世界の豪雪都市に学ぶ。大人も子どもも楽しい雪国暮らしの「雪遊び」

2021.02.10

No. 03

まち中の公園でスキーを楽しめばいい。

まち中の公園でスキーを楽しむ「ケベコワ」たち。撮影:坂本正敬。

ただ北陸の県庁所在地のど真ん中に時速70kmのスピードが出る巨大なそりのコースをつくるアイデアは「北陸にもあったらいいな」という夢物語のたぐいです。

 

現状で存在しないのですからないものねだりで終わっては意味がありません。

 

自分一人がその気になれば今すぐ北陸でも始められる大人の雪遊びのヒントはないのでしょうか。

 

ちょうどこの原稿を書いている時に、富山県黒部市にあるスキー場〈宇奈月スノーパーク〉が盛況だという地元紙のニュースを読みました。

 

幸い北陸には身近な場所にたくさんスキー場があります。太平洋側の雪の降らない地域から引っ越してきた人から「スキー場の近さに幸せを感じる」と言われた経験もあります。

 

スキー・スノーボードだけではなく最近では「冬キャン」(雪の上でのキャンプ)などの言葉も聞きます。これらは「正当な」大人の雪遊びですよね。

 

石川県白山市の〈白山セイモアスキー場〉写真:石川県観光連盟。

しかし少なくない地元の人からすれば、県内のスキー場には通い慣れているため新鮮さを感じられない問題もあると思います。

 

〈雁が原スキー場〉(福井県)〈鳥越大日スポーツランド〉(石川県)〈閑乗寺スキー場〉(富山県)など家族連れのお出掛けや学校の授業でも使われてきた身近なスキー場が現に次々閉鎖に追い込まれています。

 

福井県勝山市の〈雁が原スキー場〉。写真:福井県観光連盟。

マンネリ化した意識で真冬のスキー場を連想すると、近いはずの距離もさらに「遠く」に感じるのではないでしょうか。

 

いよいよ冬場は腰が重くなり、屋根の雪下ろしや通勤、買い物など必要がなければ外に出ない「北陸らしい」暮らしぶりになっている可能性もあります。

いしかわ四高記念公園だとか富山城址公園だとかでクロスカントリー・スキーをする。

まち中の公園でそり遊びを楽しむ親子。写真はケベック・シティではなくケベック州モントリオール。撮影:坂本正敬。

ただ、北陸の外から引っ越してきた私(坂本)からすると、北陸の人たちの体にたたき込まれたスキーの技術には驚嘆させられます。

 

スキー用品を全部処分してしまった北陸生まれの大人たちでさえ「パラレルターンはできるのですか?」と聞くと、「そりゃあ、当たり前だよ」「毎週のように通っていたし」「うちの主人はインストラクターだった」みたいな武勇伝が次々と出てくるわけです。

 

学生時代までは人生で何回かしか雪山に行けなかった、雪山への移動が「大旅行」だった私からすると、その潜在的なスキルがまぶしく見えるわけです。

 

このスキルを埋もれさせてしまってはもったいないですよね。

 

例えば、ケベック・シティの人たちの場合、スキー場以外でもスキーを楽しみます。

 

もちろんケベック・シティの郊外にも素晴らしいスキー場がたくさんあります。ただまちの中心部とスキー場の距離感はほとんど北陸と変わりません。

 

面倒と言えば面倒な距離にあるので「ケベコワ」たちはもっと近場でもスキーを楽します。近場とはまち中の大きな公園です。

 

いしかわ四高記念公園(金沢市)だとか富山城址公園だとか、それこそ北陸の県庁所在地のど真ん中にあるような大きな公園にスキー板を持ち込み、クロスカントリー・スキーを楽しんでいます。

 

クロスカントリーとはそもそも、

“原野・丘陵・森林などを横断するコースで行う競争”(岩波書店〈広辞苑〉より引用)

と辞書に書かれています。雪原に限らず真夏の森林でもできる競争です。そのクロスカントリーの競技を雪原で開催し、雪の積もったフィールドをスキー板で横断すると、クロスカントリー・スキーになるわけです。

 

クロスカントリー・スキーはクラシカル走法とフリー走法にさらに分かれるらしいです。いずれにせよ平地をスキー板で進むため、ドイツ語風に言えばストック、英語風に言えばポールで、力強く地面を押す運動も加わります。

 

ケベック州の公園。クラシカル走法ではこの2本の溝の上を走る。撮影:坂本正敬。

「きついよ」と現地の観光局の人に脅かされながらカナダで試した経験も私・坂本にはあります。予告どおり激しい全身運動でした。

 

北陸の都市に暮らす往年のスキーヤーたちは、冬場に距離が伸び悩むウォーキングの代替案として、例えば近所の大きな公園でこの手の遊びを楽しんではどうでしょうか。

公園でのスキー利用は法律で禁止されていません。

まちの雑木林でクロスカントリー・スキーを楽しむ「ケベコワ」。写真はケベック・シティではなく、同じケベック州の大都市モントリオール。

見慣れた都市公園もスキー板で歩けば、また違った感動が得られるはずです。

 

「でも北陸の公園でスキーは駄目でしょ?」と自ら先回りして自粛し諦めてしまう北陸の皆さん。安心してください。

 

〈HOKUROKU〉の運営メンバーで弁護士の伊藤建に聞くと、公園でのスキーを禁じる法律は日本に存在しないと言います。

伊藤:公園でのスキー利用は法律的に禁止されていません。公園側の管理権の問題です。もちろん管理権に違反すれば利用拒絶として法律問題にはなり得ますが、基本的には考えにくいかなと。

この管理権については、多くの自治体において条例で大枠が決められています。細かい行為については公園の看板に規則として書かれています。

 

筆者の暮らす富山市の都市公園条例を試しに読んでみると禁止行為として次の条例が定められていました。

  1. 都市公園を損傷し、又は汚損すること。
  2. 竹木を伐採し、又は植物を採取すること。
  3. 土地の形質を変更すること。
  4. 鳥獣及び魚の類を捕獲し、又は殺傷すること。
  5. はり紙若しくははり札をし、又は広告を表示すること。
  6. 立入禁止区域に立ち入ること。
  7. 指定された場所以外の場所へ諸車を乗り入れ、又は留め置くこと。
  8. 都市公園をその用途外に使用すること。
  9. 前各号に掲げるもののほか、市長が都市公園の管理に支障があると認める行為をすること。

富山市の条例の場合(7)(8)(9)が公園スキーの制限になるかもしれません。

 

しかし上述の伊藤によればスキーは(7)の「諸車」にはあたらないと言います。

 

(8)(9)についても、管理権で公園の用途が決められている場合を除き、混雑している公園で他の利用者を害するように利用しなければ問題ないと解釈できるそうです。

 

筆者の暮らす富山市の中心部にある富山城址公園は市の管理です。市の公式ホームページよると富山城址公園は「総合公園」に分類されています。

 

富山城址公園。

国土交通省によると総合公園は、

“都市住民全般の休息、観賞、散歩、遊戯、運動等総合的な利用”(富山市のホームページより引用)

を目的にしているといいます。富山市民の散歩・運動に利用が認められているのであればクロスカントリー・スキーも認められるはず。

 

富山市公園緑地課に問い合わせてみると、電話口の担当者からは、

 

「ルールで禁止しているわけではないので、他の利用者の迷惑にならない限り、個人的な利用であれば構わない」

 

という回答がありました。大人数を集めたサークル活動となると他の利用者の邪魔になる可能性が出てきます。しかし個人的な範囲の利用であれば問題ないのですね。

 

「あの公園はどうなのだろう?」と思い浮かぶ場所があれば、どこが管理するのか調べてみてはどうでしょうか。

 

希望する公園がどういった目的で存在し、管理する県や市町村の条例がどうなっているのかを確かめ、県や市町村に念押しで直接確かめてみてください。

 

問題ないと分かれば、他の利用者や施設に損害を与えない範囲でスキーを堂々と楽しめばいいのですね。

 

(副編集長のコメント:健康のためにウォーキングを公園でする人たちを北陸でも見掛けます。ただ雪が降るとぱったりと見掛けなくなり、公園全体が「冬期休業」してしまったようで足が遠のきます。

 

スキー板を履いて歩く人たちが公園に増えると「生きた公園」に冬場でもなるのかもしれません。

 

ただ、クロスカントリー・スキーはかなりきついです。私も経験があります。なのでもっとライトに楽しみたい人に向けて「スノーシューとホットチョコレートのある暮らし」を次回は紹介します。)

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