ファンを増やす効果
〈BREWMIN’〉の山本悠貴さん(真ん中)。写真:大坪史弥
クラウドファンディングは出版から始まった
最初にちょっと前書きを。
そもそもクラウドファンディングとは何なのでしょうか。
クラウドファンディングとは「群衆(crowd)」と「資金調達(funding)」を組み合わせた造語です。
インターネット上に公開されたプラットホームに自分のプロジェクトを公開し、賛同する不特定多数の人々から少額ずつ資金を調達する行為を指します。
資金調達に対する起案者からのお返し(お礼)の有無はクラウドファンディングの目的に応じて異なります。
被災地や発展途上国の支援、ボランティア活動のための資金集めといった寄付を募るクラウドファンディングの場合は、原則としてリターンを用意しません。
一方で、商品やサービスのスタートアップなどの資金を募る際のクラウドファンディングの場合は、起案者がプロジェクトに関わる商品やサービスを用意し、資金提供者はその「リターン(お返し)」を購入するというケースが一般的です。
このクラウドファンディング、いかにも新しい経済用語といった雰囲気がありますが「不特定多数から資金を集める」概念自体は古く、17世紀に本を出版するためにクラウドファンディングによって資金調達したジョン・テイラーという人の記録が残っています。
ジョン・テイラーは本の企画をつくると世間に公開して寄付を募り、印刷に十分な寄付が集まると出版する手法をとっていました。
寄付者にはお礼として出版した書籍に名前が掲載される、まさに現代のクラウドファンディングとそう変わらない手法だったそうです。
この古くからあるクラウドファンディングの手法で北陸3県において「多くの人の共感を集めたプロジェクト」を厳選し、その当事者たちにノウハウを聞きました。
皆さんの口から出てくるノウハウには三者三様の違いがあったり逆に共通点がたくさんあったりします。
〈HOKUROKU〉副編集長の僕・大坪自身、HOKUROKUの「クラファン」に携わった者として「あの時、もっとこうすれば良かった」だとか「分かるー」だとか学びや共感がたくさんありました。
最初に話を聞いた相手は富山県氷見市でブルーパブ、富山市でビアバーを営む〈BREWMIN’〉の山本悠貴さんです。
2018年(平成30年)に氷見市に1店舗目となるクラフトビール醸造所兼カフェをオープンするための改装費の一部をクラウドファンディングにて募りました。1
氷見市にある〈Beer Cafe BREWMIN’〉の内観。写真提供:Beer Cafe BREWMIN’
目標額が50万円に対し、215人の支援者から約150万円の資金を集め、見事プロジェクトを達成します。その当時の体験についてオンラインミーティングで話を聞かせてもらいました。
1,510,555円を215人から集めたプロジェクト
写真:明石博之
―― お忙しい中でオンライン取材を引き受けてくださりありがとうございます。今回の企画意図についてまずは説明させてください。
山本:よろしくお願いします。
―― ある調査によると、クラウドファンディングの件数がコロナ禍で増えていて、支援金額も過去最大になっているそうです。
コロナ禍の今だからこそクラウドファンディングをスタートさせたいと考える人も少なくないはずで、そうした人たちに「自分たちもチャレンジしたい」と思ってもらえる内容を届けたいと考えています。
山本さんの場合は実施した時期が2年前なので当時を思い出しながらになるとは思いますが、ご協力よろしくお願いします。
山本:分かりました。
山本悠貴さん。写真:大坪史弥
―― クラウドファンディングの内容をまず確認させてください。
山本さんが実施された「1杯のビールがあなたの常識を変える。海の見えるビール醸造所&カフェ『ブルーミン』」のプロジェクトは募集を2018年(平成30年)2月に開始しています。
3月30日まで募集して、目標金額50万円に対し計215人の支援で1,510,555円を集めました。
「クラファン」詳細データ
1杯のビールがあなたの常識を変える。海の見えるビール醸造所&カフェ「ブルーミン」
https://camp-fire.jp/projects/view/57254
目標:500,000円
期間:2018-02-14〜2018-03-30(44日間)
支援者:215人
調達額:1,510,555円(302%)
今回の取材では取材者リストを作成するにあたり、北陸のクラウドファンディングをざっとリストアップしてみました。
数多くのプロジェクトがありながらも支援者が150人を超えるプロジェクトは数が少ないです。
今回は「多くの人の共感を集めたプロジェクト」の実施者に話を聞きたいと思い、支援者数に着目して取材者を選定しました。
多くの人の共感を集めたプロジェクトを手掛けた成功者の1人がまさに山本さんなわけですが、そもそもの話としてなぜ山本さんはクラウドファンディングを実施したのでしょうか。
山本:クラウドファンディングの存在自体は知っていたのですが、資金調達の方法として当初はクラウドファンディングを選ぶつもりはありませんでした。
開店準備の際に店舗の壁塗りも自ら行った山本さん。写真:明石博之
ただ、オープンの準備を慌ただしく進める中で、クラウドファンディングのアドバイザーの方とたまたまつながる機会がありました。
その方と話すうちに、クラウドファンディングには資金調達だけではなくファンを増やす効果があると気付きました。それならやった方がいいと思い、クラウドファンディングの活用を決めました。
―― 今からお店をオープンするにあたり、お店に来てくれるファンを先に増やそうといった発想でしょうか。
山本:ざっくり言えばそうです。ただ最後の方は想像以上にお金が集まり、実際はそのお金に助けられました。
―― クラウドファンディングを実施するにあたってプラットホームの1つ〈CAMPFIRE2 〉を使っています。
他の有名なプラットホームだと〈Makuake〉や〈READY FOR〉がありますが、CAMPFIREでやろうと決めた理由は何でしょうか。
山本:手数料です。もともと僕の中でのクラウドファンディングのイメージはMakuake3 が一番強くありました。
他のビール関係が行ったプロジェクトも当時はMakuakeが多かったです。クラウドファンディングを知ったきっかけもビール業界の人たちがMakuakeでクラウドファンディングをやっていたからです。
だから最初は、Makuakeが一番ポピュラーなのかなと思っていましたが、各社を比較するとCAMPFIREは手数料が安かったんですよ、確か当時12%か13%くらいだったと思います。
―― 安いですね。他の媒体だと17〜20%くらいの手数料設定が当時は多かったかと思います。
山本:ある程度信用のおける規模感のプラットホームで、かつ手数料の安い場所としてCAMPFIREを選びました。
目標金額を達成してしまうと読んでもらえない
Beer Cafe BREWMIN’の店内。写真提供:BREWMIN’
―― 目標金額の設定についてはどうでしょうか。
実施したクラウドファンディングでは目標金額を50万円に設定しています。ちょっと低めの金額にも思えますが、どういった経緯でこの金額に設定されたのでしょうか。
山本:そこら辺はただのビビリですね。もっと高い金額にしておけば良かったです。当時はまだ開業もしておらず大々的な発信そのものに抵抗がありました。
例えば、クラウドファンディングのページに僕のメッセージ動画が掲載されているんですが結構緊張しました。「いいのかな、こんなことして」との思いがかなりありました。
このころはまだ会社を辞めて1年も経っていません。普通に会社勤めをしている人間にとって世の中に自分のメッセージを発信する機会はあまりないですよね。そうした気持ちが設定金額にも出たのだと思います。
―― そんな思いとは裏腹にプロジェクトの公開初日で目標の50万円を達成されました。
山本:すぐに達成してしまったのも反省点です。目標金額を達成してしまうと「もう支援の必要がない」と思ってページを読み進めない人が結構多かったみたいです。
―― その気持ちはちょっと分かります。もし変えられるなら目標は幾らに設定しますか?
山本:300万円くらいにしておけば良かったかもしれません。
さらに、今だったらもっと積極的に情報発信しています。
何か記事になりそうな話題があったら例えば新聞社に電話したり、自分のSNS(ソーシャル・ネットワーク・サービス)とかホームページに載せたり。当時はそうした活動に恥ずかしさがあったんでしょうね。
周りにたたかれたら嫌だなとか、まだ経営者になり切れていない部分が当あったのだと思います。
(編集長のコメント:恥ずかしさやたたかれたら嫌だという理由から控えめになってしまう気持ち、北陸では多くの人が共感できるのではないでしょうか。そんな山本さんのプロジェクトがどのように成功を収めたのか第2回で核心へと迫ります。)
https://camp-fire.jp/projects/view/57254
2 国内最大のクラウドファンディングのプラットホーム。掲載件数も多数。
https://camp-fire.jp/
3 https://www.makuake.com/
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