救急ばんそうこうを「キズバン」と富山の人だけが呼ぶ理由。

2020.10.29

vol. 04

〈きずぐすりばんそーこ〉が語源説。

配置薬の従事者が訪問先で配っていた紙風船のレプリカ。撮影:坂本正敬。

富山県の各家庭には配置薬がかなりの確率で置かれていたとの状況を前回までに確認しました。

 

ではその配置薬の「救急箱」の中に、一体どのような名前の救急ばんそうこうが入っていたのでしょうか。

 

その真相を探る前に(救急)ばんそうこうとは何なのか、どのような歴史で人類に親しまれていったのか、そもそもの歴史を整理しておく必要があると感じます。

 

1921年(大正10年)にアメリカのニュージャージ州に住むアール・E・ディクソン(後の米ジョンソン・エンド・ジョンソン社の副社長)が考えたアイデアグッズを、救急ばんそうこうはそもそもの発端としています。

 

初期のアイデアは医療用テープの中央にガーゼを置く手づくり品で、その発明は〈バンドエイド〉として後に製品化されました。

 

日本での歴史は一方で、第二次世界大戦が終わって間もない1948年(昭和23年)に、日絆薬品工業(現・ニチバン)やリバテープ製薬が発売する救急ばんそうこうに端を発します。これらの製品は最初からテープがカットされたタイプでした。

 

それ以前の日本で「ばんそうこう」と言えば、テープ状の布が巻き取られていて、使いたい分だけをロールから引き出し、手やはさみで切って使用する医療品を意味していました。

 

富山市売薬資料館に所蔵された、旧来のロールタイプのばんそうこう。撮影:坂本正敬。

この旧来のばんそうこうに対して最初から使いやすいサイズにカットされている便利なばんそうこうが、昭和20年から30年代、西暦で言えば1945年から1965年の20年間に上述の各社から次々と発売されます。

 

新しいタイプのばんそうこうは同じばんそうこうでも急いで使えるために「救急ばんそうこう」と区別されました。現代ではその「救急」の部分が脱落して「ばんそうこう」=「救急ばんそうこう」を意味しています。

 

この新しい(救急)ばんそうこうがロール状のばんそうこうに取って代わる間、富山の配置薬の中にも「キズバン」的な商品名で(救急)ばんそうこうが増えていったと、話を聞いた富山市売薬資料館の学芸員が教えてくれました。

共立薬品(奈良)や阿蘇製薬(熊本)の製品が〈きずぐすりばんそーこ〉として販売。

(救急)ばんそうこうが配置薬の中に増えていく時期の富山は、戦後の壊滅的な被害からの復興期にあたります。

 

1945年(昭和20年)8月2日の夜、午前0時30分から2時間にわたって182機の米軍爆撃機が富山に来襲し、そのうち174機が市街地の99.5%を破壊しました。

 

富山市売薬資料館の学芸員も、

 

「戦後間もなく、富山は製薬もままならず、配置業もすぐには軌道に乗らなかったでしょう。

 

他県の会社の製薬品を利用し、発売元として富山の名で売るという方法が多くとられたのではないかと思います。

 

富山の名を冠しない場合でも、他県の薬を配置薬として取り寄せ、富山の販売員が売っていました」

 

と当時を振り返ります。

 

富山の製薬会社は余裕がなかったからこそ、他県の製薬会社がつくった救急ばんそうこうを配置薬に利用し、時に商品名を変えて富山で流通させる戦略を取ったとの話です。

 

呉羽山のふもとにある売薬資料館。撮影:坂本正敬。

同館の学芸員によれば、

 

「昭和30年代ごろには、共立薬品(奈良)の〈きずリバテープ〉、阿蘇製薬(熊本)の〈リバテープ〉が、配置薬業の方々から富山で販売されています」

 

との話。しかも、

 

「配置薬業の方々から販売される際の商品名は〈きずぐすりばんそーこ〉と記されています」

 

と言います。この商品名を略した呼び名が「キズバン」の語源ではないかと考えられるのですね。

 

富山市売薬資料館に所蔵されている〈きずぐすりばんそーこ〉。撮影:坂本正敬。

略語のメカニズムを語った岡田真・高橋幹浩の論文「漢字を中心とした複合語の略語の自動生成」を読むと〈きずぐすりばんそーこ〉が略されて「キズバン」になったという考えはいよいよ信ぴょう性が増します。

 

上述の論文に照らし合わせて考えると「きずぐすりばんそーこ」は

 

(1)「きず」

(2)「くすり」

(3)「ばんそうこう」

 

という3つの要素に分解ができます。

 

(1)が省略されずに残り(形態素非短縮)(2)が略語づくりにあたって使用されず(形態素非使用)(3)の先頭2文字「ばん」だけが使われる(先頭文字)略語の法則に沿って略されていったとすれば、十分に考えられる言葉の成り立ちです。

 

パッケージの表記に注目。旧来のばんそうこうを手ごろなサイズにカットするだけではなく、殺菌と消毒の薬を含ませたガーゼを張り付け、それ自体にほうたいの役割も救急ばんそうこうには持たせられていた。写真:坂本正敬。

各家庭で子どもや大人が傷をつくれば配置薬の中に入っている「きずぐすりばんそーこを持ってきて」といった会話が増えるはずです。

 

長い商品名を毎回呼ぶとなると面倒ですから、先ほどの法則に従って「キズバン」の略語が自然発生的に生まれたとも自然に考えられます。

 

そのうち「キズバン」と呼ぶ人が増え、一般名詞として富山で定着したと考えられるのですね。

 

(副編集長のコメント:次はいよいよ最後の第5回。きずぐすりばんそーこは本当に配置薬の中に入っていたのか「裏取り」をします。)

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