ローカル・WEBマガジン・レポート〈real local 金沢〉編。

2021.06.22

第2回

根底の部分で「らしさ」を共有する。

取材は金沢にある有限会社E.N.N.の事務所の会議室で行われた。〈real local 金沢〉の編集は同事務所で行われている。

坂本:それでは本日はよろしくお願いします。小津さんには先だって〈HOKUROKU〉の特集にも登場してもらいました。

関連:HOKUROKUの「考える技術」を読んで人気の建築家が考えた話(アート思考編)

その際にはプログラミング的思考・デザイン思考に並ぶアート思考という魅力的な考え方を教えてもらいました。その節は本当にありがとうございました。

 

その時にインタビューを務めたHOKUROKUのウェブディレクター武井も本日は同席させてもらっています。

 

一方でreal local 金沢の編集部員である笠原さんとは本日が初対面です。今日はよろしくお願いします。

 

笠原美緑さん。

笠原:よろしくお願いします。

 

小津:ちなみに笠原は富山出身ですよ。

 

坂本:そうなのですか? 写真を撮っているフォトグラファーの山本は金沢の人間ですが、武井と私は富山です。

 

笠原:私は富山市で生まれ、今は金沢で一人暮らししています。

 

坂本:小津さんの事務所には石川の人以外も普通に居るのですね。

 

小津:特に富山は多いですよ。

 

事務所の様子。

坂本:県境に関係なく北陸の広域で当たり前のように人材が動いているこの状況が、私としては理想的な北陸のあり方だなと感じます。

 

ちなみに笠原さんは、どうして金沢に来たのですか?

 

笠原:大学が金沢でした。もともと就職のタイミングで別の企業から内定をもらっていたのですが、どうしてもこの会社と仕事に興味があって、駄目もとで履歴書を送ったら拾っていただいた形になります。

 

小津:もともと中途採用で人材を募集していたんですよ。即戦力がほしくて。にもかかわらず中途採用枠に新卒の人が4人も応募してきて、そのうちの1人が彼女でした。

 

坂本:見た目とか年齢で分かってしまいそうですけど。

 

笠原:とりあえず言わなければいけないぎりぎりのタイミングまで新卒だと黙っていました(笑)

 

小津:そうだっけ? でも最初から分かっていたような気もするな(笑)

 

坂本:それだけ小津さんのやってきた仕事が、地元の若者にも魅力的な仕事に映ったのかもしれませんね。

 

事務所の様子。4階建ての建物に7枚の床がある事務所内は、初見だと自分が今何階に居るのか分からなくなってしまうくらい複雑で、高低差の変化が実に楽しい。

笠原さんが入社してからreal localの編集に携わったタイミングはいつですか?

 

笠原:入社してすぐです。私は金沢R不動産のスタッフでもあるのですが、real localを担当している先輩が産休・育休に入ると決まっていたので、その間私が代わりに担当できるように不動産業務と並行して携わっていました。先輩は今第2子の育休中です。

 

学生時代に雑誌をつくっていたなどの経験もなく、編集や文筆の細かいテクニックなどを知っているわけではありません。

 

その意味で専門性には乏しいのですが、金沢に興味を持って移住したいと考えてくれる人がどのような情報に興味を持ってくれるのか、金沢に暮らす者として新しい視点を提示できたらと思って仕事しています。

物件にキャッチコピーが付けられるか。

E.N.N.の事業はe.n.n.architects(建築設計・空間デザイン※旧studio KOZ.)・金沢R不動産(不動産仲介)・広報メディア事業(real local・印刷物など)・八百萬本舗(町家を活用した複合店舗)からなる。

坂本:それでは本題へと入らせてもらいます。

 

real localのトップページを開くと「金沢」以外にも「神戸」だとか「郡山」だとか「山形」だとか幾つも地名が並んでいます。

 

real localというメディアはどのような体制で運営されているのでしょうか?

 

小津:real localの運営体制を語る上では、まず〈東京R不動産〉というウェブサイトを語る必要があります。

 

東京R不動産は一般的な不動産情報サイトと異なる形で不動産情報を紹介するサイトです。

 

従来の不動産情報サイトは家賃○○円・駅から徒歩○○分など定量的な情報で入居者を募っていました。

 

一方のR不動産では定量的ではなく定性的な情報、言い換えれば住み方に自由な選択肢を提供するような情報を扱っています。

 

写真中央の大きな建物がE.N.N.の外観。

例えば古くても雰囲気のある物件だとか、異様にバルコニーが広くて家庭菜園が楽しめる物件だとか、キャッチコピーが付けられるくらい特徴的な物件をR不動産では扱います。

 

一風変わった特徴があるけれど好みの合う人には最高の住まいになり得る物件とも言えるかもしれません。

 

その東京R不動産の地方版として自分たちで手を上げて金沢R不動産を立ち上げました。今ではその動きが広がって、各地にR不動産の緩やかな連携が生まれています。

 

坂本:金沢R不動産が地方版の第一号だったのですね。

 

小津:金沢R不動産で不動産仲介業を始めるうちに1つのはっきりとした傾向が見えてきました。

 

坂本:どんな傾向でしょうか?

 

小津:自分たちの扱う物件に入居希望する人は地元金沢の人よりも関東圏からの移住者が多かったのです。

 

この事実から金沢R不動産は不動産仲介業を通じて移住のお手伝いをしていると明確に気付いたわけです。

 

移住にあたって不動産選びは最後の工程です。それまでに仕事探しがあったり、地域の魅力探しがあったり、キーマンとなる人探しがあったりするはずです。

 

事務所の入り口で飼育されるクサガメ。人の手で巧妙に再現された公立植物園のジャングルのように、居心地の良いカオスが事務所の入り口から始まる。

しかしR不動産のウェブサイトではその部分の情報を扱っていません。

 

物件情報の手前に必要な情報を扱うメディアがあればいいなと思い、同じ地方版の〈神戸R不動産〉〈博多R不動産〉の運営者、さらにR不動産の編集ディレクターと相談して東京R不動産にプレゼンしました。

 

その結果としてreal localが立ち上がりました。

 

“全国のR不動産メンバーが、もっと気軽にいろんな土地に住んだり働いたりできるようになるためには、「家」の情報だけでは駄目で、「人」や「シゴト(求人)」、地元民や移住者と交流できる「イベント」、ホステルやシェアオフィス、コワーキングスペースのような宿り木的な「場所」などのインフォメーションが欠かせないと考えたことがきっかけだ。名付けて「働く場所も自由に探す、R不動産の移住マガジン」”(神戸R不動産の公式ホームページより引用)

体制としては全体を支える事務局があって、共通のサーバーを使いながら各地のR不動産が自分たちの地域のreal localを緩い契約関係で運営するという仕組みです。

 

なので各地のreal localの運営会社はばらばらです。

 

坂本:運営会社のメンバーも所在地もバラバラの状態で共通のブランドをつくろうとすると、明文化したスローガンなり憲章なりルールブックなりが必要になってくると思います。

 

その辺りの何か「憲法」のようなルールは存在するのですか?

 

小津:real localの運営ディレクターに安田洋平さんという人が居て、安田さんが「トンマナ」や投稿のルールを考えたり、全国のreal localのコンテンツを読んで少し調整したりしています。

 

しかしreal localだけでなくR不動産も同じなのですが、あえて強烈に縛りを設けるようなルールはつくっていません。

 

事務所周辺の様子。

そもそも東京R不動産の手法に共感して私は手を上げ金沢R不動産をつくらせてもらったわけですが、その土地その土地で文化や商習慣が異なるためにローカライズ(地元の特色に合せたアレンジ)が必要です。

 

ローカライズの際に本部からの縛りが強すぎるとやはりうまくいかないと思います。

 

R不動産の組織自体が緩やかにつながっているように、R不動産が母体となって生まれたreal localもルールをあえて緩くして、ローカライズの工夫からクリエイティブが生まれるような自由を残しています。

 

坂本:本当にそれだけの縛りで全体のブランドが守られるとはなかなか考えられないのですが。

 

小津:もちろん定例会として全体の編集会議は2~3カ月に1回行っています。創刊当初は毎月行っていました。

 

事務所の様子。

またreal localの運営メンバーに入るためのプロセスでも、世界観やカルチャーを共有できる人しか残らない仕組みになっています。

 

坂本:具体的にはどのようなプロセスがあるのですか?

 

小津:まずコアな運営メンバーの誰かがどこかの地方で面白い人に出会ったら、その人から「仲間に加わってもらおう」という提案があります。

 

その面白い人が(どこかの地方の)real localの運営に加わってくれるとなったら、創刊までの半年から1年の準備期間でコンテンツを実際につくって用意してもらいます。

 

その中で世界観やカルチャーを共有できるメンバーか自然に分かってきますし、残る人は残って去っていく人は去っていきます。

 

根底の部分で「らしさ」を共有できるメンバーしかreal localの運営には残らない仕組みがあるので、緩やかな連携でもブランドの方向性は保たれるのだと思います。

 

real local 金沢を運営するE.N.N.の書庫。見上げるほど背の高い書棚が至るところに並んでいて古今東西の書籍が詰まっている。圧倒的な背景知識・教養の厚みを連想させる。

(副編集長のコメント:ちょっと驚きました。全国各地でメディアを運営するに当たって厳密な「憲法」があるのかと思っていました。

 

自由さゆえの大変さも当然あると思いますが、ゆとりがクリエイティビティと密接に関係していると分かります。HOKUROKUも参考にします。)

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