人を扱った記事は息が長い
―― 〈real local 金沢〉を初めて知った人にまず読んでもらいたい代表的な記事を3本選んでもらえますか?
HOKUROKUでも「まずはこれから読んでね」という特集ラインアップを先の創刊1周年に当たって出しました。
real local 金沢らしい記事を小津さん・笠原さんそれぞれに同じようにチョイスしてもらいたいのです。
「らしさ」の切り口は何でも構いません。企画が「らしい」のか、タイトルが「らしい」のか、コンテンツのクオリティが「らしい」のかお任せします。
笠原:とても悩みますね。
小津:そうですね。迷います。
―― real local 金沢の創刊は2014年(平成26年)ですよね。現在に至るまで何本くらい記事を合計で出してきているのですか?
小津:ちょうどこの前〈Excel〉に整理したので分かります。だいたい400本程度です。
―― 「これぞreal local 金沢」という記事をその中から3本選んでください。
小津:ぱっと思い浮かぶ記事としては金沢の芸妓(げいこ・げいぎ)さんのお仕事紹介記事です。
「芸妓は夜のコンシェルジュ あなたも金沢芸妓になりませんか?」2014年(平成26年)11月17日リリース
―― 2014年(平成26年)とありますから創刊から間もないタイミングで出した記事ですね。
小津:real local 金沢は金沢に移住を希望する人たちに仕事の情報を届ける目的も持ちます。
仕事という意味では芸妓さんも仕事の1つで、もしかすると芸妓さんになりたいという人に移住してもらうきっかけになるかもしれないと思って制作しました。
―― 金沢の茶屋街を扱ったコンテンツをHOKUROKUでも制作した経験があります。
ただ、お茶屋さん探しにこの時はかなり苦労しました。
最終的には、HOKUROKU運営メンバーの1人が茶屋遊びに親しむ金沢の経済人を知っていたので、その方にご協力いただき、ひがし茶屋街のお茶屋さんの特別な計らいで取材が実現しました。
小津さんらも取材の実現がなかなか大変だったと思うのですが、いかがでしたか?
小津:私の場合は金沢出身ですし、金沢に暮らしているとどこかしらでお茶屋さんにはつながりができるので、その縁で取材させてもらいました。
―― 金沢の人は、お茶屋さんとのつながりが暮らしの中で自然に生まれるのですね。
HOKUROKUの取材で聞いたのですが、新しい芸妓さんがデビューすると市長がお祝いのコメントを寄せるみたいですね。この辺りの文化が実に金沢らしくてすてきだなと思います。
場所を立ち上げた人の背景に注目している
―― 他には、いかがでしょうか?
小津:工芸作家の竹俣勇壱さんを取り上げた記事でしょうか。
「美しさを運ぶ『使いづらい』スプーン 彫金師 竹俣勇壱さん」2015年(平成27年)4月22日リリース
金工作家としてスプーンをつくる竹俣さんの記事は掲載から数年が経った今でも定期的にPV(ページ・ビュー)の数字が跳ねます。
―― 「物にはいろいろな面があって、使いやすさはそのうちの1つに過ぎない」的な言葉が印象に残りますね。
小津:例えば不動産の紹介記事は誰かが契約したら終わりでそれ以上は読まれません。しかし人を扱った記事は本当に息が長いと思います。
笠原:real local 金沢ではやはり人がキーワードなのだと思います。例えば新しいカフェが金沢にできたというだけで私たちは記事にしません。
しかし、カフェの店主とお話してみて想い・背景・哲学に興味がわいたらまた話は変わってくるはずで、どこかの場所を取り上げるにしてもその場所を立ち上げた人に注目しているのだと思います。
まちを舞台に仕事している以上、独り勝ちはない
―― 小津さんが選ぶ3本目は何でしょうか?
小津:2020年(令和2年)5月の「コロナ禍」において〈MotionGallery3〉で実施したクラウドファンディングの記事もreal local 金沢らしいのかなと思います。
「金沢の愛すべき“商い”を未来券で応援!『勝手に、かなざわ商興会』」2020年(令和2年)5月1日リリース
「勝手に、かなざわ商興会」と銘打って「未来のお会計を先払い」して地域の商店を支援する「未来券」発行のクラウドファンディングをreal local 金沢が実施しました。
―― 内容を見ましたが、しびれる企画ですね。
50近く「未来券」発行プロジェクトに参加したお店が「クラファン」では名乗りを上げていて、合計3,368,000円のお金が421人の寄付者から集まっています。
このプロジェクトを通じてreal local 金沢を初めて知った人も居たと思えば、自分たちを起点とした地域貢献が自分たちの存在をアピールする機会にもなる一種のお手本のような企画だと思います。
小津:新型コロナウイルス感染症が拡大して地域の個人商店が危機に直面する中で、自分たちの本業である建築設計の仕事も一時期完全になくなってしまいました。
小津さんがリノベーション設計を手掛けた八百屋〈松田久直商店〉。事務所と同じ商店街の一角にある。※店主の許諾を得て撮影しています
まちを舞台に仕事している以上独り勝ちはないし、まちが元気でなければ自分たちも生き残れないとあらためて感じた時期でした。
せっかくメディアを持っているのですから、メディアだからこそできる役割りを真剣に考えた時に生まれた企画です。
―― 「勝手に、かなざわ商興会」というネーミングもすてきですよね。「勝手に」の言葉遣いとか「金沢」を平仮名に開いて「かなざわ」にしていたり。
スペイン風邪から考えて100年ぶりに人類が直面する混乱に満ちた状況下だったと思いますが、悲壮感一辺倒ではない肩の力が抜けたクリエイティブなマインドも感じられて素晴らしい取り組みだと思います。
地に足のついたついたメディアをやる以上、地の利を生かした企画をどんどんやっていきたいとHOKUROKUで私も考えています。とても参考になりました。
(副編集長のコメント:「まちを舞台に仕事している以上独り勝ちはない」とはしびれる一言です。
人が居るからまちがあり、まちがあるから地域に独自性や新規性を生みます。
個性豊かなローカルメディアが成立するのは人とまちがあってこそ。メモしておきます。)
3 クラウドファンディングのプラットフォームの1つ。
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