさんが、展示されていた米麹の容器を手に取り、見せてくれる。)

 

ヒラク:現物を見ればもっとイメージしやすいと思います。例えばこれは、お米に付着して繁殖した麹菌になります。

 

再掲。麹菌とは、もともと稲に住み着く、毒のないスペシャルなカビ。発酵の過程で、グルタミン酸(必須アミノ酸)などのうま味をつくり、グルコース(ブドウ糖)などの甘みを生む。麹菌がつくるアミノ酸やグルコースは、他の発酵菌の栄養にもなるため、他の良い微生物を呼び込み、発酵の「バトンリレー」を引き起こす

 

―― なんか、モコモコしています。

 

ヒラク:穀物に麹菌がくっ付いてモコモコ発酵した食材を麹(こうじ)と呼びます。

 

―― ああ、そうか。米も穀物なので、米に麹菌がくっ付いて発酵した食材を、もしかすると米麹と呼ぶのですか?

 

ヒラク:おっしゃるとおりです。

 

―― 穀物に麹菌がくっ付いて麹(こうじ)になるから、米麹とか、豆麹とか、麦麹とか「穀物 × 麹」という呼び方が幾つも存在するのだと。

 

ちょっとこれは賢くなれた気がしますね(笑)

 

ヒラク:そうですよね(笑)

 

しかも、麹菌が発酵させた後の食材には、乳酸菌や酵母など他の微生物にとっても住みやすい環境になり、発酵の「バトンリレー」が起こりやすくなります。

 

この麹菌を、日本の発酵の基礎にして、さまざまな発酵食品がつくられていくのです。

 

例えば、シンプルな原料(大豆)のみそに複雑な味わいが生まれる理由は、麹菌による大豆の発酵によって、他の微生物にも住みやすい環境が生まれからです。

 

結果として、発酵の「バトンリレー」が起きて、あの味になるのです。

発酵食品のルーツをさかのぼれば土地の記憶や人々の知恵を感じられる

―― 麹菌を発酵の基礎にしながら、さまざまな発酵食品がつくられるとの話がありましたが、すごく基本的な質問をしてもいいですか?

 

そもそも日本にはどのくらいの発酵食品が存在するのでしょう。

 

ヒラク:数は断定できません。しかし、日本の伝統的な発酵食品は、

 

調味料

漬物

その他(納豆・発酵茶など)

 

に分類が可能です。ヨーグルトやチーズ、パンなども中央アジア以西の発酵食品ですが、あくまでも日本の発酵文化の分類として、この4つに分類できると思ってください。

 

その上で最近は、リサーチやフィールドワークの一環として、不思議な発酵食品を日本各地で集めています。

47都道府県から集めた発酵食品を一堂に会したコーナーがあるので、こちらを見ていきましょう。

(小倉ヒラクさんの後を追い、全国の発酵エリアにある都道府県別の展示へ武井は向かう。)

 

47都道府県から集めた発酵食品の展示

 

―― ツアー客の皆さんも一般のお客さんも、すごく楽しそうに展示物を見ていますね。

 

さっき一度、自分で来て見た時も、

 

「こんなにたくさんあるんだ」

 

と、全国の発酵食品の多彩さにびっくりさせられました。

 

(小倉ヒラクさんは、壁面に張り出された〈ローカル発酵食品マップ〉を武井に見せる。)

 

会場内には、各都道府県を代表する発酵食品の一覧マップも掲示されている。山形の発酵食品はハタハタで、料理の「さしすせそ」の「さ」が同県では酒、「し」がしょっつる、「す」がハタハタずしになっているなど補足の解説も充実していた

 

ヒラク:武井さんは埼玉出身ですよね。埼玉の発酵食品と言えば何を思い浮かべますか?

 

―― このマップを見る限り、私の出身地・埼玉はしゃくし菜漬けと書かれています。でも、正直知らないです。

 

福岡県の部分には明太子と書かれていますが、明太子も発酵食品なのですね。知りませんでした。

 

ヒラク:それ以外はいかがですか? 正直、知らない発酵食品が多いのではないでしょうか。

 

―― 水戸納豆(茨城)や明太子(福岡)、甲州ワイン(山梨)などは知っていますし、富山の黒作りも富山に移住してから知りました。

 

ただ他は、ちょっと聞き覚えないですね。

 

ヒラク:日本には、伝統的な食文化から外れる面白い発酵食品が少なくありません。ちゃんとした産業になっていなくて、商品化もされておらず、リサーチ自体が難しい食品もたくさんあります。

 

そういった伝統的な発酵食を丁寧に拾っていきたいと考えています。

 

あ、ごめんなさい。ちょっと外します。

 

(ここで、小倉ヒラクさんが、インバウンドツアーの参加者に対して、47都道府県で探してきた発酵食品の解説を始める。

 

その中から、3つの食品をピックアップして詳細に語り始める。)

 

―― (解説を終え息抜きに戻ってきた小倉ヒラクさんに)お見事でした。

 

47都道府県で探してきた発酵食品の中から、今回の「北陸発酵インバウンドツアー」では、さらに3つをピックアップして紹介されていましたね?

 

ヒラク:はい。あらためて武井さんにも紹介しましょうか。

 

1つ目はこちらです。海の発酵食品の代表で〈松浦漬〉です。

 

 

これは、クジラの骨の漬物で、上あごの軟骨を細かく砕いて酒かすに漬けた食べ物です。

 

非常に不思議な味で、ゼリーみたいな、キノコみたいな味ですごく面白いです。北陸では見られず、佐賀県唐津市呼子(よぶこ)町でしかつくられていません。

 

 

呼子町はかつて、アジアで一番大きな捕鯨地でした。日本では昔、クジラを大切に扱っていました。食べるだけではなく、ありとあらゆる部位を余すところなく使って、楽器・人形・靴・香油などを製造していました。

 

当時の日本人にとっては今の石油のような存在で、製品加工において特に重要でした。

 

しかし、それくらい重宝されていたクジラの中でも、最後まで使い方がよく分からなかった部位が上あごの軟骨でした。

 

考え抜いた挙句、細かく砕いて酒かすに漬ければ食べられるのではないかと考えて松浦漬がつくられたのですね。

 

現在、国際的に捕鯨は禁止されています。呼子町でもなりわいとしては廃れてました。

 

でも、この松浦漬には、この地で生活し知恵を絞ってきた人々の記憶が詰まっています。

 

このような食品を「記憶の方舟(箱舟)」と私は呼んでいます。

 

文化人類学的な方法論で発酵食品を集め、その発酵食品から、その土地の文化や生態系を掘り下げようとしている理由は、古い歴史を持つ発酵食品をひもとくと、その土地の記憶や人々の知恵を感じられるからなのです。

 

武井:「記憶の箱舟」っていい言葉ですね。

 

古い歴史を持つ発酵食品をひもとき、その土地の記憶や人々の知恵を感じるって、北陸の魅力を内外に発信しようとするわれわれのような人間にこそ大事な視点だと思いました。

 

編集長のコメント:麹菌と麹(こうじ)の関係を初めて私も理解しました。麹菌が付着して発酵した穀物(米とか麦とか大豆とか)を「○○麹(こうじ)」と呼ぶのですね。

 

ちなみに、私の父親は佐賀出身です。

 

最後まで使い方が分からなかったクジラの上あごの軟骨を細かく砕いて酒かすに漬ければ食べられると考える佐賀人の思考方法に驚嘆しました。

 

なかなかの量のごみを日ごろ出している自分の暮らしがちょっと恥ずかしくなったくらいです。

 

松浦漬について、クジラについて、父親に聞いてみようかな。

 

そう思うと、発酵食品とか発酵文化って、年代や性別を超えて皆で語り合える共通の話題としても、すごく適しているかもしれませんね。

 

次は第3回、発酵ツーリズムにっぽん/ほくりくの展覧会がそもそもどうして北陸で開かれたのか、その根本的な疑問について話が展開していきます。

 

読めば、北陸人として「なるほど」と感じるはずですよ。)

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