富山の人が「ばんそうこう」を「キズバン」と呼ぶ唯一の県民である理由。

2020.10.28

vol. 03

<きずぐすりばんそーこ>が「キズバン」の語源ではないか。

配置薬の従事者が訪問先で配っていた紙風船のレプリカ。撮影:坂本正敬。

「キズバン」という言葉は、戦後の富山で置き薬が普及していく中で、置き薬の中に「キズバン」的な名前の商品が含まれていて、その商品名が影響を与えたのではないかという話がありました。

 

戦後という時期も出てきました。そもそも素朴な疑問として、ばんそうこうは、いつから世の中に存在しているのでしょうか。

 

もともとは1921年(大正10年)に、アメリカのニュージャージ州に住むアール・E・ディクソン(後の米ジョンソン・エンド・ジョンソン社の副社長)が考えたアイデアグッズが、現代の救急ばんそうこうの発端となっています。

 

初期のアイデアは、医療用テープの中央にガーゼを置く手づくり品で、後にその発明は<バンドエイド>として製品化されました。

 

日本での歴史の始まりは、もっと遅くなります。第二次世界大戦が終わって間もない1948年(昭和23年)に、日絆薬品工業(現・ニチバン)やリバテープ製薬が、現代のような最初からカットされたタイプの救急ばんそうこうを発売します。

 

それ以前は日本で「ばんそうこう」と言えば、異なる医療品を意味していました。

 

かつてのばんそうこうは、テープ状の布が巻き取られていて、自分で使いたい分だけをロールから引き出し、手やはさみで切って使用していました。現代のテーピングや包帯に近い医療品ですね。

 

富山市売薬資料館に所蔵された、旧来のロールタイプのばんそうこう。撮影:坂本正敬。

しかしこの旧来のばんそうこうに対して、最初から使いやすいサイズにカットされている新しいばんそうこうが、上述した通り、昭和20年から30年代、西暦で言えば1945年から1965年の20年間に、各社から次々と発売されます。

 

新しいタイプのばんそうこうは、同じばんそうこうでも「救急ばんそうこう」と区別されました。現代ではその「救急」の部分が脱落して、「ばんそうこう」=「救急ばんそうこう」を意味しています。

 

この新しい(救急)ばんそうこうが戦後にロール状のばんそうこうに取って代わり、広まっていく間、富山の配置薬の中にも「キズバン」的な商品名の(救急)ばんそうこうが増えていったと考えられます。

共立薬品(奈良)や阿蘇製薬(熊本)の製品が、<きずぐすりばんそーこ>として配置薬業から販売される。

救急ばんそうこうが配置薬の中に増えていく時期の富山は、戦後の壊滅的な被害からの復興期にあたります。

 

1945年(昭和20年)8月2日の夜、富山には午前0時30分から2時間にわたって182機の米軍爆撃機が来襲し、そのうち174機が、市街地の99.5%を破壊しました。

 

こうした時代背景があったため、富山市売薬資料館の学芸員も、

 

「戦後間もなく、富山は製薬もままならず、配置業もすぐには軌道に乗らなかったでしょう。

 

他県の会社の製薬品を利用し、発売元として富山の名で売るという方法が多くとられたのではないかと思います。

 

富山の名を冠しない場合でも、他県の薬を配置薬として取り寄せ、富山の販売員が売っていました」

 

と、当時の薬業の世界を振り返ります。

 

富山の製薬会社は余裕がなかったからこそ、他県の製薬会社の救急ばんそうこうを利用して、時に商品名を変え、富山で流通させる戦略を取ったという話ですね。

 

呉羽山のふもとにある売薬資料館。撮影:坂本正敬。

実際、同館の学芸員によれば、

 

「昭和30年代ごろに、共立薬品(奈良)の<きずリバテープ>、阿蘇製薬(熊本)の<リバテープ>が、配置薬業の方々から富山で販売されています」

 

との話。しかも、

 

「共立薬品(奈良)や阿蘇製薬(熊本)の製品が配置薬業の方々から販売される際の商品名は、<きずぐすりばんそーこ>と記されています」

 

と言います。恐らくこの商品名を略した形が、『キズバン』の語源なのではないかと、考えられると言うのですね。

 

富山市売薬資料館に所蔵されている<きずぐすりばんそーこ>。写真:坂本正敬。

配置薬の中に入っていた<きずぐすりばんそーこ>が略されて、「キズバン」になったという考えは、略語のメカニズムを語った岡田真・高橋幹浩の論文「漢字を中心とした複合語の略語の自動生成」を読むと、さらに信ぴょう性が増します。

 

上述の論文によれば、(詳細は省きますが)略語には幾つか法則があると言います。「きずぐすりばんそーこ」の場合は、(1)「きず」(2)「くすり」(3)「ばんそうこう」という3つの要素に分解ができます。

 

仮に(1)が省略されずそのまま生き残り(形態素非短縮)、(2)が略語づくりにあたって使用されず(形態素非使用)、(3)が先頭の2文字「ばん」だけを使っている(先頭文字)といった、略語の法則に沿って略されていったとすれば、十分に考えられる言葉の成り立ちなのですね。

 

パッケージの表記に注目。救急ばんそうこうは、旧来のばんそうこうを手ごろなサイズにカットするだけではなく、殺菌と消毒の薬を含ませたガーゼを張り付け、それ自体にほうたいの役割も持たせた。写真:坂本正敬。

各家庭で子どもや大人が傷をつくれば、配置薬の中に入っている「きずぐすりばんそーこを持ってきて」といった会話が日常で増えます。

 

その長い商品名を毎回呼ぶとなると面倒ですから、先ほどのような法則に従って、「キズバン」と呼ぶ略語が自然発生的に生まれたと考えられます。

 

結果として、「キズバン」と呼ぶ人が増え、そのうちに一般名詞として富山で定着したと考えられるのですね。

 

(次は第4回、「キズバン」を実際に扱っていた売薬さんの証言に続きます。)

この記事を書いた人

坂本 正敬

オプエド

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