富山の人が「ばんそうこう」を「キズバン」と呼ぶ唯一の県民である理由。

2020.10.30

vol. 05

「キズバン」に関する「先行研究」。

写真:photoAC。※写真はイメージです。

ここまでは、富山県厚生部くすり政策課の広報担当者、富山大学人文学部の先生、富山市売薬資料館の学芸員、富山県薬業連合会の担当者の協力を得て、調査を進めてきました。

 

他県の薬を改名した<きずぐすりばんそーこ>が略語を生み、その略語が普及するとともに類似の商品を生み、その類似品が配置薬の中で目立つようになって、いよいよ「キズバン」が富山で一般名詞になっていったのではないかという歴史を語りました。

 

この点について、過去に同様の研究を深めた資料や論文はあるのでしょうか?

 

仕上げとして、富山県立図書館のレファレンス(参考調査)の力を借り、関連する資料がないか確かめてもらいました。

どうして富山の人が「キズバン」と呼ぶのか、誰も明らかにしていない。

そもそも図書館にあるレファレンスという機能について、補足が必要かもしれません。辞書には、

“ 図書館の参考調査係”(小学館『大辞泉』より引用)

と書かれています。図書館の調査担当者が、館内に所蔵する情報を使って、利用者からの疑問に無料で答えてくれるサービスですね。

 

「わざわざお願いしなくても、インターネットで調べればいいじゃない」

 

という声も、若い世代からは聞こえてきそうです。しかし、情報発信の仕事をしている筆者の立場からすると、現状でインターネットに出ている情報は、まだまだ「薄っぺらい」状態。

 

少なくとも今この瞬間、過去に人類が積み重ねてきた研究の成果を確かめようと思えば、各図書館に紙の状態で収蔵されている資料を当たるしかありません。

 

今回も過去に「キズバン」の由来に関する先行研究が存在しないか、富山県立図書館の調査課に問い合わせてみました。

 

早速、上がってきた資料は以下の通りで、こちらに関係する記述が見られました。

  • 篠崎晃一著『出身地(イナカ)がわかる!気づかない方言』(毎日新聞社)2008年
  • 篠崎晃一著『気づかない方言 2「救急絆創膏」』(明治書院)1997年

1つ目は書籍、2つ目は同じ著者の論文です。見ると、どちらの資料にも全国の(救急)ばんそうこうの呼び方マップが掲載されています。

 

『HOKUROKU』も第1話で、国内最大手のばんそうこうメーカー阿蘇製薬(熊本)が作成した地図を基に、オリジナルの呼び方マップをつくりました。

 

この元ネタである阿蘇製薬のマップの情報源は、内容から判断しても、篠崎晃一さん(現在は東京女子大学の教授)が行った1995年(平成7年)の研究調査だと考えられます。

 

富山県民がばんそうこうをキズバンと呼ぶ根拠としていたマップ自体の信ぴょう性についても、これである程度は担保されたはずです。

 

ただ、残念ながらどちらの資料も、なぜ富山県の人が「キズバン」と呼ぶのか、その理由ついては踏み込んで調査が行われていません。

“富山といえば薬売り。その中にある商品名にその名があるのか?“(『出身地(イナカ)がわかる!気づかない方言』より引用)

 

“キズバンは、高年層では青森、富山、若年層では富山に見られるだけである。「富山の薬売り」とも関連があるかも知れない”(『気づかない方言 2「救急絆創膏」』より引用)

言い換えれば、これ以外に関連の先行研究は見当たりません。どうして富山の人が「キズバン」と呼ぶのかについて、誰も明らかにしていないのですね。

 

富山大学の中央図書館。篠崎晃一著『気づかない方言 2「救急絆創膏」』(明治書院)は富山県立図書館に所蔵されていなかったため、富山大学で複写を用意してもらった。

元売薬の証言は、記憶違いではない。

富山県立図書館の調査課の担当者は、「なぜ富山県の人たちが(救急)ばんそうこうをキズバンと呼ぶのか」という筆者の質問に答えるために、別の所蔵資料にもあたってくれました。

 

具体的には、富山県の配置販売業者が扱う全品目が集録された、富山県薬業連合会編『富山県配置家庭薬品目収載台帳 第1集~第4集』(1962)と、富山県編『配置家庭薬品目収載台帳 第1巻目次』です。

 

前者は、第4話でも富山県薬業連合会の担当者から出てきた資料です。

 

どちらも、日本で(救急)ばんそうこうが広まっていった時期に、富山の配置薬ではどのような(救急)ばんそうこうが扱われていたかを記録する貴重な資料です。

 

配置薬として出回っていた各種のばんそうこう。富山市売薬資料館所蔵。写真:坂本正敬。

富山県立図書館の調査課の担当者によると、前者の『富山県配置家庭薬品目収載台帳 第1集~第4集』(1962)には、

 

「第2集のp107極東薬品の製品名に<極東きず絆テープ>と記載された製品がありました」

 

との話。1962年(昭和37年)に出された台帳に極東きず絆テープという言葉があるのですから、共立薬品(奈良)の<きずリバテープ>、阿蘇製薬(熊本)の<リバテープ>が<きずぐすりばんそーこ>として配置薬に入ってすぐ、類似の商品が生まれていった様子が分かります。

 

富山県立図書館の担当者によれば、残念ながら2つの台帳を見ても、商品名が正確に記載されていない情報も多いため、どれくらい「キズバン」的な名前の商品が当時の配置薬の中にあふれ返っていたのかは、正確に把握できないと言います。

 

しかし、後に富山県民の呼び方が「キズバン」に統一されていく事実を見ると、「キズバン」的な言葉が入った救急ばんそうこうは、配置薬の中にかなり存在していたはず。

 

戦後の1948年(昭和23年)に日絆薬品工業(現・ニチバン)、リバテープ製薬が日本版の(救急)ばんそうこうを発売し、昭和30年代に富山にも(救急)ばんそうこうがやってきて、その商品が改名され<きずぐすりばんそーこ>の名前で発売されました。

 

その商品名が略され、略語の浸透とともに後続の類似商品も生まれ、ますます呼び方が定着していった、この説を否定するパワフルな先行研究や資料は見当たらないと、あらためて富山県立図書館の協力で分かりました。

 

写真:photoAC。写真はイメージです。

以上が、調査結果の報告になりますが、いかがでしたでしょうか。こういう調査は、宝探しのようなワクワクがあって、楽しいですよね。

 

「実際に県境によってばんそうこうの呼び名が奇麗に異なるのか」というフィールド調査を、県境に暮らす人たちに対して行うともっと面白くなるはずですが、続きは機会があれば行いたいと思います。

 

何か「キズバン」の由来について、以上とは異なるパワフルな仮説や真相を知っている人が居たら、ぜひコメント欄で教えてくださいね。

 

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文:坂本正敬

編集:大坪史弥、坂本正敬

編集協力:中嶋麻衣

この記事を書いた人

坂本 正敬

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