地域の魅力と出合うには「発酵食品」との出合いが近道だという話

2022.11.25

第3回

日本食の原風景に出合える北陸

ふぐの子のぬか漬け

 

(引き続き、47都道府県で小倉ヒラクさんが探してきた発酵食品の展示を周る武井。

 

インバウンドツアー参加者向けにピックアップした3つの食品のうち、別の食品の前に小倉ヒラクさんは武井を連れていく。)

 

ヒラク:インバウンドツアーの参加者向けにピックアップした発酵食品のうち2つ目を紹介しましょう。

 

皆さんご存じの日本酒です。

 

写真は、インバウンドツアー客に向けて解説する様子

 

―― 日本酒、大好きです。北陸の食の中でも誇れる文化の1つなのではないでしょうか。酒蔵もいっぱいありますよね。北陸には。

 

ヒラク:そうですね。日本酒は、日本の発酵食品の中でも最も歴史が古いです。今から1300年近く前、平安時代のころから、現代と似たような製造法でつくられています。

 

もともとは、神様に捧げるお神酒として神官や僧侶たちが製造していました。

 

ところで武井さん、先ほど、日本の発酵文化の基礎は何だと言いましたか?

 

―― ええっと、麹(こうじ)です。穀物に麹菌のカビが付着して発酵したやつが、いろいろな発酵食品に使われているという話でした。

 

ヒラク:おっしゃるとおりです。日本酒も、日本の発酵文化の基礎である麹菌(麹)が活躍しています。

 

正確には、もうちょっと複雑なのですが、アウトラインとしては、麹(こうじ)と米と水を混ぜます。

 

お米のでんぷん質を麹(こうじ)がまず糖質に変え、その糖質を酵母に食べさせてアルコールに変えるバトンリレー方式で発酵しています。

 

こうした複雑な工程で発酵するために、それなりに高価になって、近世において日本酒はすごくもうかる産業になりました。

 

 

(日本酒の展示を離れ別の展示の前に小倉ヒラクさんと武井は移動する。)

 

ヒラク:3つ目はくさやで島の発酵文化です。

 

―― くさやですか。有名ですよね。これも発酵食品なのですね。

 

ヒラク:くさやの意味は産地の言葉で「臭い魚」です。伊豆諸島の新島という小さな島でつくられる魚の発酵食です。

 

くさやは、250年くらい前からずっと発酵し続けている紫色の液体(くさや液)に漬け込みます。

 

においをかいでみてください。独特です。

 

写真は、くさや液のにおいをかぐツアー参加者の様子

 

―― 昔、八丈島で食べたことありますが、やっぱり臭いですね(笑)

 

ヒラク:日本人の中でも一定数は、臭い食べ物や変な味の食べ物が好きな人が居ます。そういった方にくさやは大変人気があります。

 

このくさや液を分けてもらって調べてみるとクサヤ菌を含めユニークな菌がいっぱい確認できました。

 

乳酸菌や酵母とか、皆さんが知っている微生物だけではなく、ある意味で病原菌に近い菌も居ました。にもかかわらず、なぜかおいしくて健康にいい不思議な食べ物になるのです。

「津」が大きな港で「浦」は小さな港

 

(全国の発酵文化エリアを離れ、北陸の発酵文化エリアへ小倉ヒラクさんと武井は移動する。)

 

ヒラク:それではいよいよ、

  1. 全国の発酵文化
  2. 北陸の発酵文化
  3. 発酵の科学(酵素の働き)

のうち北陸エリアへ移りましょう。

 

 

―― われわれ〈HOKUROKU〉にとっては本題となる北陸エリアです。

 

なので、このエリアを見る前にちょっとだけ確認させてください。インバウンドツアーの皆さんから質問攻めで忙しいとは思いますが。

 

ヒラク:はい、なんでしょう。

 

―― そもそも論として今回の展覧会〈発酵ツーリズムにっぽん/ほくりく〉を北陸で開催した経緯を簡単に教えてもらえますか?

 

ヒラクさんの普段の拠点は山梨ですよね。さらに国内外を周って、全国47都道府県にこれだけ発酵食品を知っているわけです。

 

そんな中で、どうしてあえて北陸に注目したのでしょう?

 

ヒラク:その質問に答える前に、逆に質問させてください。「津々浦々」ってどういう意味だかご存じでしょうか。

 

―― 「津々浦々」ですか。いきなり、なんでしょう。「いろいろな場所にあまねく」という感じでしょうか。

 

ヒラク:「津」は、よその土地からやってくる大きな船が泊まる港を意味します。「浦」は、大きな港で荷分けされた小さな船が泊まる港、言い換えれば、大船の入れない港です。

 

若狭湾の港町・早瀬にある酒蔵の〈三宅彦右衛門酒造〉を訪ねた時、蔵元の方から教えていただきました。

 

この言葉を北陸に落とし込んでみると分かりやすいかもしれません。

 

陸路での輸送が主流になる前の主な輸送ルートは海上(特に日本海)でした。

 

―― これは知っています。北前船ですね。

 

ヒラク:さすが、北陸暮らしの武井さんです。

 

もともと、本展がきっかけとなって、フィールドワークを重点的に北陸で始めたのですが、びっくりするほど出てくるんです。ローカルな素晴らしい発酵文化が!

 

その理由は、歴史的・地理的な要因が大きく関係していると思います。

 

今から400年くらい前に北前船によって北海道から北陸を経由し京都や大阪へ、鹿児島や沖縄を経由して大陸へ届ける海のルートが確立されました。

 

北前船の寄港地が日本海側には点在し、現在の北陸3県で考えると12の寄港地がありました。この数は、全体の1/4以上になります。

 

北陸の発酵エリアにある北前船のイラストの前で。小倉ヒラクさんが手に持つイラストは、本展覧会のキャラクター・おにゅうくん7。福井県のローカル神様・遠敷(おにゅう)明神がモデル

 

大きな寄港地で荷物が売買されて、その大きな寄港地からより小さな港に荷物が流れます。その小さな港から陸路を通って山間部まで流通が伸びていきました。

 

視点を発酵にフォーカスすると、寄港地で共通する素材が、その流通経路を通じて、細かく分解(トランスフォーム)していく過程を北陸ではつぶさに見られます。

 

―― 具体的に教えてください。

 

北前船で運ばれた発酵食品には昆布やしょうゆも挙げられる。長距離を移動する間に麹菌や糖分などが昆布に付着して発酵し、うま味が増した。塩が溶けてしまう恐れもある湿気の強い航路では液体(しょうゆ)も運ばれた。北前船の寄港地である石川県金沢市大野町は日本におけるしょうゆの五大産地の1つで、今から400年ほど前に2代目藩主前田利常がこの地の町人にしょうゆ醸造法を学ばせた。大野のしょうゆは、北陸のしょうゆの基準点にもなった

 

ヒラク:北前船の大きな寄港地では、外界と貿易するための普遍的なプロダクトとして、例えば、しょうゆなどの発酵食品が「商品」として戦略的に開発されています。

 

 

一方で、荷別け先の小さな港では、その土地でしか流通しないローカルなプロダクト(発酵食品)がひっそりと根付いています。

 

さらに、険しい山間部に入ると、信仰と結び付いた、近代以前の日本における食文化の系譜を継ぐ、味わい深い発酵文化が家々で受け継がれています。

 

―― 山間部で受け継がれる発酵食品とは例えば何でしょう。

 

ヒラク:かぶらずしなどが分かりやすい例です。

 

―― ああ、かぶらずし。

 

ヒラク:ご存じのとおり、在来種のカブで、ブリの切り身とニンジン、昆布などの野菜をハンバーガーのように挟んで、米麹に漬け込む発酵食品ですね。

 

かぶらずし

 

かぶらずしのカブをダイコンに、ブリの切り身を身欠きニシンに変えた安価な大根ずしも、分かりやすい例の1つではないでしょうか。

 

あまり知られていない例で言えば、ふぐの子などもあります。ふぐの子とは、フグの卵巣を発酵させた珍味で、本来は毒の塊です。塩とぬか、酒かすを使って発酵させ解毒して食べられるようにしています。

 

とはいえ、解毒システム自体は現在も確立されていなくて、限られた業者しか石川県でも許されていないのですが。

 

ふぐの子のぬか漬け

 

このように、今ほど流通が良くなる前の時代に、雑多な穀物や魚介類を保存食にして生き延びてきた、不便な土地だからこそ工夫して不足を補ってきた、いわば、日本人の食事の原風景(伝統的な和食)に、たくさん出合える場所が北陸だと思っています。

 

だからこそ〈発酵ツーリズムにっぽん/ほくりく〉をあらためて北陸で開催する意味があると思いました。

 

―― 北陸の食を考える際には、発酵という切り口が北陸の地域性を考えると、欠かせない視点になるのですね。

 

ヒラク:発酵食品は必ずしも美食とは限りません。

 

しかし、食を通して土地の歴史を掘り下げれば、当たり前だと思っていた日常の景色が新鮮な色で塗り直されて、新たな驚きと感動が生まれると思っています。

 

その驚きと感動を北陸の人にも体験してほしいですし、新しいおいしさの扉を開けてもらえればと思っています。

 

―― 当たり前だと思っていた景色が新鮮な色で塗り直されて、新たな驚きと感動が生まれる瞬間って、北陸人にはとても大事ですよね。

 

自分のまちには何もないと言いがちな北陸の人たちこそ、身近な暮らしを見つめ直すチャンスになるからです。

 

北陸と発酵の関係性が良く分かりましたし、北陸人がもっと大切にすべき価値が、なんだか見えてきたような気がします。

 

編集長のコメント:北陸には、豊富な発酵食品がある。その発酵食品を見つめ直せば、奥深い歴史と文化がその裏側に実は広がっている。そんな話だったと思います。

 

その奥深い世界をのぞいてから日常に戻ってくると、見慣れた日常風景の色合いがぐっと違って見えてくるのではないでしょうか。

 

そんな驚きと感動のきっかけを北陸の人に用意してくれる小倉ヒラクさんに、あらためてありがとうと言いたいです。

 

さて、次の最終回では、びっくり仰天の事実を紹介します。北陸人も大好きなあの「すし」は実は発酵食品だという話です。

そもそもすし飯はなんで酸っぱい味付けなのか。最後までぜひ読んでみてくださいね。)

遠敷明神は福井県南部の若狭地方出身の神様。奈良の東大寺で新春にある大事なイベントの修二会に、魚取りに夢中で遅れてしまう、ちょっとおっちょこちょいな神様。小倉ヒラクさんいわく、遠敷明神のある若狭地方の水は発酵文化ととても相性が良く理想的だという。日本の発酵食品をつくる際には、余分なミネラルがなく、役に立つミネラルがちょっとだけある柔らかな水がいいとされる。

北陸地方、特に石川・富山の郷土料理。

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