RENEW × 立山Craftに聞く「人気イベント」成功の方法で地域を盛り上げる

2021.12.23

vol. 02

始める人・支える人・まとめる人

写真提供:立山クラフト舎

 

―― ここまでイベントを立ち上げる原動力の部分を教えてもらいました。

 

ただし、1人の力ではこれだけ大きなイベント開催を実現できないはずです。

 

仲間探しのフェーズが初期で当然出てくると思いますし、新山さんの場合は谷口さん、佐藤さんの場合は主にIJUターンの移住者たちで組織した実行委員会のメンバーが現に見つかったわけです。

 

その経験から振り返ると、これから地域で新たなイベントを立ち上げようとする場合、立ち上げメンバーにはどんな人がいたらいいと思いますか?

 

新山:メンバーの役割で分けると「始める人」「支える人」「まとめる人」の3人が必要だと考えています。

 

RENEWの運営メンバー。左から新山直広さん・谷口康彦さん・森一貴さん。写真提供:TSUGI

 

RENEWだとまずこの3人が重要なんですよ。左から僕、実行委員長の谷口眼鏡の谷口さん、そして事務局の森くんです。

 

僕のようなディレクターは「はじめる人」です。「工場見学やるぞー!」と圧倒的な熱量をもって企画を立ち上げ、やりたいことをデザインや自らの発信で周囲に伝えます。

 

県外へ出ていって外部人材と河和田をつなぎもします。

 

実行委員長の谷口さんは「支える人」です。福井県眼鏡協会の会長も務めていて地域からの信頼も厚く、地元や行政への折衝をお願いしています。また職人として商品をつくる人でもあります。

 

あと僕は、プロジェクトをどんどん立ち上げるんですが、事務能力はウルトラ低いんですね。スケジュール管理とか全くできない人間なんです。

 

なので、僕がやりたい内容を整理してくれる役が「まとめる人」の事務局長の森くんでした。実施に必要な事項を整理し、足りないリソースを調達してきてくれます。いわゆるプロジェクトマネジメントの役割です。

 

「始める」「支える」「まとめる」の三役があってRENEWは今まで成長できてきたんだと思います。

 

―― 面白い役割分担です。分かりやすいし、イベント立ち上げ時に必要そうな作業がうまく網羅されているように思います。

 

新山さんと谷口さんの「始める」と「支える」の役割分担で最初のRENEWはスタートしたと思うのですが、「まとめる」の森さんが加わった理由はどうしてでしょうか?

 

新山:もともと鯖江市の実施していた移住施策〈ゆるい移住〉で森くんは鯖江に来ました。ゆるい移住は最大半年間、家賃無料で鯖江に住める面白い施策です。

 

僕が代表を務めているデザイン事務所〈TSUGI〉にその際森くんから連絡があったんです。「僕めっちゃ仕事できるんで雇ってください」と。

 

森くんは東大卒で、コンサルティング会社出身です。意識高くてヤバそうなやつから連絡が来たなと思いましたが、ゆるい移住の担当者とも相談して雇いました。

 

とは言っても業務がないのでRENEWの事務局業務をまず手伝ってもらいました。

 

TSUGIの事務所の様子。撮影:山本哲郎

 

その仕事を手伝ううちにプロジェクトの面白さと、僕の事務処理能力の低さに森くんは気付き、自ら進んでRENEWのプロジェクトマネジメントを担ってくれるようになりました。

 

僕の50倍くらいのスピードで森くんは仕事を処理してくれるので本当に助かりましたね。

 

2年目のRENEWからは森くんが正式に事務局機能を担ってくれるようになりました。

 

―― なるほど。最初から「まとめる」ポジションがあったわけではなく、森さんのためにたまたまつくった役割がRENEWの推進にとって重要な役割だったんですね。

 

新山:そうです。RENEW以前から地域にはデザイナーが必要だと僕は言い続けてきましたし、地域の人にも理解が広がっていました。

 

そしてプロジェクトマネージャーも地域に必要だとRENEWを通じて地域の人たちにも分かってもらえたと思います。これは大きな収穫でした。

 

―― 地域ブランディングの文脈でデザイン、デザイナーの重要性は聞かれるようになりました。

 

プロジェクトマネジメントの重要性については一方でまだ表立って聞かないかもしません。

地域で信頼される人に入ってもらう

初回の立山Craft終了後。立ち上げメンバーと。写真提供:立山クラフト舎

 

―― 一方で、佐藤さんはどのようなメンバーで立山Craftを立ち上げましたか?

 

主にIJUターンの移住者の皆さんと実行委員会を立ち上げたと先ほどはお話ししていましたが。

 

佐藤:そうですね。RENEWの谷口眼鏡さんのように私も地域で信頼される人に入ってもらいました。この地域の自治振興会の会長さんです。

 

当時は70歳くらいの方でパソコンやスマホは使えません。しかし地域との意思疎通などを円滑に対応してくださいました。

 

他には、全国のクラフトフェアにたくさん出店している現役の作家さんに入ってもらいました。

 

私は現在クラフトフェアには出店していないので、全国で開催されているクラフトフェアの現状や運営面の工夫を教えてもらっています。

 

さらに、立山町でイベントを開催した経験のある方にも入ってもらいました。

 

自治振興会の会長さん・作家さん・立山町でイベントの開催実績がある方、この3人に背中を押されるような形で立ち上げが進んでいきました。

 

―― 背中を押されるような感じですか。てっきり佐藤さんがガンガン引っ張っていったのかと。

 

佐藤:いえ。私はもともと立山Craftの準備から実施までを1年間でやろうと思っていたんです。そのくらいじっくりと時間を掛けようと思っていたのですが、作家さんが「半年でできるからやっちゃいなよ」と。

 

とはいっても、関係各所への声がけであったり、書類作成など事務的な内容は私の仕事(笑)

 

陰で他のメンバーが、自分だけでは足りない部分について働きかけてくれたと思います。

 

―― いわば「始める」と「まとめる」を佐藤さんが兼務した感じですね。そして支えてくれるメンバーがいた。

 

佐藤:回を重ねる中で事務的な部分をフォローしてくださる方も加わり、3年目くらいから運営事務局としての流れが固まってきたかと思います。

 

立山Craft7年目の運営メンバーの集合写真。写真提供:立山クラフト舎

 

―― 役割分担を最初から決めていたわけではなく、協力者が次第に集まっていったんですね。

 

協力者を増やす意味では、メンバーに地域の顔利きみたいな役割の人がいるといいのかもしれませんね。

 

佐藤:そうなんです。

 

「子ども向けコンテンツが欲しい」と言ってみたら「富山でこんなことをしている人がいるよ。声を掛けてみなよ」とまた背中を推されます。

 

結果として、いつの間にか運営メンバーとして協力してくれている人が増えています。

おいしいコーヒーを山頂で飲みましょう

写真提供:立山クラフト舎

 

―― 次は、初めて立ち上げる企画の伝え方について聞かせてください。

 

この場合の伝え方とは広報の意味ではなく、企画の段階で協力者を募っていく際に必要なプレゼンといった意味に近いです。

 

イベントを立ち上げるにあたって関係者に企画を伝え、協賛を募る機会は多いと思います。

 

何度も開催しているイベントであればイメージしてもらいやすいですが、初めて立ち上げるイベントでは使える過去の素材がありません。企画を伝える難しさがあると思います。

 

実体のないイベントに乗ってもらうための企画の伝え方・工夫があれば教えてください。

 

新山:企画書はしっかりつくり込みますね。

 

僕の仕事はデザイナーです。人をワクワクさせるプロです。企画書って人を動かす原動力ですし、本気度が伝わってくる媒体です。企画書だけで何度も更新しています。

 

その企画書を持って1件1件実際に訪問して話をするようにしています。

 

坂本:横からすみません。HOKUROKU編集長の坂本です(※編集部注:オンライン取材に坂本も参加した)。

 

その企画書って見せてもらえますか?

 

新山:いいですよ。最初のベータ版企画書はたった2ページだけでしたね。

 

イベントタイトルも〈丹南未来市場〉と今とは違っていました。

 

企画書の内容としてもタイトル・企画意図・開催概要だけからスタートしました。

 

そのベータ版から何度も更新して、行政向けや民間向けなど伝える対象によって分けてもいます。

 

RENEW企画書の一部。100ページを超える資料もある。提供:TSUGI

 

坂本:これだけ念入りにつくるとはお見事ですね。企画書のつくり方だけで別の特集を組めそうです。

 

―― 今回の特集を組むにあたり事前に聞き取り調査したんですが、企画書のつくり方が分からないと言った声も多くありました。

 

新山:ただ、矛盾するようで申し訳ないのですが、企画書はあくまで資料にすぎません。最終的にはどれだけ熱量を持って本人が伝えられるかが重要です。

 

どれだけすてきな企画書であったとしても、他のスタッフがその企画書を読み上げるだけだったら、聞いている人は動かないと思います。

 

それならば、企画書も持たず主催者が熱量を持って直接プレゼンした方がいいと思います。

 

どれだけ企画書をつくりこんで論理的に説明しても動かない人は動かないですよ。

 

例えば河和田は、もともとイベントの多い地域なので「またイベントを増やすのか」と面倒そうに反応する人も居ます。

 

今までこうしたイベントって補助金を財源とした行政主導の企画が多かったんです。

 

いろいろと手続きもあり面倒臭くてつまらない印象を持っている人も居たと思います。その気持ちも分かるんですよね。

 

「とりあえず1回体験してみましょうよ」とそういう場合は伝えています。

 

参加費なんて1社2万円ほどで会社の飲み会代くらいです。飲み会より楽しい体験が2万円でできるし、「若い人もたくさん来てくれるよ」と伝えれば乗ってくれる人も居るわけです。

 

―― なるほど。論理的な説明を続けるより、分かりやすい楽しさを伝える方が効果的な場合もありますよね。

 

新山:遊びの誘い方と似ている気がしますね。例えば「山でトレッキングしましょう」だと人によっては「トレッキングって何?」となってしまうかもしれません。

 

それよりも「おいしいコーヒーを山頂で入れて飲みましょう」の方が楽しさが伝わり、乗ってくれると思います。

 

坂本:まさにポジティブな人たらしですね。

 

新山:「始める」人の大事な要素だと思います(笑)

 

編集長のコメント:それにしても新山さんのつくる企画書はお見事でした。

 

デザイナーが企画書をつくると、ぱっと見の完成度がやはり違います。中身はどうあれ、こんなすてきな企画書をつくる人が騒いでいるんだから、そこそこやってくれるんだろうという期待も生まれるに違いありません。

 

企画書よりも熱量の方が大事という言葉がありましたが、ハートには熱を持って、かばんにはすてきな企画書を入れて誰かに会いに行くと鬼に金棒だなと思いました。

 

イベントの出店者選びと選考基準について次は続きます。)

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