救急ばんそうこうを「キズバン」と富山の人だけが呼ぶ理由。

2020.10.26

vol. 01

〈ライト キズバン〉が語源ではない。

写真:photo ACより。

北陸の皆さん、あるいは北陸にルーツを持ちながら北陸以外の場所で〈HOKUROKU〉を読んでいる皆さん、突然ですが「ばんそうこう」を何と呼びますか?

 

編集長の私(坂本と申します)は関東で生まれ育ちました。当たり前のように「バンドエイド」と呼んでいましたが、全国を旅するようになり、あるいは各地に引っ越しをするようになって、「ばんそうこう」の呼び名がどの地域も違っていると知りました。

 

富山の人たちは中でも、全国を見回しても類例のないユニークな呼び方をしています。こちらの地図を見てください。

 

 

国内最大手のばんそうこうメーカー阿蘇製薬株式会社(熊本)が作成した全国の「ばんそうこう呼び方マップ」を基にHOKUROKU編集部が作成した地図です。

 

さまざまなばんそうこうの呼び名が全国にはあるそうで、東京周辺・名古屋周辺・大阪周辺など三大都市圏では、外資系メーカーである米ジョンソン・エンド・ジョンソン社の商品〈バンドエイド〉の名前が広く普及しています。

 

圧倒的な経営資源を使って大都市圏の市場シェアを切り取っていったのでしょう。

 

〈サビオ〉(阿蘇製薬)も〈カットバン〉(祐徳薬品工業)も〈リバテープ〉(阿蘇製薬)も、それぞれの地域で大きなシェアを獲得している(いた)ために、地域に暮らす人たちの「ばんそうこう」の呼び名に商品名が使われています。

 

これほど奇麗に県境で呼び方が変わるわけも実際にはないはずですが、石川・福井の少なくない人がこの地図のとおり、「ばんそうこう」と実際に呼んでいるのではないでしょうか?

 

しかし全国に唯一独自の呼び名を使っている県が北陸にはあります。富山の「キズバン」です。「キズバン」と呼ぶ地域が他に(ほぼ)存在しないのにもかかわらず県内での浸透ぶりはすさまじいです。

 

HOKUROKUの副編集長にして編集部唯一の富山出身者である大坪に「ばんそうこうを何て呼ぶ?」と聞けば、当たり前といった顔で「キズバン」と答えました。

 

筆者の家の近所にあるドラッグストアの陳列棚にも「キズバン」という案内板が掲示されています。

 

他の地域で生まれ育った筆者が富山に越してきて間もなく、お世話になったご高齢の女性も「キズバン」と言っていました。

 

まさにこのユニークな呼び方について「HOKUROKUで取材してほしい」との依頼が編集部に届きました。長年のライターのキャリアから考えても面白そうな「におい」がします。

関連:100年前のニュースに学ぶ。北陸3県の「スペイン風邪」365日。

「富山県民がゴルフ好き」なわけでもない。

写真:photo ACより。

「キズバン」の由来について何から手を付ければいいのでしょうか? インターネットでまずはざっと調べてみました。

 

先ほど掲載した「ばんそうこう呼び方マップ」も阿蘇製薬のホームページ情報を基としています。「ばんそうこう」の呼び名は、その土地で流通している商品名が代役を果たしている場合が多いと同サイトからは読み取れます。

 

言い換えれば「キズバン」も同名の商品が富山に存在していて、その商品名が一般名詞として使われている可能性があるのですね。

 

調べてみると「キズバン」を商品名にする商品が、1つだけ現行販売されていると確かに分かります。ライト株式会社(東京)の製品〈ライト キズバン〉です。

 

ライト社提供〈ライト キズバン〉。写真:坂本正敬。

どういった医療品なのかライト社に問い合わせると、全国のゴルフ場・スポーツショップでしか基本的に販売していない商品だと分かります。

 

その情報のせいでしょうか、「富山県民はゴルフ好きだから、ライト キズバンの商品名が富山県民の呼び方に影響を与えたのではないか」と地元のブログメディアがインターネット上で書いています。

 

しかし後から調べて分かった話として、富山県民のばんそうこうの呼び方にライト キズバンが影響を与えた可能性はゼロです。

 

富山県民がゴルフ好きという事実がまずありません。

 

人口10万人当たりのゴルフ場の件数を〈タウンページ〉で調べると、下から数えた方が早いくらい全国の都道府県と比べて富山県は下位に甘んじています。

 

富山のゴルフ場で同商品が特に売れている事実もないとライト社の担当者は教えてくれました。

 

同商品の発売時期は1992年(平成4年)です。年配の人が「キズバン」と呼ぶ事実を考えると発売時期の整合性も取れません。

 

ライト キズバンの商品名の由来についてもライト社の担当者に聞くと以下のような説明がありました。

 

「富山のことは何も参考にしていませんし、調査もせずに、ただ単に傷に付けるばんそうこうだから『キズバン』と命名した記憶があります。『キズバン』の登録がなかったこともあり、命名・商標登録に至りました」

 

現在流通している唯一の「キズバン」が富山県民の呼び方の由来では少なくともないとだけ分かりました。

 

では、ばんそうこうを「キズバン」と富山県民はどうして呼ぶのでしょうか。調査は続きます。

 

(副編集長のコメント:次は第2回。取材の範囲を広げていくとあれこれとヒントが見付かってきました。)

もともとはスウェーデンのセデロース社のブランド。同社が1963年(昭和38年)に、ニチバン株式会社(東京)を通して日本市場に進出を果たす。その後、ライオン歯磨株式会社(現在はライオン株式会社)にブランドが譲渡され、阿蘇製薬の製造で、全国で販売された。

この記事を書いた人

Avatar

関連する記事

オプエド

この記事に対して、前向きで建設的な責任あるご意見・コメントをお待ちしております。 書き込みには、無料の会員登録、およびプロフィールの入力が必要です。