〈きずぐすりばんそーこ〉が語源説
配置薬の従事者が訪問先で配っていた紙風船のレプリカ。撮影:坂本正敬
富山県の各家庭に配置薬がかなりの確率で置かれていたと前回までに確認しました。
では、どのような商品名の救急ばんそうこうが配置薬の「救急箱」に入っていたのでしょうか。
その真相を探る前に(救急)ばんそうこうとは何なのか、どのような歴史で人類に親しまれていったのか、大本の歴史を整理する必要がありそうです。
アメリカのニュージャージ州に住むアール・E・ディクソン(米ジョンソン・エンド・ジョンソン社の副社長に後でなる)が1921年(大正10年)に考えたアイデアグッズを、救急ばんそうこうは歴史の始まりとしています。
最初は、医療用テープの中央にガーゼを置く手づくり品でした。〈バンドエイド〉としてその発明は後に製品化されます。
日本での歴史は一方で、第二次世界大戦が終わって間もない1948年(昭和23年)までさかのぼります。日絆薬品工業(現・ニチバン)やリバテープ製薬が、救急ばんそうこうを販売しました。
それ以前の日本で「ばんそうこう」と言えば、テープ状の布が芯に巻き取られていて、使いたい分だけをロールから引き出し、手やはさみで切って傷口に使用する医療機器を意味していました。
富山市売薬資料館に所蔵されたロールタイプのばんそうこう。撮影:坂本正敬
この旧来のばんそうこうに対して、使いやすいサイズに最初からカットされている便利なばんそうこうが、昭和20年から30年代、西暦で言えば1945年から1965年の20年間に、日絆薬品工業(現・ニチバン)やリバテープ製薬から次々と発売されたのです。
新しいタイプのばんそうこうは最初から切れているので、同じばんそうこうでも急いで使えます。そのために「救急ばんそうこう」と区別されました。
整理すると「ばんそうこう(ロール状)」に対して「救急ばんそうこう(カットされたテープ状)」が生まれたわけです。
しかし「救急ばんそうこう(カットされたテープ状)」がメジャーになったため「救急ばんそうこう」の「救急」を省略して「ばんそうこう(カットされたテープ状)」と現代の人たちは呼んでいるのですね。
共立薬品(奈良)や阿蘇製薬(熊本)の製品が〈きずぐすりばんそーこ〉として販売
新しい「(救急)ばんそうこう」が「ばんそうこう(ロール状)」に取って代わる間に、富山の配置薬にも「(救急)ばんそうこう」がもちろん入るようになりました。
しかも「キズバン」的な商品名で「(救急)ばんそうこう」が増えていったと富山市売薬資料館の学芸員が教えてくれます。
「(救急)ばんそうこう」が配置薬の中に増えていく時期の富山は戦後の壊滅的な被害からの復興期にあたります。
1945年(昭和20年)8月2日の午前0時30分から2時間にわたって182機の米軍爆撃機が富山に来襲し、そのうち174機が市街地の99.5%を破壊しました。
富山市売薬資料館の学芸員も、
「戦後間もない富山は、製薬もままならず、配置業もすぐには軌道に乗らなかったでしょう。
他県の会社の製薬品を利用し、発売元として富山の名で売る方法が多く採られたのではないかと思います。
富山の名を冠しない場合でも、他県の薬を配置薬として取り寄せ、富山の販売員が売っていました」
と当時を語ります。
富山の製薬会社は余裕がなかったからこそ、他県の製薬会社がつくった救急ばんそうこうを配置薬に利用し、商品名を時に変えて富山で流通させる戦略を採ったとの話です。
呉羽山のふもとにある売薬資料館。撮影:坂本正敬
同館の学芸員によれば、
「共立薬品(奈良)の〈きずリバテープ〉、阿蘇製薬(熊本)の〈リバテープ〉が、昭和30年代ごろには配置薬業の方々から富山で販売されています」
との話。しかも、
「配置薬業の方々から販売される際の商品名は〈きずぐすりばんそーこ〉と記されています」
と言います。この商品名を略した呼び名が「キズバン」の語源ではないかと考えられるのですね。
富山市売薬資料館に所蔵されている〈きずぐすりばんそーこ〉。撮影:坂本正敬
略語のメカニズムを語った岡田真・高橋幹浩の論文「漢字を中心とした複合語の略語の自動生成」を読むと〈きずぐすりばんそーこ〉が「キズバン」に略されたとの考えは信ぴょう性が増します。
上述の論文に照らし合わせて考えると「きずぐすりばんそーこ」は
(1)「きず」
(2)「くすり」
(3)「ばんそうこう」
という3つの要素に分解ができます。
(1)が省略されずに残り(形態素非短縮)(2)が略語づくりにあたって使用されず(形態素非使用)(3)の先頭2文字「ばん」だけが使われる(先頭文字)略語の法則に沿って略されたと考えられますよね。
旧来のばんそうこうを手ごろなサイズにカットした上で、殺菌と消毒の薬を含ませたガーゼを張り付けていた。写真:坂本正敬
子どもや大人が傷をつくれば配置薬の中に入っている「きずぐすりばんそーこを持ってきて」といった会話が各家庭で増えるはずです。
長い商品名を毎回呼ぶと面倒ですから先ほどの法則に従って「キズバン」の略語が生まれたとも考えられます。
「キズバン」と呼ぶ人がそのうちに増え、一般名詞として富山で定着したのかもしれません。
(副編集長のコメント:次は、いよいよ最後の第5回。きずぐすりばんそーこは本当に配置薬の中に入っていたのか「裏取り」します。)
オプエド
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キズバンのなぞ、配置薬絡みで合ってます。
うちの近所に配置薬向けの薬品製造メーカー協同薬品が有り現在絆創膏は直接は扱っていませんが、そこの救急絆創膏もキズバンでした。そして、そこは農協の配置薬事業ともつながりが有り、現在は胃腸薬や鎮痛解熱薬しかおろしていませんが、過去には様々なくすりを下ろしていました。後は仮説ですが、協同薬品と農協との絡みが有ったとすれば幾つかのメーカーに商品名「キズバン」として製造委託していたのでは無いかと思われます。なんか垢抜けない「キズバン」の名称も農協命名とすればありそうな話ではないかと
ご愛読、および貴重な情報のご提供、誠にありがとうございます。協同薬品と農協の関係性、非常に興味深いです。頂いたコメントを通じて、記事の深み・信ぴょう性が増しました。感謝いたします。あらためまして、ありがとうございました(S編集長)