24時間以内に50%の達成率を
写真提供:〈Beer Cafe BREWMIN’〉
―― 次に、クラウドファンディングのプラットホーム上に掲載する告知ページ(プロジェクトページ)の作成ポイントについて教えてください。
作成にあたってプロジェクト内容をどのように表現するか、そもそも誰が書いたのかなどの工夫を聞かせください。
山本:先ほどお話したクラウドファンディングのアドバイザーがプロジェクトの内容を固める質問フォーマットを用意してくださって、そのフォーマットを埋めていきました。
―― フォーマットにはどんな質問があるのですか?
山本:「あなたが売りたいものは何ですか?」とかすごくシンプルです。
僕の場合はビールで「では、そのビールはどういったビールですか?」と質問を繰り返し深堀りして言語化する作業です。
フォーマットを僕が書いて、それを基にアドバイザーさんに編集してもらう流れですね。
Beer Cafe BREWMIN’の店内。写真提供:Beer Cafe BREWMIN’
ただ僕は、やはりつくり手側なんですよ。つくり手側の人間は職人気質があって自分のつくった商品を大々的に宣伝しない人が多いと思います。
アドバイザーの方は良かれと思って「日本一」とか「これまでに無い」とか、いろんな表現を付けてくるのですが僕が結構削ってしまうのでアドバイザーさんから見たら物足りない部分もあったと思います。
―― なるほど。
山本:また、僕の場合はビール業界の人たちの目もかなり気にしました。
同業の人間がすごい「イキって」いる文章をアップしたらそのURLが駆け巡るみたいな話があるからです。
―― どういう反応が実際にありましたか?
山本:「あなたはビールの製造免許がまだ下りていないですが酒をつくると宣言しています。その発言についてどう思っていますか」といったメッセージが例えば同業の人から来ました。
―― それはドキッとしますね。知り合いからですか?
山本:知らない人からです。ビールの免許を取得する前にリターン品で瓶ビールと当時書いていました。だからその記載に関して問い合わせが入ったんですね。
許認可事業なので免許が下りるか分からないわけです。最悪プロジェクト中止とかリターン品を削除するとかもあったわけで。
ただ、このようなトラブルが起きた場合の対策についてもアドバイザーさんが法的に根拠のある対策をいろいろ出してくれたので助かりました。
自分だけの目線でやると見てる人が残念な気持ちに
―― ページ作成について写真選びの工夫はありましたか。
山本:写真選びについても自分の持っているそれっぽい写真をアドバイザーさんに全部渡して第三者的な目線から選んでもらいました。
クラウドファンディングに使われた実際の写真
―― 第三者の目線は大事ですよね。
山本:自分だけの目線でやると見てる人が残念な気持ちになりかねません。痛い感じというか。
―― 他の人にプロジェクトページを公開前に見せましたか?
山本:はい。
―― ページを見てもらった上で自分では思いもしなかった指摘はありましたか?
山本:いっぱいありました。例えば「リターンに瓶ビールがあった方がいい」と指摘がありました。
―― ビールのクラウドファンディングなのにビールがないのは不自然だと。
山本:確かにそうなんですが、もともと瓶ビールを僕は送りたくなかったんですよ。
―― それはなぜですか?
山本:僕は、ビールをつくる仕事をずっとしてきましたが瓶ビールでの流通は結構ハードルが高いんです。
「宅急便で瓶ビール送るなんて普通じゃん」って皆さんの感覚だったら思うかもしれないんですけど、やる側からしたらかなり不安です。
リターンに加えられた瓶ビール
また、僕の提供したいサービスは瓶ビールではなく、つくりたてのビールをお店で飲むサービスです。
ですが、リターン品に瓶ビールの要望があったからには応えたくて、ビールで食っていく以上いつかはこうした作業が必要だとも目に見えていました。
なので、瓶ビールをやっている会社にお願いして作業の風景を見せてもらったり、瓶に詰める機材を選定するためにエキスポに行ったりしました。
こんな高額商品を購入する人が本当に居るの?
―― リターンの話に話題が移ってきましたのでリターンの設計方法についても聞かせください。
山本さんのクラウドファンディングのリターンは褒めて言っているんですけれど、明確な商品があってEC(電子商取引)サイトのように感じがしました。
山本:寄付型じゃなく完全に購買型のクラウドファンディングにしたかったからです。
例えば、瓶ビール1本の単価も支援価格よりは本当に購買した時に近い金額にしています。
その理由は萎縮(いしゅく)してページをつくっていた時の気持ちと似ていて、お金ください・支援してくださいとの気持ちに振り切れなかったからです。やるならちゃんと欲しいものを世に出すつもりでやりました。
―― 予想外に売れたリターンのコースはありましたか?
山本:オリジナルビールの製造権です。
今にして思えば安く出したなと思いますけど当時は、こんな高額商品を購入する人は本当に居るのかと思っていました。割と早い段階で全部売れたので意外でしたね。
同じ温度感で応援してくれる人を集める
―― プロジェクトの拡散・広報について次に聞かせてください。
SNS(会員制交流サイト)で広げるとか、知人に口頭で言うだとか、いろいろ広げる方法はあると思うのですが、どのようにプロジェクトを周知していきましたか?
山本:まず自分が一番近しい人というか、僕と同じくらいの温度感でこのプロジェクトを応援してくれる人を5人とか10人集めました。その人たちに自分たちと同じくらい発信してもらうように協力をお願いしました。
あとは開始予告もしましたね、24時間前くらいには予告して一斉にスタートし、24時間以内に達成率50%はいかせようと内部目標を掲げました。
―― どうして24時間以内に達成率50%を実現しようと思ったのでしょうか?
山本:スタートダッシュに成功するとメリットがあるからです。
CAMPFIRE内の「おすすめのプロジェクト」に載るなど達成率がある程度行かないと呼び水にもならないのでスタートダッシュを大事にしていました。
―― 拡散方法の基本はSNSですか?
山本:そうですね。記者向けにプレスリリースも出しましたが、結局はCAMPFIREのページに行ってもらわないといけません。SNSなどページのURLを張ってリンクできる媒体がいいと思いますね。
―― プレスリリースを出すメリットとしてマスメディアに取材に来てもらえるメリットもあると思うんですが、その点はいかがでしょう?
山本:もちろんメリットはあると思います。
新聞社に掲載してもらった記事から、僕たちのクラウドファンディングページにどれぐらいの人がアクセスしたかは分からないですけど、店がオープンする前から地域内での認知度が上がりました。そういう意味で新聞は強いと思いましたね。
―― 拡散で良かったと思う方法はその他にありましたか?
山本:不特定多数に広報するよりは1人ずつにメッセージを送ってお願いしていました。
大坪:SNS上での多数への発信は気軽な分だけ訴求力は確かに弱いかもしれませんね。
宣言して引けない状況をつくる
―― ちょっと抽象的な質問を最後にさせてください。クラウドファンディングをやって良かったなと思う点は何でしょうか。
山本:当時を思い出すといっぱいありますよ。一般的な話で言うとファンがたくさんつくれました。その人たちをきっかけにまた広がっていくみたいな雰囲気はいまだにあります。
あとは、今後の事業計画に関係した部分でも役に立っています。
例えば、クラウドファンディングで実施した瓶ビールの出荷やオリジナルビールの製造は、もともと開業前からやりたいと思っていました。
ですが、実際にやるとなったら大変です。クラウドファンディングで無理やりにでもせざるを得ない状況になって、綱渡りみたいな状態ですが早めに経験できました。
今になって思えばあのスピード感がなかったら今はまだそんなに進化できていなかったかもしれません。
―― そうですね。宣言して引けない状況をつくるのが大事なのかもしれません。
しんどい経験といいますか、やらざるを得ない経験が今に生きているのですね。
(編集長のコメント:無理やりにでもせざるを得ない状況をつくるとの話、自分の成長には不可欠なのかもしれませんね。
次の回では、取材相手が変わって、石川県金沢市にある〈ノルマン洋菓子店〉の3代目・中村一貴さんにバトンタッチします。
Beer Cafe BREWMIN’の山本さん、ありがとうございました。)
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