実録・金沢「茶屋遊び」の作法。三茶屋街の違いも歴史も知らない初心者なもので
vol. 06
お茶屋は地元の人のためにある
観光客の少ないひがし茶屋街でバドミントンを楽しむ地元の家族
現在(2020年6月)の茶屋街についてちょっとだけ最後に補足します。
前回の取材は2019年(令和元年)の12月。新型コロナウイルス感染症の影響がまだ出ていないころです。
飲食を伴う会合の自粛がその後に相次ぎました。お座敷に出る機会が激減している芸妓さんに対し、2020年(令和2年)4月には、伝統文化を守る目的で市から給付金が出される事態にもなりました。
現在の状況(6月)はどうなのか。〈藤乃弥〉おかみの吉川さんに電話で追加取材しました。
6月の中旬、平日の昼過ぎのひがし茶屋街。少しずつ人の気配が戻っていて、浴衣を着て歩くカップルや大学生のグループなどが目立った
―― お久しぶりです。現在のお茶屋の状況はいかがでしょうか。
吉川:お座敷としては早い段階からキャンセルが相次ぎました。2月ごろからですね。
芸妓さんはホテルでのパーティ・記念講演会・学会など、全国から多くの方が参加される催しでの需要が多い分だけ、中止の判断も早いんです。
全国的に自粛の動きが出た4月よりもかなり前からキャンセルが入り、実質の休業状態となっていました。
現在は、予約があればもちろん承ります。しかしまだまだ予約のご連絡は頂いていない状態ですね。法人のお客さまも多いのですが、6月いっぱい会合を自粛するお客さまが多いようです。
―― 芸妓さんたちは休業期間中どのように過ごされていたのでしょうか。
にし茶屋街の検番事務所。芸妓さんのけいこ場としても使われる。前を歩けば三味線の音が聞こえた
吉川:芸妓さんたちは休業期間中もおけいこに励んでいました。ただ、機会も限られていて。例えば、東京から先生をお呼びするような練習はできません。
地元の金沢に先生がいらっしゃり、かつ密にならない形で限られたおけいこのみが実施されていました。
―― 県をまたいだ移動も今は解禁になりましたが、まだまだ油断できません。お茶屋としてどのような取り組みをされていますか?
吉川:そうですね、お客さまに安心してご利用いただけるように何よりも感染拡大の防止を大事にしています。
透明アクリル板を設置したり、お座敷太鼓の体験ではお客さま専用のバチをお渡しして芸妓との共有を禁止したり。芸妓やお客さま同士の向かい合わせの着座は避けるなど感染拡大の防止策を実施しています。
お茶屋はお客さまに気兼ねなく過ごしていただく場所です。安心してご利用いただけるよう基本的な取り組みを大事にしていきたいですね。
6月中旬(平日)のひがし茶屋街の様子
―― どの業界でもライブ配信や動画などオンラインのコンテンツが多くなっています。ご予定はありますか?
吉川:藤乃弥単体としてオンラインでの企画予定は現状ありませんが、お茶屋や芸妓さん全体で見るとこうした取組みも行っていこうと声が上がっています。
「一見さん」お断りのルールがお茶屋にはございますが、オンラインなどで新しいお客さまにお茶屋や芸妓さんを知っていただき、かつ、今までのお客さまとの関係も大切にしていければと思っています。
軒先のツバメ
―― 最後になりますが、今までお店を利用された常連の皆さんに何かメッセージはありますか?
吉川:お客さまのご無事を何よりも願っています。事態が落ち着いてからまたお会いできる日を楽しみにしています。
お茶屋の利用は1座敷に1組だけです。不特定多数のお客さまとの接触もありませんし、大人数でのご利用もそこまでありません。感染防止策を実施しながら芸妓さんもおけいこに励んでいます。
お茶屋はもともと地元の方のための場です。遠出がまだまだ難しい状況ですので、地元の方に安心してご利用いただければと思っています。
―― 一刻も早く事態が終息して、あの豊かな楽しみが暮らしに戻る日を私も心より願っています。お時間ありがとうございました。
(編集長のコメント:北陸人のための「茶屋遊び」入門は以上で終わりです。お茶屋はもともと地元の人たちのためにある場所との言葉が最後におかみさんからもありました。
自由に旅や外出できる時代が戻ったら、その喜びと幸せを手土産に茶屋遊びに出掛けましょうね。)
文:大坪史弥・坂本正敬
写真:武井靖・坂本正敬・大坪史弥
編集:坂本正敬
編集協力:明石博之・博多玲子・中嶋麻衣
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