救急ばんそうこうを「キズバン」と富山の人だけが呼ぶ理由。

2020.10.27

vol. 02

「キズバン」に関する先行研究。

写真:photoAC。※写真はイメージです。

インターネット上の情報に書かれている情報には間違いがあると分かりました。

 

では次に何をすればいいのでしょうか。

 

例えば学術論文を読むと最初に先行研究のコーナーが冒頭にあります。過去の研究者たちが同じテーマでどこまで研究していて、どこまで成果として分かっているのか、どこから先が分かっていないのか、現状の研究状況を調べるわけです。

 

「キズバン」の呼び方についてもどのような研究が過去に行われ、どのような資料や論文があるのか、「薬都」富山の富山県厚生部くすり政策課や富山大学、富山県立図書館のレファレンス(参考調査)の力を借りて確かめてもらいました。

県では情報を把握していない。

富山県は「くすりの富山」「薬都」と呼ばれ、自分たちでもその方向性を打ち出しています。薬の一種であるばんそうこうについても何か情報が集まっているだろうと、富山県厚生部くすり政策課にまず問い合わせてみました。

 

「どうして富山の人はばんそうこうをキズバンと呼ぶのか?」と広報課の担当者に聞くと「県では情報を把握していない」との回答があります。

 

とても協力的な担当者で広報課から他部署にも問い合わせてくれたみたいです。回答できる部署はしかし見当たりませんでした。

 

これだけ市民の間で「キズバン」という呼び名が広まっているのにもかかわらず、さらに「くすりの富山」をアピールする富山県が情報を持っていないというギャップに(仕方ないのですが)意外な気もしました。

 

地元の人からすれば当たり前すぎる話なので誰も注意してこなかったのかもしれませんね。

1992年以前の地方名・方言。

富山の頭脳が集まる富山大学にも聞いてみました。「この方面に詳しい人を教えてほしい」と友人の教授を頼ると、富山大学人文学部の先生の名前が挙がってきます。

 

富山県の方言番付表の監修をするなど、紹介された先生は地域の言葉の専門家でもあります。研究室の連絡先からコンタクトを取り「どうして富山県民はばんそうこうをキズバンと呼ぶのか」と聞いてみました。

 

結論から言えば先生も真相を知りませんでした。「語源について考えたことがありませんので明確な考えはありません」との回答です。

 

ばんそうこうの呼び名が異なる事実は多くの人にとって当たり前すぎて、やはり見過ごされているみたいです。

 

〈ライト キズバン〉を販売するライト社から得た情報を富山大学の先生に伝えると「老年層でも『キズバン』と呼んでいますので、(ライト キズバンが販売開始となった)1992年(平成4年)以前からの地方名・方言であろうと推測できます」との助言がありました。

 

富山県民の呼び方に同商品が影響を与えたわけでは少なくともないとあらためて分かりました。

どうして富山の人が「キズバン」と呼ぶのか誰も明らかにしていない。

富山県立図書館のレファレンス(参考調査)にも問い合わせて「キズバン」に関係する記述が見られる過去の史料を一通りあたってもらいました。調査結果がすぐに届き、以下の史料に記述があると教えてくれます。

  • 篠崎晃一著〈出身地(イナカ)がわかる!気づかない方言〉(毎日新聞社)2008年
  • 篠崎晃一著〈気づかない方言 2「救急絆創膏」〉(明治書院)1997年

1つ目は一般の書籍、2つ目は同じ著者の論文です。

 

県立図書館で書籍を借り、論文については富山県立図書館が所蔵していなかったため、富山大学で複写を用意してもらいました。

 

富山大学の中央図書館。

史料に目を通すと、どちらにも全国の(救急)ばんそうこうの呼び方マップが掲載されています。

 

国内最大手のばんそうこうメーカー阿蘇製薬(熊本)が作成した地図を基にしたオリジナルの呼び方マップを第1話で掲載しました。

 

内容から判断して阿蘇製薬のマップは篠崎晃一さん(現在は東京女子大学の教授)の調査結果を参考にしていると分かります。

 

しかし残念ながら篠崎さんのどちらの史料にも、富山の人がなぜばんそうこうを「キズバン」と呼ぶのか、その理由については踏み込んで調査されていません。

“富山といえば薬売り。その中にある商品名にその名があるのか?“(〈出身地(イナカ)がわかる!気づかない方言〉より引用)

 

“キズバンは、高年層では青森、富山、若年層では富山に見られるだけである。「富山の薬売り」とも関連があるかも知れない”(〈気づかない方言 2「救急絆創膏」〉より引用)

キズバンの呼び方の由来に関する先行研究はこれ以外の記述が見当たりませんでした。ここに来て、どうして富山県民がばんそうこうを「キズバン」と呼ぶのか、誰も調べていないとの事実が分かってきました。

極東きず絆テープ。

ただし、富山県立図書館の調査課の報告はここで終わりません。篠崎さんの研究で書かれた「富山といえば薬売り」の記述に関する情報が担当者から得られます。

 

「富山といえば薬売り」とは、富山(越中)で江戸時代に始まった配置薬の話です。配置家庭薬を富山から日本全国へ売って回る薬売りやその行為を意味します。

 

その富山の配置薬でどのような薬を扱っていたかを示す資料〈富山県配置家庭薬品目収載台帳 第1集~第4集〉(1962)の中に、

 

「第2集のp107極東薬品の製品名に〈極東きず絆テープ〉と記載された製品がありました」

 

と県立図書館の調査課の担当者が教えてくれたのです。

 

全国各地では、地元で流通する商品名が「ばんそうこうの」の呼び名に強い影響を与えていました。同じように富山にも(今でこそ販売を停止しているものの)「キズバン」の名称を持つ商品がかつて流通していて、県民の呼び名にその商品名が影響を与えた可能性が浮上してきたのです。

 

極東きず絆テープのように「キズバン」の名前を持つ商品がどれくらい富山の配置薬の中に入っていたのか、そもそも配置薬(置き薬)はどれくらい富山の家庭に入り込んでいたのか、このあたりを調べれば真相究明に近づけそうです。

 

調査の方向性が見えてきました。

 

(副編集長のコメント:富山の薬売りがどのようなばんそうこうを扱っていたのか、調査は続きます。)

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