「塩」は野菜の味を優しく下支えし、「醤油」は自分が先行して野菜たちを引っ張り上げている。
今回から、<8番らーめん>の看板メニュー<野菜らーめん>のちょい足しレシピを研究します。
「塩」「醤油(しょうゆ)」「味噌(みそ)」「とんこつ」の野菜らーめんの味に対し、株式会社ハチバンの商品開発部がつくった「ちょい足し」レシピの資料を参考にして、『HOKUROKU』編集部が事前に考えた3つのトッピングを、合計で12パターン試します。
(野菜らーめんの味には「バター風味」もありますが、「塩」味をベースにバターがトッピングされた「ちょい足し」状態の商品なので、今回は対象外とします。)
検証のプロセスは、実際に店舗で野菜らーめんをテイクアウトして、『HOKUROKU』の編集部が置かれたコワーキングスペースの<COMSYOKU>のキッチンに運び込み、それぞれを3等分に取り分けて、トッピングを追加してから実食します。
その上でそれぞれの味に最も合う「ちょい足し」トッピングを選出します。
今回のちょい足しの評価基準となるポイントは、以下の3つです。
- 簡易性:気軽に足せるトッピングか。
- 協調性:野菜らーめんの味が生かされているか。
- 新規性:店頭では味わえない予想外のおいしさがあるか。
テイクアウトを注文した店舗は富山県にある8番らーめんの戸出店です。編集部のあるコワーキングスペースから自動車で5分ほどの距離にあります。
持ち帰り、取り分け、トッピング、実食までを含め、野菜らーめんの麺(めん)が食べごろになる、およそ10分以内に完結できる理想的な店舗です。
全ての味をベストの状態で食べるために、コワーキングスペースCOMSYOKUと店舗の間を4往復しました。
「塩」のちょい足しレシピ
「ちょい足し」レシピを検証するHOKUROKU副編集長の大坪史弥。
最初に検証するラーメンは、人気ナンバーワンだとHOKUROKUの特集「漫画家ちさこ先生と考える。<8番らーめん>の愛し方・愛され方。」でも判明した「塩」味です。野菜らーめんの「塩」の特徴は、雑味のないすっきりとした味わいとコクです。
味付けに使われている<球美(くみ)の塩>は、タマネギやニンジンなど、いためると甘味が増す野菜との相性が良く、「8番」のいためた野菜の味が存分に生かされた味わいになっています。
「塩」への「ちょい足し」トッピングは、ハチバンの商品開発部がつくった「ちょい足し」レシピの資料を参考にしつつ、すっきりとしたうま味を邪魔せず、新たな塩の世界を開拓する内容であるべきだとの考えから、以下の3つを候補として選びました。
左から梅干し、アオサ、レモン。
梅干し、アオサ、レモンです。アオサとは、青ノリに似ている海藻です。
「塩」✕ レモン
まずはレモンをいただきます。
器が小さいため、レモンで表面全体が覆われてしまっていますが、レモンの色彩は見た目にも華やかな感じをプラスしてくれる気がします。
これはいいですね。
塩のうま味とレモンの酸味がうまく混じり合っています。酸味、うま味、酸味の順番に味がきます。例えが北陸でなくて申し訳ないですが、気分は夏の瀬戸内海です。味の協調性は、トップクラスに高いです。
しかし、簡易性はちょっと低い印象があります。自宅に戻ってからまな板と包丁を出し、レモンを切る手間を嫌う人には、面倒な作業になるかもしれません。
「塩」✕ アオサ
次はアオサをいただきます。
アオサは麺にうまく絡みます。
これも素晴らしいです。
鼻に抜ける磯の香りがたまりません。口の中が、また北陸の例えでなくて申し訳がありませんが、沖縄の透き通った海になりました。福井の水晶浜でもいいかもしれません。「塩」味の良さがうまく生かされています。
家庭によっては、自宅に置いてない可能性も十分に考えられますが、あればさっと振り掛けて味が変えられる簡易性も、高評価のポイントです。アオサはマイナス面が少ないトッピングです。
強いて言えば、青ノリのように歯に付くので、人に会う前にはお勧めできません。歯磨きを忘れずに。
「塩」✕ 梅干し
最後は梅干しです。梅干しは何に入れてもおいしいので、結構自信がある「ちょい足し」メニューです。
梅肉をよく溶かしていただきます。
あれ……?
ちょっと予想と違います。梅干しの酸味やうま味は感じられますが、野菜らーめんの「塩」の存在が消えました。梅干しの存在が強すぎる気がします。
この量に梅干し1個が多すぎたのかもしれません。
実食を踏まえて、「塩」の「ちょい足し」は以下のようになりました。
レモン、アオサについては素晴らしい味でした。一方で自信のあった梅干しがまさかの結果になりました。
梅味のラーメンがジャンルとして存在すると考えれば、梅干しの種類や量の調整次第でおいしくなるのかもしれません。
ただ、繊細な調整が必要になると考えると、簡易性の観点ではマイナスとなりました。
「醤油」のちょい足しレシピ
さて、次は「醤油(しょうゆ)」です。シンプルな味わいの「塩」のちょい足しはすぐに思い浮かびましたが、「醤油」はかなり悩みました。
食べ比べをしていて気付きましたが、野菜らーめんの「醤油」は全ての味の中で、一番力強い味をしています。「塩」は野菜の味を優しく下支えしているのに対し、「醤油」は自分が先行して野菜たちをひっぱり上げているようなイメージです。
この味に対し、カレーやオイスターソースなど、さらに濃いちょい足しをしてしまうと、味がけんかしてしまうはずです。
悩んだ末に、ハチバンの商品開発部がつくった「ちょい足し」レシピの資料を参考にしつつ、この3つの調味料を「ちょい足し」に選びました。
左から、サバの水煮、生クリーム、オレンジマーマレードです。
かなりチャレンジングな選定をしていますが、決してふざけているわけではなく、それぞれに根拠があります。
「醤油」✕ サバの水煮
サバの水煮については、「にしんそば」から着想を得ています。濃いめのだし汁に、ニシンの身からうま味が次第に溶け出すにしんそば。この味をラーメンで再現ができないかと考えた結果の候補です。
そのままでは見た目にインパクトが強いので、サバの身をよくほぐして、いただきます。
おお!
予想以上にいいです。サバの魚介のうま味が追加され、味にさらに深みが出ました。ラーメンに魚粉(ぎょふん)を入れた印象に近いです。
生臭さを心配していましたが、さほど感じられません。ほぐれたサバの身の食感もプラスされて、野菜らーめんがより和風な味わいになりました。
入れすぎると生臭さが勝ってしまうので、好みの味わいになるまで、ちょっとずつ足した方が良さそうです。
「醤油(しょうゆ)」✕ 生クリーム
次は生クリームです。先ほどのサバの水煮はうま味を足す方向でしたが、今回はしょうゆの力強さをマイルドにする狙いがあります。
生クリームを入れて、よく混ぜます。不安な色合いになってきましたが、いただきます。
おっ、これはありです。
狙い通り、しょうゆのとがった味わいが丸くなりました。乳製品のまろやかさが加わって、和風クリームパスタのようです。
ただ、脂肪分がプラスされるので、もったりしすぎるかもしれません。あまり長く感動も続きません。最後にちょっと入れるくらいの「ちょい足し」がいいと考えられます。
「醤油(しょうゆ)」✕ オレンジマーマレード
最後は、オレンジマーマレードです。「家庭の冷蔵庫にはマーマレードが入っていそう」という編集部メンバーの一言も、選定理由の1つですが、「8番」の野菜らーめんに「甘み」という新しい観点を持ち込む狙いがあります。
「砂糖醤油」という絶対的な組み合わせがあるように、甘みの追加は8番らーめんの「醤油」味にとって、プラスに働く可能性もあるはずです。
「塩」の「ちょい足し」で試したように、かんきつ類のレモンも、ラーメンに大変な協調性を見せていました。同じかんきつ類を使ったマーマレードが、似たような協調性を見せてくれる可能性もあるいはずです。
「ありえない」と思われる組み合わせが、偶然によって発見され、後の世の中で定番になるケースも歴史の中では少なくありません。
もちろん、不安はありますが、マーマレードを1さじ入れた後に、よく混ぜていただきます。見た目の変化はほとんどありません。
これは、評価が分かれる味わいです。
狙ったような衝撃的なマリアージュ(「結婚」という意味の言葉で、料理とお酒の相性を語る際に使われる)にはなりませんでした。
もちろん、まずくはありません。しょうゆのキレを残しつつも、マーマレードに含まれている砂糖が溶けて、いうなれば照り焼きや、すき焼きの割り下の味に近い印象です。
ラーメンというよりも、「うどんすき」に近いです。生卵を入れてもいいくらいです。
狙った通り、オレンジの皮が含まれているので、かんきつ類のさわやかさを感じます。
強い甘さゆえに、食べきるまでに、あきられる心配もありますが、HOKUROKU編集部の女性メンバーの試食では、非常に好評でした。
むしろ、「醤油」の中ではこれが一番とのコメントもありました。甘みの追加は「醤油」味にとって、プラスに働く可能性が見い出せました。
以上を整理すると、「醤油」のトッピングは以下のような結果になりました。
次回は「味噌(みそ)」味と「とんこつ」味の検証を行います。
(編集部コメント:最初にマーマレードと聞いた時、ふざけているのかと思いましたが、試すにはしっかり根拠があったのですね。まだまだ実食は続きます。)
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