RENEW × 立山Craftに聞く。地域を盛り上げる「人気イベント」の開き方

2021.12.22

vol. 01

「悔しさ」からスタートしました

オンラインで取材は行われた

 

―― 本日は、よろしくお願いします。〈HOKUROKU〉副編集長の大坪史弥と申します。

 

今日は、日本の地方が共通して抱えるさまざまな問題、例えば、関係人口とか観光誘致とか地元の人たちのマンネリ化だとかの問題にアプローチするべく、地域を舞台とした愛されるイベントの開き方について考えてみたいと思います。

 

今日集まってくださった新山直広さんや佐藤みどりさんは、福井の鯖江市で開催される工芸をテーマにした〈RENEW〉、富山の立山町で開かれるクラフトがテーマの〈立山Craft〉を開催し、数万人規模の来場者を毎年の期間中に集め、北陸圏外の人たちとの交流を生み、地元の人たちのお出掛け先をつくっています。

 

後で話が出てくると思うのですがそれこそ、もろ手を挙げて行政に喜ばれるような成果まで残しているわけです。

 

RENEWだとか立山Craftだとかのように、地方を舞台にしながら地元の人たちをワクワクさせるようなイベントが今後も増えれば、北陸の暮らしの楽しみはもっと豊かになると思いますし、「おらのまちには○○がある」といった郷土愛にもそれこそつながっていくのではないでしょうか。

 

しかし一方で、そう簡単な話ではないとも実感を通じて思っています。

 

アウトドアサウナのイベントを今年から開き始めたり、コワーキングスペースでさまざまなイベントを少し前まで開いていたりと、イベント開催経験が僕自身何度かあります。

 

まちづくり・場づくりの仕事を普段は本業にしているので、身の回りには各種のイベントを仕掛ける人が、どちらかと言うと多い環境でもあると思います。

 

そうした身の回りのイベント開催者から聞こえてくる言葉は、

 

「お金がない」

 

「協力者がなかなか集まらない」

 

「イベントを開催したいと思っても何から着手すればいいのか分からない」

 

「集客のコツが分からない」

 

など失敗談や悩みの方が多い気がします。僕自身も同じような悩みを感じてきました。

 

そこで今回は、北陸の福井と富山で人気のイベントを仕掛けるお2人に具体的なノウハウを教えてもらえればと思い、集まっていただきました。どうぞよろしくお願いします。

 

新山:よろしくお願いします。

 

佐藤:こちらこそ、よろしくお願いします。

 

―― 新山さんにはHOKUROKUの別の特集にもご登場いただきましたが、今回が初めての読者も多いと思います。ちょっとだけ自己紹介を最初にお願いしてもよろしいでしょうか?

関連:北陸に大事な「考える技術」デザイン思考編。なにしろ同調圧力が強い土地柄なもので

新山:では僕から。もともと出身は大阪で、関西圏の芸術やデザインを学ぶ大学生が夏休み中に共同生活しながら地域課題を地域住民と一緒に解決する〈河和田アートキャンプ〉に参加するために学生時代に初めて鯖江市へ来ました。

 

このプロジェクトの主催者であり担当の准教授(当時)が河和田に事務所を設立したので、その会社に就職するために2009年(平成21年)に移住してきました。

 

今でこそ移住者の多い鯖江ですが、僕は(当時)移住者第1号で、そこから自分の会社を立ち上げるまでの約6年間はいわば修行期間でした。

 

新山直広さん。撮影:山本哲朗

 

就職した事務所で働く中で自分の意見は一切言わず、地域の行事に積極的に参加したり地元の方とのコミュニケーションを懸命に行ったりしてきました。

 

「どうしてそこまで地元にとけこめたのですか?」と他の取材やイベントでたまに聞かれるんですが「6年間我慢し続けたから」と答えています。

 

佐藤:関西出身なのですね。私も兵庫出身です。

 

―― 佐藤さんは、もともと地域おこし協力隊として神戸から富山県の立山町へ移住して、その立山で〈立山Craft〉を企画されていますよね。

 

佐藤:富山県へ移住したきっかけは富山県が主催した移住ツアーでした。その後に着任する焼き物の里・新瀬戸をツアーの中で訪れました。ツアーに参加した際に役場の人に「自分も陶芸をやっていて移住を考えている」と話したんです。

 

佐藤みどりさん。提供:立山クラフト舎

 

すると、ツアーからしばらく経って役場の人から電話があり「陶芸で地域を盛り上げる地域おこし協力隊を募集するので応募しませんか」とお誘いを受けました。

 

ちょうど子どもが生まれた時期で、主人も転職を考えていたタイミングでもありました。その時に暮らしていた関東に残るか、夫と私の故郷である関西に帰るか、それとも富山を選択するのか、たくさんの不安を感じながらとても悩みました。

 

しかし子育てや陶芸は自然に近い環境で行いたいなど、さまざまな理由から富山を選びました。

東京にアプローチを仕掛けるコスパの悪さ

〈RENEW〉の様子。写真提供:TSUGI

 

―― これまでのお2人の歩みはよく分かりました。それでは本題へと移らせてください。

 

それぞれの事情で北陸へ来て、どうしてイベントの立ち上げに気持ちが向かったのでしょうか。

 

イベントを企画する原動力やきっかけはどこにあったのか、そのあたりを最初に知りたいです。

 

と言うのも、実体験を込めて言えばイベント開催はなかなかしんどいはずです。楽しさ・やりがいもあるのですが一方で大変さもあります。

 

しかも、皆さんは7年近く続けています。根底に大きな原動力がないと厳しいと思います。

 

新山:うーん、いろいろとキーワードはあってまとめきれませんが、振り返ってみると「悔しさ」がモチベーションになっているかもしれません。

 

―― 「悔しさ」ですか?

 

新山:僕の企画しているイベントの代表例としてRENEWについて話します。そもそもRENEWとは、福井県の鯖江市・越前市・越前町の半径10km圏内に集積する7つの産業に着目して、2015年(平成27年)から開催している工房見学イベントです。

 

鯖江周辺に広がるさまざまな産業。提供:TSUGI

 

一番有名な産業は眼鏡ですが、越前漆器・越前和紙・越前打刃物・越前箪笥・越前焼・繊維とそれ以外にもいろいろな産業が集積しています。

関連:国立工芸館の唐澤館長に聞く。北陸の「工芸を巡る旅」のすすめ

RENEWでは、鯖江周辺に集積している約80社が工場を一斉解放し、一般のお客さんがものづくりの様子を見たり製品を購入できたりします。

 

もちろん、単に見学させて終わりではなく、職人さんの思い・ものづくりの背景を知ってもらい、解像度の高い購買体験を楽しんでもらえるように運営しています。

 

写真提供:TSUGI

 

2015年(平成27年)から6回実施していて、2022年(令和4年)3月に7回目を開催する予定です。

 

―― 参加者も年々増加していると聞いています。それで「悔しさ」とは何なのでしょうか?

 

新山:きっかけは職人さんとの飲み会での会話です。

 

RENEWを始める前から職人さんと一緒に飲む機会が多くありました。お酒が入るとだんだんと仕事でのネガティブな話題が皆さん増えてくるんですね。愚痴とか悪口とか。

 

飲み会での話題としては普通だと思うんですが、あまりにも続くと面白くないんですよね。

 

職人さんの気持ちも分かるんです。バブル以降、鯖江市の産業全体の売上がどんどん落ちていきました。自信をなくしちゃっている感じがあったんですね。

 

鯖江市にある新山さんの会社・TSUGIの入る事務所。撮影:山本哲郎

 

でも、移住者として鯖江市にはすごいポテンシャルがあると僕は思っていました。

 

職人さんの誇りを取り戻さないと産業全体の熱量は落ちていく一方だし、鯖江の移住者たちも引きずられてしまう。

 

せっかく素晴らしいポテンシャルがあるのに産地にネガティブな空気が漂っているのが悔しくて。その悔しさが、RENEWを立ち上げる原動力だったかなと思います。

 

―― なるほど。その状況で、工房見学をイベントコンテンツにしたのはどのような背景でしょうか?

 

新山:企業から発注を受けて生産する産業が鯖江市は多かったんです。いわゆるB to Bのモデルですね。

 

一般消費者と工場で直接つながる機会が一方でほぼありませんでした。

 

漆器まつりという直接見られるイベントも確かにありました。即売会の形式で越前漆器が通常よりも安く買える人気イベントです。

 

でも、その安さも自分としては「悔しさ」の1つでした。安さは確かに売りにはなりますが、越前漆器の良さは安さだけではありません。

 

また、ブランディングを頑張って高い価値を出そうとしている企業はこうしたイベントに出店できません。

 

ブランディングや高品質なものづくりを頑張っている会社がきちんと表に出られる機会をつくる必要があると思いました。

 

さらに悔しさはもう1つあって。東京にアプローチを仕掛けるコスパの悪さです。

 

東京で開催される展示会の出展には結構お金がかかるんです。

 

例えば、ギフトショーと呼ばれる展示会だと出展料50万円、設営費50万円、交通・宿泊・運搬もろもろで30万円。だいたい120万円から150万円くらいの経費が掛かるんですね。

 

それだけのお金を掛けて会場で名刺を○○枚交換しました程度の成果しか上がらないわけです。こんなコスパの悪い金の使い方はないでしょう。

 

写真提供:TSUGI

 

商品を置いているだけではなかなか価値が分かりにくい業種が伝統工芸でもあります。

 

価値を伝えるには鯖江の工場に直接来てもらって職人が説明する方がいいに決まっています。

 

―― 富山県南砺市の井波地区でBnCを展開する山川夫妻もHOKUROKUの過去の取材で同じ話をしていたと思います。

関連:GNLの明石さん × BnCの山川夫妻と考える。「人が集まる場所」のつくり方

新山:こうしたいろんな「悔しさ」を工房見学を切り口で解決できないかと考えていた時に、今のパートナーであり、RENEWの事務局長を務めている〈谷口眼鏡〉の谷口さんと意気投合して工房見学のイベントをやる話になりました。

 

工房見学そのものが目的ではなく、ものづくりのまちとして持続可能な地域に鯖江がなるための切り口として、工房見学をやろうと最初に決めました。

 

工房見学自体は他の地域でも先行するイベントがありました。新潟県三条市と燕市の〈工場の祭典〉や東京の台東区の〈モノマチ〉が有名です。

 

工房見学を絡めたイベントを自分たちもやりたいと思っていたところ谷口さんと出会って形になったわけです。

 

―― そうだったんですね。

 

新山さんと谷口さんとが意気投合してRENEWが始まったとは他の記事で読んで知っていたんですが、そのベースに「悔しさ」があったとは知りませんでした。

 

谷口さんと意気投合してスタートしたと言っても単なる偶然ではないですよね。移住者の新山さんが地元の方との関係性を築かれていたからこそできたのだと思います。その点についてはいかがでしょう?

 

新山:そうですね。先ほどもお伝えしたように、移住してから6年ぐらいは修行期間のようでした。

 

鯖江になじむために地元の方とのコミュニケーションを懸命に行っていました。

 

その修業期間中に、違和感と言うか先ほどの「悔しさ」を感じるようになったのです。「この空気をどうにかしたい」とそのうち自分ごとになっていったように思います。

 

もちろん移住者なので分からない話も多く、アホだバカだと周囲に泣かされる時もたくさんありました(笑)

 

とはいえ、この6年の修行期間は自分でもかなりの強みに感じています。

 

地域おこしや地方創生のプロジェクトで1~2年で成果を出したがる人も多いですが、それって結構大変だよなと思います。

 

できる人はできるんでしょうが、新しい企画の下地づくりから考えると、かなりの時間が必要だからです。

 

―― 多くの自治体で採用されている地域おこし協力隊でも1〜3年の任期で成果が求められていますが、なかなか苦戦するケースが確かに多いと聞きます。

選択が間違っていなかったと思えるようにしたかった

〈立山Craft〉の様子。写真提供:立山クラフト舎

 

―― 地域おこし協力隊と言えば、もともと地域おこし協力隊として富山県の立山町へ佐藤さんは移住したと話がありました。

 

移住者・短い期間と考えると、立山Craftを立ち上げる際には苦労もかなりあったと思います。

 

新山さんの修行時代の話を聞いて共感される部分はありますか?

 

佐藤:すごくあります。私たちが運営する立山Craftは先日7回目を開催しました。

 

立山Craft2021秋の様子

 

私も新山さんも、恐らく同じようなタイミングで企画に取り組んでいたんだろうなと思いながら話を聞いていました。

 

新山さんとはちょっと性質が違いますが、私の場合も「悔しさ」から〈立山Craft〉の企画がスタートしました。

 

地域おこし協力隊として私が着任した場所は、富山県立山町の新瀬戸という220世帯ほどの小さな集落で、430年間から続く越中瀬戸焼きの里でした。

 

地域おこし協力隊として陶芸家である私が陶芸の里であるこの地域を盛り上げるという課題が与えられました。

 

作陶する佐藤さん。写真提供:佐藤みどり

 

しかし、地域おこし協力隊として地域の方と接しているうちに課題とのギャップを感じるようになります。

 

地域の人たちは私に陶芸を制作して欲しいわけではなく、陶芸だけではない地域全体の活性化を望んでいました。

 

自分には何ができるのだろうと悩みましたが、子どもとの大事な時間を過ごす場所で何も形にならなかったとは、絶対にしたくありません。

 

そこで、地域での信頼を優先し、最初の2年は陶芸の制作を封印して地域活性だけを考えました。

 

―― 確かに「悔しさ」ですね。

 

佐藤:そんな中で、石川県の能登島で開催されていたクラフトフェア〈のとじま手まつり〉に来場者として参加しました。

 

クラフトフェアにはそれまで何度も出店者側として参加していましたが、地域おこし協力隊としての問題意識を持って訪れたのとじま手まつりで初めてクラフトフェアと地域活性とが結びつきました。

 

私の担当になった土地には越中瀬戸焼の文化があります。

 

「ものづくりに対する関心が高い人にこの土地へ足を運んでもらいたい」

 

「楽しい要素を目当てに足を運んでもらい、一握りの人でも地域に関心を寄せてくれたらこの土地はきっと変わっていく」

 

そんな思いが立山Craftへとつながっていきます。

 

具体的には、イベントの趣旨を周囲に説明しながらIJUターンの人(移住者)を中心に実行委員会を立ち上げ、2015年(平成27年)に立山町で初めて開催しました。

 

―― 立山CraftとRENEWと言えば、今や北陸で多くの人に知られるイベントです。

 

その2つのイベントが同じ年の2015年(2015年(平成27年)にスタートしていたとは、ちょっと感慨深いですね。

 

どのくらいの人が最初に集まったのですか?

 

佐藤:企画当初の来場者目標は1,000人でした。しかし実際には2日間で8,000人が来場し、富山県のクラフトフェアとして認知してもらえるようになりました。

 

現在に至るまで毎年開催を続けています。

 

地域おこし協力隊の任期も今では終了しましたが、イベントを継続するためにNPOを立ち上げ、持続できる体制にもなりました。

 

写真提供:立山クラフト舎

 

新山:本当は陶芸をやりたくて来たのに地域に求められてなかったって、かなりショックな出来事ですよね?

 

佐藤:そうなんです。がーんって感じでした(笑)

 

でも、富山に来て良かった、この選択が間違っていなかったと思えるようにしよう。今に見てろよという思いが1年目の活動の原動力でした。

 

任期後の今はしっかり陶芸しています。

 

―― 行政と地域、あるいは移住者と地元住民の考え方のギャップが原因で活動がうまくいかず、協力隊を途中で辞めてしまうケースも少なからずあるそうです。

 

そんな状況や困難も佐藤さんは乗り越えて活動されていたんですね。格好いいです。

 

編集長のコメント:イベント開催する動機に2人とも共通して「悔しさ」があったとは印象的でしたね。

 

原動力となる思いの強さは、しんどい時の支えになってくれるはずです。

 

イベント準備をスタートする時にも、開催を続ける時にも、きっとしんどい瞬間が押し寄せると思います。

 

その時に挫けない動機を、支えとなる原動力を、自分の内なる根っこの部分から感じて始めた方がいいのかなと思いました。

 

いや、ちょっと大げさかも。

 

いずれにせよ次からはいよいよ具体論に続きます。仲間探しや企画書づくりが次の話題。ぜひ読み進めてくださいね。)

新山直広さんのプロフィール。
1985年(年)大阪府生まれ。京都精華大学デザイン学科建築分野卒業。福井県鯖江市に2009年(平成21年)移住。応用芸術研究所を経て鯖江市役所に嘱託職員として勤務。在職中の2013年(平成25年)にTSUGIを結成、2015年(平成27年)に法人化する。デザイン・ものづくり・地域や地場産業のブランディングを手掛ける。

佐藤みどりさんのプロフィール。
1983年(昭和58年)兵庫県出身。19才の時に器に出合い陶芸を始める。地域おこし協力隊として2014年(平成26年)立山町へ移住。〈立山Craft〉を2015年(平成27年)に主催。以降毎年開催する。NPO法人立山クラフト舎を2017年(平成29年)に設立。陶芸の作家活動も行う。

福井県鯖江市・越前市・越前町で年に1回開催される工房見学イベント。 持続可能な地域づくりを目指した国内最大規模のイベントとして2015年(平成27年)から続いている。

立山連峰を一望できる富山県立山町の立山総合公園で開催される人気のクラフトイベント。2015年(平成27年)から日本全国のクラフト作家が毎年集まっている。

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