行政と民間の中間組織的なメディア
―― 笠原さんが選ぶ〈real local 金沢〉らしい記事と言えばどれになるでしょうか?
笠原:とても迷いますが「あんこの個性を守ることは、“人のつながり”を守ること。」が1本目です。
「あんこの個性を守ることは、“人のつながり”を守ること。」2019年(令和元年)8月30日リリース
「その土地に住んでいる人が生活者の目線で一人称で書く(個人的な想いや感じたことも書く)」を大切にしているメディアがreal localだと感じています。
そうした一人称の記事の集積によってリアルな金沢が見えてくる状態を目指しているのだと私は解釈しています。
この記事については、担当したライターの柳田さんが日ごろから並々ならぬ愛を持っているあんこ・和菓子について〈戸水屋〉の戸水さんとの雑談の中で聞いた話に危機感を持ち、記事化したと聞いています。
和菓子から見えてくる金沢の暮らしやコミュニティ事情、失われそうな多様性など示唆に富んだ記事だと思っています。
戸水さんのお話の深みと、こういった話を引き出せる柳田さんとの信頼関係、そこに、柳田さん自身の熱量も相まっているところが好きです。
―― 記事を読んで初めて知ったのですが、誰かをもてなしたり誰かに贈ったりするための「きちんとした」和菓子をつくる和菓子屋と、もちやまんじゅうなど日常的なお菓子をつくる和菓子屋は本来分かれていたのですね。
この辺りの貴重な情報をさらっと引き出す取材担当者さんの人柄も伝わる記事だと思いました。
小津:この記事も確かにすごくいいんですよね。温度感を感じる一人称での語りはreal localを始めてからこだわっている部分です。
―― 他にはどうでしょうか?
笠原:「金沢移住、そして「時間持ち」という選択【前編】【後編】」です。
「金沢移住、そして「時間持ち」という選択【前編】【後編】」2017年(平成29年)3月3日リリース
こちらは、移住(Uターン)された外部ライターさんの記事です。
文章も素晴らしいのですが、移住にあたって感じていた・感じている不安や移住後の気付きを、素直に書いてくださっています。実感がこもっていて何度読んでもじーんと来てしまいます。
移住をPRしようとすると、どうしても金沢のいいところの列挙に終始してしまいますが、こういった生の声や体験が移住を考える方の背中を本当は押すのではないかと思っています。
「日常的なもの」という金沢に限らない普遍的な価値に最終的に着地しているところもとても好きです。
―― 正直に言うと、しょせんは引っ越しに過ぎない国内「移住」体験を意味ありげに書くコンテンツがあまり好きではないのですが、この記事に関しては違っていて、著者の子どもが裏山の「ほんとのゴール」まで連れ出すエピソードに引き込まれました。
小津:文章もさることながら日常を独自の目線で観る・書くところがこの記事は素晴らしいですよね。
―― 金沢や石川の日常を独自の目線で眺めながら温度感のある一人称の語りで書く、そんな記事群がいわばreal local 金沢らしさと言えるのかもしれませんね。
ローカル・エコノミーが大事
―― 小津さんと笠原さんがチョイスする記事を通じてreal local 金沢らしさがかなり分かってきたと思います。
ちょっとだけ抽象的な質問というかreal local 金沢の未来予想図を最後に教えてください。
real local 金沢はどのような方向にこの先進んでいくのでしょうか?
小津:ローカルで一番新鮮な情報をどこが持っているかと考えると行政だと思っています。
地域の最新の空き家情報を各自治体が例えば「空き家バンク」のような形で持っていますよね。
しかし「空き家バンク」が成功ばかりという状況ではないように、行政と民間がいまひとつつながれていない気もしています。
だからこそ行政と民間の中間組織的なメディアのあり方をreal local 金沢が模索しながら実現できれば、もっとおもしろい解決策を世の中に出せるのではないかと思っています。
自分たちは本来金沢の外に向けて発信するウェブメディアですから、結果として関係人口の増加にもつながっていくはずです。
先ほどの「クラファン」の記事でも語ったとおり、自分たちはまちを舞台に仕事をしている以上、元気なローカル・エコノミーが大事になってきます。
real local 金沢だけではなく各地のreal localの運営者たちとも話し合って、行政と民間をつなぐメディアのあり方を模索しながら動いています。
―― ある自治体の会議で似たような議論をちょうど先日耳にしました。
幾つものウェブサイトをつくり自分たちで対外的に行政が情報発信していくのではなく、「外」の視点を持った、情報発信にたける民間のスペシャリストにどんどん任せるべきだという考えです。
小津さんの言う中間組織的なメディアのあり方とはこの議論にも通じる話だと思います。
性別や年齢などの属性ごとに読者を分けて、顔の見えない全国の人たちに情報を発信していくナショナル・メディアとは違う、地域に根差したローカル・メディアらしい活動のあり方だと感じました。
HOKUROKUとしても勉強になる点が今回の取材は本当に多かったです。ありがとうございました。
(副編集長のコメント:以上、ローカル・ウェブマガジン・レポートの第1弾をお送りしました。
気になるローカル・ウェブ・メディアに今後も声を掛けていきます。各メディアの編集長の皆さま、どうぞよろしくお願いします。
ちなみに、real local 金沢さんがHOKUROKUを取材する話もあがっているそうです。今回とは逆の構図ですね。
記事化された際はHOKUROKUでもお知らせしますのでどうぞお楽しみに。)
文:坂本正敬
写真:山本哲朗
編集:大坪史弥・坂本正敬
編集協力:明石博之・中嶋麻衣
3 クラウドファンディングのプラットフォームの1つ。
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