北陸にあった。東西「お雑煮」の境界線。

2021.01.08

vol. 05

石川県の能登のお雑煮=アンコのぜんざい。

写真はイメージです。写真:農林水産省のホームページより。

福井から富山へ向けて旧北陸道の宿場をたどりながら各地のお雑煮の特徴を探ってきました。

 

石川県を大きく分けると能登と加賀に区分けができます。旧北陸道は加賀を横切って能登に入らず富山方面へ向かっているため、これまで能登のお雑煮については触れてきませんでした。

 

しかし前回の記事では2つのお雑煮文化圏マップを掲載し「丸もち×角もち」の分岐ラインが能登半島周辺で大きく蛇行していると書きました。

 

株式会社お雑煮やさん代表・粕谷浩子さんが監修した農林水産省のホームページ情報を基に〈HOKUROKU〉で作成。

農林水産省のホームページ(https://www.maff.go.jp/j/pr/aff/1101/spe2_01.html)に掲載された奥村彪生さんの作画を引用。

しかも〈お雑煮100選〉(女子栄養大学出版部)掲載のお雑煮文化圏マップと農林水産省のホームページ情報とでは能登半島に引かれた分岐ラインの形が違います。

 

この相違を見ると能登には一筋縄ではいかないバラエティー豊かなお雑煮の姿が存在しているように予想されますが、実際はどうなのでしょうか?

能登半島の根元は「角もち×すまし汁」文化圏。

〈HOKUROKU〉は今回の特集をつくるにあたって北陸3県にある全51の自治体に対しお雑煮についてアンケート調査しています。

 

能登半島に関係した自治体からの回答を見ると、能登半島の根元にある石川県羽咋市からの情報提供が参考になります。

 

羽咋市の位置。〈白地図専門店〉の白地図をHOKUROKU編集部が画像編集。

同市の担当者はHOKUROKUからの質問を受けて関係各所に聞き取り調査してくれたと言います。主流派として、

「角もち(焼く)×すまし汁」

とのパターンが羽咋市では最も多かったそう。石川県はすまし汁文化圏に属します。

 

もちに関してはばらつきが見られたようですが、石川県内のお雑煮の特色を調べた論文「石川県における行事食と調理文化に関する研究」を見ても、羽咋市のお雑煮の主流派は「角もち(57.1%)×丸もち(35.7%)」だと明らかにされています。

 

手取川より東の地域は角もち文化圏に属する点を考えても納得の答えですね。

 

氷見市の位置。白地図専門店の白地図をHOKUROKU編集部が画像編集。

県境を無視して能登半島全体を眺めると、羽咋市は能登半島の西岸の根元にあり、東岸の根元には富山県の氷見市があると分かります。

 

氷見市の担当者によれば同市のお雑煮は、

「角もち(焼かない)×すまし汁」

だと言います。

 

先ほど掲載した2つのお雑煮文化圏マップにおける能登の扱いとは異なりますが、羽咋市・氷見市の担当者からの回答、さらに論文の結果を合わせて考えると、能登半島の根元は「角もち×すまし汁」文化圏に属すると考えてた方が良さそうですね。

4割を超す世帯でアズキ汁のお雑煮が食べられている。

羽咋市の北側にある志賀町からもHOKUROKUのアンケート調査に対する回答がありました。

 

志賀町の位置。白地図専門店の白地図をHOKUROKU編集部が画像編集。

担当者によれば同町のお雑煮の姿は主に、

「角もち(焼く、または焼かない)×すまし汁」

が多いと言います。やはり能登半島の根元は「角もち×すまし汁」の文化圏に属するようです。ただ志賀町の担当者からは、すまし汁に関して気になる情報提供もありました。

 

「主にすまし汁ですが『お雑煮』というと『アンコのぜんざい』を指す場合があります。」

 

「お雑煮」というと「アンコのぜんざい」を指すとは一体なんなのでしょうか?

 

鳥取や島根といった山陰地方にはみそ汁文化圏・すまし汁文化圏とは異なるアズキ汁文化圏があると既存の資料には書かれています。

 

お雑煮やさん代表・粕谷浩子さんが監修した農林水産省のホームページ情報を基にHOKUROKU編集部で作成した。

何度か掲載した上のお雑煮文化圏マップの山陰(中国地方の日本海側)にも注目してみてください。山陰にはアズキ汁文化圏が見られます。

 

この全国でもまれなアズキ汁文化圏が石川の能登半島では確認されるようです。

 

石川県内のお雑煮の特色を調べた論文「石川県における行事食と調理文化に関する研究」でもその傾向が見て取れます。

 

同論文によれば、石川県志賀町のお雑煮を仕立ての種類で分類すると、

  • すまし汁(64.9%)
  • 白みそ汁(5.4%)
  • アズキ汁(43.2%)

との割合になっています。アズキ汁文化圏が「確認される」どころか4割を超す世帯でアズキ汁のお雑煮が食べられているのですね。

 

輪島市鵜入町(地図内で左の丸)、町野(地図内で右の丸)の位置。白地図専門店の白地図をHOKUROKU編集部が画像編集。

守田良子らによる〈日本の食生活全集17 聞き書 石川の食事〉(社団法人農山漁村文化協会)にも、輪島市鵜入(うにゅう)町と町野におけるお雑煮(アズキ汁)の記述がみられます。

 

里山の町野については、

“正月三が日の朝は、小豆雑煮にする”(日本の食生活全集17 聞き書 石川の食事(農山漁村文化協会)より引用)

とあります。外浦(能登半島の西岸)の鵜入町についても、

“雑煮は三が日とも小豆雑煮を食べる。丸もちを別なべに豆幹の火で煮ておき、小豆を白砂糖と塩で味つけして煮た汁の中へ入れる”(同上)

とあります。先ほどの論文「石川県における行事食と調理文化に関する研究」でも輪島市のお雑煮には、

  • すまし汁(73.3%)
  • みそ汁(0%)
  • アズキ汁(33.3%)

とアズキ汁文化圏の浸透を物語る数字が明らかにされています。

 

お雑煮に関する情報提供をHOKUROKUの公式〈Twitter〉で呼び掛けると、輪島市の@nomikai1988さんからは次のような情報が寄せられました。

 

 

これまで分かってきた情報を踏まえてリプライの内容を解釈すると、輪島市の主流派はすまし汁でありながら「全部同じとは言えない」=「アズキ汁派も居るんだよな~」との文意が読み取れます。

すまし汁派とアズキ汁派が拮抗(きっこう)してさえいる。

能登半島を含めた日本海側の一部で見られるアズキ汁文化圏はどのように解釈すればいいのでしょうか?

 

宝達志水町の位置。白地図専門店の白地図をHOKUROKU編集部が画像編集。

論文「石川県における行事食と調理文化に関する研究」によると、同じ能登半島でも宝達志水(ほうだつしみず)町の雑煮の場合は、

  • すまし汁(52.9%)
  • みそ汁(23.5%)
  • アズキ汁(52.9%)

といった具合にすまし汁派とアズキ汁派が拮抗(きっこう)している状況さえ見られます。

 

島根県のアズキ雑煮。写真:農林水産省のホームページより。

結論から言えば、日本海側で見られるアズキ汁文化圏の背景についてははっきりと分かっていないそうですが、仮説として日本海を挟んだ朝鮮半島の影響が1つに挙げられるそうです。

 

赤色の小豆という作物には魔除けなど神秘的な力があると中国・朝鮮では信じられていました。

 

その神秘的な力が行事や儀式などで重宝され、日本海を挟んだ対岸の国々ではあずき粥(がゆ)が正月や冬至に食べられてきました。

 

こうした行事食を中心とするアズキ文化が朝鮮半島経由で日本海側に伝わり、結果として能登のお雑煮にも影響を与えたと考えられるのですね。

 

能登の海。撮影:柴佳安。

視野を広く東アジア全体の地図を見れば、能登半島は日本海に突き出した日本への「入り口」にも見えます。

 

日本海の玄関口として北陸の地は古来から朝鮮半島・中国大陸と交流してきました。さまざまな研究でその歴史は明らかにされています。

 

タンブラーを特集した際にも福井や石川の海岸線に漂着する中国や朝鮮半島からのごみの多さを目の当たりにあして対岸の国々の「近さ」を感じました。

関連:富山・石川・福井で考える。コーヒー・タンブラーのある暮らし。(始まりのメルボルン編)

朝鮮半島からアズキ文化が伝わった時期と場所、能登の一般庶民におけるお雑煮文化の発展過程などを丁寧に追い掛けた先行研究が見付からなかったので、どれだけ正確な仮説なのかは判断できません。

 

ただ直感をベースに判断すると、地理的な「近さ」が山陰だけでなく北陸の能登のお雑煮にも影響を与えたとの話には、ちょっとした説得力がありますよね。

 

能登町の道路標識と海。撮影:柴佳安。

総仕上げとして最後に、能登半島全体のお雑煮の主流派をまとめておきましょう。

 

能登半島ではアズキ汁文化が色濃く見られると紹介しましたが、主流派はあくまでもすまし汁です。

 

能登半島の根元までは「角もち×すまし汁」が主流だと分かりましたが、この話は能登半島全体に共通するのでしょうか。

 

能登半島北部の自治体の位置。白地図専門店の白地図をHOKUROKU編集部が画像編集。

これまでに取り上げていない能登半島の自治体は、東の先端から珠洲市・輪島市・能登町・穴水町・七尾市・中能登町です。

 

各地域におけるお雑煮の主流派を論文「石川県における行事食と調理文化に関する研究」で調べると次のようになっています。

  • 珠洲市・・・丸もち(92.6%)×すまし汁(81.5%)
  • 輪島市・・・丸もち(80.0%)×すまし汁(73.3%)
  • 能登町・・・丸もち(92.6%)×すまし汁(81.5%)
  • 穴水町・・・丸もち(95.2%)×すまし汁(66.7%)
  • 七尾市・・・丸もち(87.1%)×すまし汁(77.4%)
  • 中能登町・・・丸もち(64.5%)×すまし汁(64.5%)

要するに能登半島の北部は全体的に「丸もち×すまし汁」が主流派だと分かります。

 

お雑煮に関するHOKUROKU独自の自治体アンケート調査においても、例えば能登町の担当者は「まちの公式見解ではない」と断りを入れた上で、

「丸もち×すまし汁」

と回答を寄せてくれています。

 

志賀町・羽咋市・宝達志水町・富山県の氷見市の位置。白地図専門店の白地図をHOKUROKU編集部が画像編集。

一方で能登半島の根元である志賀町・羽咋市・宝達志水町・富山の氷見市はこれまでに「角もち×すまし汁」が主流派だと紹介しました。

 

以上を総合して能登半島における丸もち・角もちの東西お雑煮分岐ラインを引き直すと、次のようになると分かります。

 

丸もちと角もちの境界線。手取川周辺(特に山間部)の正確な境界線は未調査。また富山県東部の沿岸部(魚津市・黒部市)のお雑煮については、丸もち文化圏をHOKUROKUの独自調査でも確認できたため先行研究のラインを採用した。マップはフリー素材の白地図を使ってHOKUROKUで作画した。

この図をもって北陸のお雑煮の境界線はほぼ確定と言えそうですね。

 

(副編集長のコメント:これで北陸3県のお雑煮境界線を探る特集は終わりです。

 

京都を中心とした関西で主流のみそ汁文化圏と関東で誕生したすまし汁文化圏の境界線は、福井と石川の県境近くを通っていました。

 

西日本の丸もち文化圏と東日本の角もち文化圏の境界線は石川県内の手取川がその役割を果たし、能登半島では先ほどのイラストのように走っているとも明らかになりました。

 

さらに能登半島には山陰地方で見られるアズキ汁文化圏も色濃く見られると分かりました。

 

具材については多種多様で福井の若狭地方には黒砂糖を入れる文化もありましたね。

 

年明けに食べた皆さんのお雑煮は、どのような姿でしたか?

 

北陸3県のお雑煮の姿や文化圏を想像しながら自分のお雑煮を見詰め直すと、また味わいも違ってくるかもしれませんよ。)

 

文:坂本正敬

編集:武井靖・大坪史弥・坂本正敬

編集協力:明石博之

[参考文献]
文化庁編著<お雑煮100選>(女子栄養大学出版部)
堀田良ら編著<日本の食生活全集16 聞き書 富山の食事>(社団法人農山漁村文化協会)
守田良子ら編著<日本の食生活全集17 聞き書 石川の食事>(社団法人農山漁村文化協会)
粕谷浩子著<お雑煮マニアックス>(プレジデント社)
小林一男、五十嵐智子、酒井登代子編著<日本の食生活全集18 聞き書 福井の食事>(社団法人農山漁村文化協会)
JTAAジャパンテーブルアーチスト協会<日本の美しい食卓歳時記>(誠文堂新光社)
全国のいろいろな雑煮 - 農林水産省
アズキ - 農林水産省
北陸学院大学・北陸学院大学短期大学部研究紀要「石川県における行事食と調理文化に関する研究」
お雑煮研究所
日本列島と朝鮮半島~お正月に餅の入ったスープを食べる人たち - 韓東賢
小豆雑煮 島根県 - 農林水産省
「普通」が人によって違う雑煮 鳥取の甘い味の謎を追う - 朝日新聞
第5回 「古代北陸の国際交流」 - 日本海学推進機構

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