漫画家ちさこ先生と考える「8番らーめん」が北陸で愛される理由

2020.09.16

第3回

「なんでやろ、8番」はぽろっと出た

 

―― メニューの話についても今まで話してきましたが、ちさこ先生の好きなメニューのベスト3を教えてください。

 

ちさこ:そこは、ほとんど浮気しないんです。

 

―― やはり1位は〈野菜らーめん〉の「味噌(みそ)」?

 

ちさこ:そうです。その下で言ったら、サイドメニューで2位に〈8番餃子(ぎょーざ)〉。3位は〈炒飯(ちゃーはん)〉か〈鶏の唐揚げ〉か。「うーん、じゃあ炒飯で」みたいな感じ。

 

―― 炒飯もファンが多いですよね? 「炒飯もおいしいよね」みたいなせりふが漫画の中でもあったと思うんですけど。

 

〈北陸とらいあんぐる〉第1話より。(C)ちさこ/KADOKAWA

ちさこ:そうですね。当然のように炒飯セットで食べていました。餃子も半炒飯もそれぞれセットになったメニューを家族でシェアしていましたね。「ちょっと一口ちょうだい」みたいな感じで。

 

―― そうですね。一口ちょうだいみたいな経験は「8番」で皆さん結構ある気がします。

 

ハチバンのお2人にも聞きたいのですが炒飯が好きという声は結構多いですか?

 

〈炒飯(ちゃーはん)〉(公式ホームページより)

増田:そうですね、多いですね。

 

基本的に炒飯は、若い方に人気の商品です。小学生とか中学生の方が食べる機会が多いようです。〈8番らーめん〉へ家族でお越しいただいた場合、お子さんだけが頼むケースも増えています。

 

―― 炒飯の単品を頼むのですか?

 

増田:そうです。

 

ちさこ:えー。

 

村中:ラーメン屋なのにラーメンを食べないで炒飯と餃子だけというパターンも見ます。

 

―― なんだか、メニューの好みの移り変わりを感じますね。

「なんでやろ、8番」はなんでやろ

―― テレビコマーシャルも8番らーめんは印象的です。「パパのハチカマちょうだい」は特に覚えているんですけど。

 

増田:ありました、ありました。

 

村中:「ハチカマ」って言うんだとそこでパパが気付くやつですね?

 

ちさこ:ありました、ありました、思い出しました。

 

8番らーめんCM「なんでやろ ハチカマ編」

―― 長期連休やお盆に、テレビコマーシャルをハチバンは結構入れますよね?

 

増田:はい。長期連休で皆さんが地元へ戻ってこられるタイミングで多く放送していますね。

 

―― あのコマーシャルを帰省時に見ると吸い込まれるように8番らーめんへ行ってしまいました。

 

ちさこ:あのコマーシャルを初めて見た時「本当それ」って確かに思いました。「なんでやろ、8番」って。

 

北陸とらいあんぐる第1話より。(C)ちさこ/KADOKAWA

―― あの「なんでやろ、8番」というキャッチコピーに北陸の人たちの「8番」に対する感情は集約されていると思います。あのコピーは誰が考えたのでしょうか?

 

増田:テレビコマーシャルの制作過程における会話がきっかけとなっています。

 

テレビコマーシャルをつくるに当たって皆で共感できるキャッチコピーが欲しいという話になりました。でも、なかなか出てこなくて。

 

悩んでいた時に「8番らーめんって、どうしてまた食べたくなるんだろう?」と社員と関係者との会話でぽろっとこぼれたんですね。

 

当時の社長がそれを気に入り「なんでやろ、8番」が生まれました。コマーシャルでは「なんでやろ」を表現するシーンをシリーズ化していきました。

 

ちさこ:はー。

 

―― なるほど。ぽろっとこぼれた一言から生まれたキャッチコピーだったのですね。

 

増田:2011年(平成23年)から2015年(平成27年)くらいまでは「なんでやろ」をキャッチコピーとして使っていない時期が実はありました。しかし、北陸新幹線が開通した2015年(平成27年)から復活しました。

 

―― それは知りませんでした。

いろいろ食べても「8番」が落ち着く

―― ちさこ先生、ちょっと抽象的な質問を最後にさせてください。

 

ちさこ先生には、野菜らーめんの好みの味だとか、どのようなスタンスで小さいころから食べてきたのかをこれまでに聞かせてもらいました。漫画に「8番」を描く際の注意したポイント、好きなベストメニューの話もありました。

 

ハチバンの側からも、味の「派閥」問題や人気のサイドメニューの話、テレビコマーシャルの制作秘話などを聞いてきましたが、こうした話を踏まえて、ちさこ先生が思う8番らーめんの魅力を総括的に教えてもらえないでしょうか。

 

 

ちさこ:おいしい味はもちろんとして、家族で気軽に行けてほっとできる場所、肩ひじ張らずにワイワイ楽しくご飯を食べに行ける雰囲気が8番らーめんの魅力かなと思っています。

 

子どものころ家族で、県外に旅行した帰りの車中で、

 

「ご飯どうする?」

 

「じゃあ『8番』に行こう」

 

「いろいろ旅行先で食べたけどやっぱり『8番』が一番落ち着くよね」

 

みたいな会話はしょっちゅうありました。

 

東京で働いていて帰省した時も8番らーめんにすぐ行っていました。「はあ、石川に帰ってきた」と思えるからです。

 

増田:実家の味みたいに思っていただけているのですかね。

 

ちさこ:そうですね。本当に第二の実家みたいです。

 

増田:ありがとうございます。

 

 

ちさこ:東京時代、深夜になって「疲れたな」という時「あー、8番らーめん食べたい」となります。でも「8番」は東京にないから食べられません。

 

東京にいる地元の友達と「『8番』が食べたい」と話をすると「めっちゃ分かる」と言われました。

 

8番ラーメンの話を夜中にして「石川に帰ったら食べようね」「私、絶対餃子を食べる」「お互いに頑張ろうね」みたいな会話をよくしていました。

 

―― 同郷の友達との会話がそのまま漫画に生きてるんですね。

 

ちさこ:そうですね。地元を離れて自分自身が東京にいて、地元のあの味が恋しい・あれが食べたい・これが懐かしいみたいな気持ちを、キャラクターにそのまま言わせている感じはありますね。

 

子どものころからずっと食べ続けてきていますが、それでも飽きません。帰るといまだにまず、野菜らーめんの「味噌」となる、こんなになんで好きなんだろうと思います。理屈じゃなく好きなんですね。

 

―― 「なんでやろ、8番」のキャッチコピーそのままですね。

 

野菜らーめんの「何味を食べるか問題」が今回の取材では個人的にすごく興味深かったです。断固として僕は「味噌(みそ)」派でしたが、思いもよらない真実を知らされました。

 

ちなみに、この特集が出るタイミングで8番らーめんを取り上げた他の特集も出していく予定です。北陸の人たちに愛される8番らーめんにいろいろな角度から光を当て魅力を引き出せればと思います。

 

本当に今日は皆さん、すてきな話をありがとうございました。

 

坂本編集長のコメント:全くの余談ですが、北陸とらいあんぐるによると「なんでやろ」と北陸人の前でつぶやけば十中八九「8番」と返ってくるらしいです。移住者の皆さん、旅行者の皆さん、一度試してみてください。)

関連:「8番」の本店で聞いた。野菜トマトらーめんの通な食べ方講座

 

8番らーめんのテイクアウトを「ちょい足し」レシピで楽しんでみた

 

「HACHIBAN-RAMEN」がラーメンの呼び名になるくらい8番らーめんがタイで成功した話

文:大坪史弥
カバー写真:山本哲朗
編集:坂本正敬
編集協力:明石博之・博多玲子

 

※8番らーめんのメニュー名と一般名詞を区別して文中では表記しています。

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