利き酒師と酒匠で考える。日本酒の「ペアリング」の教科書。(後編)

2020.12.16

vol. 02

意外な食材を組み合わせればいいわけではない。

 

池森:準備ができました。

 

―――それでは前編で学んだ4つのカテゴリーごとに試食していきますが、何から試食したいか希望はありますか?

 

下木:それでは爽酒(そうしゅ)から試食させてもらってもよろしいでしょうか? 爽酒・薫酒(くんしゅ)・醇酒(じゅんしゅ)・熟酒(じゅくしゅ)の順番で。

 

 

―――それではメニューの説明をお願いします。

 

池森:お酒はミニバーに出す予定の爽酒〈銀ラベル 辛口 玄〉です。酒器は、雑味を抑えてまろやかにする能作の〈ぐい呑〉を選びました。

 

撮影:柴佳安。

合わせる料理はまずミニバーセットの候補としてHARRY CRANESの〈Smoked 幻魚〉(げんげ)です。

 

HARRY CRANESの〈Smoked 幻魚〉。写真はHARRY CRANESの公式ホームページより。

他には店内で出すメニュー案として、混ぜるだけでおいしい柿太水産〈まぜいりこ〉、氷見の干物屋でつくっているホタルイカのみりん干し、ホタルイカの沖漬けです。

 

写真左下からホタルイカの沖漬け、ホタルイカのみりん干し、右下がまぜいりこ、右上がSmoked 幻魚。料理の脇は能作の酒器に注がれた玄。

下木:まずは日本酒からいただきます。

 

―――ちなみに玄は何度も呑まれているのですか?

 

下木:好きです。何度も飲んでいます。若鶴酒造で言えば〈十八年純米古酒〉も少し前に仕入れました。

 

(下木さんが日本酒を口に含む。)

 

ああ、いい感じ。すごくすっきりしている。スズの酒器と玄は確かに合っています。

 

光沢がありながらツルっとしている、光を当ててもそれほど光らないのですが真珠のような印象がありますね。

 

スズの影響が舌に出るのだと思います。熟成したうま味をスズが上手くツルっと流してくれます。一方でうま味も確かに感じられます。

 

食材と合わせた時にこれがどうなるか。ホタルイカの沖漬けからいただきます。

 

 

(下木さんはホテルイカを口に運び、玄を口に含む。)

 

池森:素朴な疑問なのですが、食べ物が口に残っている間にお酒を飲んでしまうのですね。

 

下木:はい。

 

 

―――ホタルイカの沖漬けは石川・福井の読者には少し縁遠いですかね。

 

濃厚なワタの風味とプリっとした食感が絶妙にマッチした食べ物だと思います。いかがでしょうか?

 

下木:うん。確かにおいしいですね。すごく合います。でもフィニッシュのところで落ち着いてしまっている印象があります。

 

―――合格点ではあるけれど。

 

下木:そうです。十分においしくて合格点ではあるのですけれど、フィニッシュに何かがあれば完成するみたいなイメージです。

 

入れるとしたら香りが欲しいですね。ユズとかスダチとかありますか?

 

池森:ユズならあります。

 

下木:ピールをおろして、はけか何かで入れてもらえますか?

 

 

(下木さん、実食する。)

 

下木:ああ、エキスは駄目か。ユズの果汁の苦味が出てしまいました。

 

皮(ピール)だけの香りだけが欲しいんですよね。梅干しとかってありますか?

 

池森:あります。氷見稲積梅です。

 

―――へえ。氷見でも梅干しをつくっているのですね。

 

下木:梅干しの汁をほんのちょっとだけ。

 

(池森さん、汁を入れる。)

 

下木:うん、いい感じですね。ゆかりのふりかけでもいいかもしれません。もし求めるなら塩が入っていないやつです。すごくおいしい。

 

坂本:お店で出すメニューとしては玄と能作の酒器、さらにホテルイカの沖漬けに梅汁をちょこっと足らすというペアリングでよろしいでしょうか。

 

下木:はい。これで完璧だと思います。

能作の酒器で玄を飲み、ホタルイカのみりん漬けをペアリングさせる。

―――次は、ホタルイカのみりん漬けです。

 

下木:いただきます。

 

 

うん。ああ、これはもう何も言うことがありません。

 

能作の酒器で玄を飲み、ホタルイカのみりん漬けをペアリングさせる、完成していると思います。

 

―――完璧ですか? すごいですね。

 

池森:うれしいです。

 

 

―――どういう部分が合っていますか?

 

下木:みりんと日本酒が両端でかすがいになっているんですよね。みりんの甘みと日本酒の辛味がピタッとくっつくというか。

 

ホタルイカのコハク酸のうま味と中に入っている墨のうま味、能作のスズで隠された玄のうま味がうまくペアリングしています。

 

ゴマの香ばしさが最後に引き上げてくれてフィニッシュを奇麗にまとめています。

 

あと何かできるかと言えば、例えばゴマだけを取り除いてまとめてフライパンでいり、温かいゴマを出す直前に振り掛けたらどうなるかなと興味はあります。

 

ただこれはこれでもう完璧だと思いますよ。

ホタルイカに梅の汁を入れると「マリアージュ」に近い。

池森:次は、氷見イワシのまぜいりこです。

 

 

(下木さん、食べる。)

 

下木:うん、おいしい。おいしいです。これも完成品だと思います。

 

―――イリコって何ですか?

 

池森:氷見産カタクチイワシを釜揚げにして乾燥させた水産加工品です。

 

実を言うとこの商品、最初から酒に合うようにつくっているんです。ちょっとテストでカンニングをしたような気分です。

 

下木:先ほどと違ってイリコの苦味を玄が和らげてくれています。

 

苦味は確かに舌に存在するのですが、苦味だけが進んでいくのではなく、青ノリかな? 青ノリの磯の香りがうまく上の方で漂っていておいしいです。

 

硬めの食感もいいです。ここまで柔らかい食感が続いたので、まぜいりこの硬さがアクセントになります。

 

ゴマのプチプチした感じが先ほどのホタルイカのみりん干しよりも感じ取れます。

 

―――ここまで、すごくいい評価が続いていますが、あくまでも「同調」で「マリアージュ」にはならないのですね?

 

下木:「マリアージュ」には入っていないですね。

 

ただ先ほどホタルイカに梅の汁を入れる行為は「マリアージュ」に近いかもしれません。

 

池森:素材に1つ、想像も付かない食材を入れる行為が「マリアージュ」の考え方と理解してよろしいでしょうか?

 

下木:そういう意味ではホタルイカにイチゴを入れてあげてもいいかもしれません。イチゴと梅酢。

 

―――その発想はどこから出てくるのですか?

 

下木:梅とイチゴってすごく合うんですよ。僕の場合は例えばタコを細かく刻んで、梅肉、つぶしたイチゴをあえます。

 

そこにメロンや洋ナシのようにフルーティーな日本酒、石川の酒蔵である松浦酒造〈獅子の里 旬〉を例えば合わせると、食べた時にぶわーっと「マリアージュ」になりました。

 

―――口の中ではどのように味が進んでいくのですか?

 

下木:初めに日本酒を入れるとメロン・洋ナシ系のフルーティーな香りが広がります。

 

次にイチゴの甘酸っぱさが来る。その味が落ちかけた時に今度は梅の酸味がぶわーっと来ます。

 

―――こういう感覚が「マリアージュ」なのですね。

 

下木:ただ何でも意外な食材を組み合わせればいいのではなく、エレガントの要素を入れてあげないと駄目です。

 

お互いが主張しすぎる食材同士では駄目で、お互いに節度を持って響き合う食材の組み合わせを試行錯誤の積み重ねで探っていく感じですね。

 

(編集部コメント:意外な食材を組み合わせれば「マリアージュ」になるといった単純な話ではない、この道の奥深さを予感させる教訓めいた言葉ですね。

 

それにしてもホタルイカに合わせて能作の酒器で玄を飲むなんて想像しただけでおいしいそうです。早速試してみたくなりました。

 

次は第3回。本題のミニバーセットのペアリング論に続きます。)

具材を混ぜるだけですぐに食べられるつくだ煮風のあえもの。
http://kakita-himi.net/item/nibo_06.html

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