泊まる楽しみはもっと深い。新・北陸の宿。(金ノ三寸編)

2021.03.08

第1回

既視感がない。

 

こんにちは。「新・北陸の宿」の連載を担当する〈HOKUROKU〉プロデューサーの明石博之といいます。

 

本業では宿や飲食店、公共のスペースなど、さまざまな空間のプロデュースを手掛けています。

 

 

私の自己紹介や今までの歩みについては、連載の初回(前回)に書かせてもらいました。そちらを参照してもらえると幸いです。

関連:泊まる楽しみはもっと深い。新・北陸の宿。

この回で紹介する宿は、富山県高岡市の金屋町に2020年(令和2年)11月にオープンした〈民家ホテル・金ノ三寸〉です。

 

実はここ、私がプロデュースを担当させてもらいました。

 

自分がプロデュースした宿を紹介すると、手前みそのやり口のような気がして、少し後ろめたい気持ちもあります。

 

しかし、宿をつくった側の視点も、連載の中であってもいいと考えました。

 

3本足の不思議な宿看板がお出迎え。アートユニット〈てがかり工作室〉の作品

宿のある高岡市は、加賀藩2代目藩主、前田利長が余生を過ごした、加賀文化を継承する歴史ある都市です。

 

現在の高岡市戸出地区にある「金屋」から職人を呼び寄せ、手厚い保護の下、鋳物のまちを開いたとされています。

 

金屋町のメインストリートの石畳。路面には銅板も一部埋め込まれている。

金屋町では千本格子(さまのこ)と言われる町家の伝統的な意匠を持つ歴史ある家屋が、石畳の通り沿いに連なっている風景に出合えます。

 

この通りは国の重伝建(重要伝統的建造物群保存)地区にも指定されました。

 

民家ホテル・金ノ三寸は、この金屋町で鋳物メーカーを営む四津川製作所の四津川元将社長がオーナーの宿です。

 

オーナーの四津川元将さん。

関連:HOKUROKUの「ECサイト」が始まります。

四津川社長は、展示場や販売所ではなく、暮らしに近い環境で商品を見たり、使ったりしてほしいと考え、宿泊事業を計画しました。

 

〈KISEN〉のプロダクト。

事業の場所として、金屋町のメイン通り沿いにある2棟の古い町家を選んだ理由は、まちの活性化も狙いとしてあります。

 

 

宿の向かい、両隣は民家です。宿は日常の暮らしに、溶け込むようにたたずんでいます。

 

昭和レトロなリフォームの状態から、わざわざ昔の伝統的な意匠に戻したので、より自然にまち並みに溶け込む建物になったと思います。

「ホテル」の名前は品質の自負。

金ノ三寸の外観。写真左が「八」棟で、最大8名が滞在可能。写真右が「月」棟で、最大4名が滞在可能。

隣り合った2棟は、それぞれ1組が1棟を貸し切りできる設計です。

 

築100年ほど経過した建物をフルリノベーションしてオープンした宿は、「民家ホテル」というコンセプトにしました。

 

ゲストハウスでも、民泊でもなく、ホテルを主張している背景には、相応の品質の自負とも言えます。

 

 

今回は日をあけて、「八」棟と「月」棟に、妻と宿泊した体験記が中心となります。

 

実は金ノ三寸は、私の自宅や事務所から車で約20分の距離にあります。

 

当初、ゲストの気持ちになって、客観的に宿を体感できるか心配でしたが、妻と一緒に泊まったので、旅の気分を満喫できました。

 

その宿泊体験記は後半で語りますので、その前にざっと両棟の様子をルームツアー風に紹介します。

宿でワクワクする感情はどこから来る?

チェックインカウンター。カウンターの奥に見える真ちゅう製の展示棚には、喜泉堂の商品が並んでいる。写真:四津川製作所。

宿に来てワクワクする感情は、どこから来るのでしょう?

 

その1つは「既視感のなさ」だと思います。「すてき」と感じても、どこかで見た空間デザインでは、「ワクワク」は生まれません。

 

金ノ三寸のいずれの棟でも、この既視感のなさを実現するために徹底して力を注ぎました。その表れの1つが、チェックインカウンターです。

 

いずれの棟に泊まる場合でも、ゲストは必ずチェックインカウンターのある「八」棟を訪れます。逆を言えば、全てのゲストが最初に宿の世界観に触れる場所が、チェックインカウンターです。

 

千本格子(さまのこ)と同じ縦格子の玄関扉を開けて入った途端、和の伝統的な空間でありながら、外観からの想像とは大きく異なるデザインを体験できるはず。

 

そのギャップが非日常の気持ちを高めてくれると、あらためて思いました。

 

 

金ノ三寸は、金物工芸のまちにあります。宿でも真ちゅうや銅などの素材を空間の中に、ふんだんに使っています。

 

その他にも、作家さんに造作してもらった金属製の照明器具や、鉄をさびさせてつくった低い天井梁など、金屋町の文化との連動性を意識した空間になっています。

 

宿にこもれば、自宅の近所に居ると忘れてしまうほどの魅力づくりや非日常の演出があるか。

 

近場のマイクロツーリズムを楽しむ趣旨だからこそ、これから巡る北陸の宿では注目しようと考えています。

あらゆる場所で驚いたり、楽しんだりしてほしい。

チェックインカウンターの奥に通じるカフェ&バーのスペース。写真奥に見える空間が宿泊スペース。写真:四津川製作所。

「八」の1階には、カフェ&バーの空間もあります。朝食をつくるために厨房は稼働していますが、カフェ&バーの営業は現在準備中です。

 

空間の壁には、着色技術を用いたモダンなデザインの食器類を扱う四津川製作所のブランド〈Kisen〉の商品を展示する飾り棚があります。

 

バーの壁側には〈KISEN〉の商品が並ぶ。あけぼの塗りの棚。

カフェ&バーの細長い通路を効果的に使って、あけぼの塗りを施し、間接照明を仕込んであります。

 

バーの営業は準備が出来次第になると思いますが、展示台に飾っているグラスを選んで、おいしいお酒を飲んでもらう狙いもあります。

 

 

バー空間を通り抜けた先に見える、鈍く怪しげな光を放つ扉も、真ちゅう製です。

 

この板には、いわゆる塗装ではなく、金属の着色と言われる伝統技術が施されているため、化学変化を起こして出来た模様が浮かび上がっています。

 

カフェ&バー空間にある手洗いスペースにも「既視感のなさ」を。

カフェ&バーのトイレには、鉄製円筒状の手洗いボウルがあります。

 

手を洗うとボウルの小さな穴から落ちた滴が、筒の中で響いて鳴る仕組みにしました。

 

私自身、宿に泊まる場合は、あらゆる場所で驚いたり、楽しんだりしたいです。

 

逆に私が手掛ける宿では、ゲストに驚いたり、楽しんだりしてほしいと願っています。

 

さすがに完全な公平性をもって金ノ三寸のジャッジはできませんが、訪れた人には、ある程度の驚きが感じられる仕掛けを随所に発見してもらえると思います。

 

(編集長のコメント:この宿の正式名称は、民家ホテル・金ノ三寸です。当たり前ですけれど、ネーミングって、すごくつくり手の狙いがこもっているのね。

 

「民家」という語源的にも支配階級ではない庶民たちの家屋に、「an inn of the better sort(より上質な宿)」の響きがある(近世以降に宿るようになった)「hotel」を掛け合わせる。

 

言葉を仕事にする私からすると、この異質な言葉の組み合わせからしてすでに、非日常の体験が予感されるのですが、どうでしょうか。

 

次は第2回、ルームツアーはエントランスから宿泊空間へと進みます。民家ホテルの詳細が次々と明らかにされていきます。楽しみにしてくださいね。)

仕上げ塗りの際に、赤と黒の漆を同時に塗る技法。

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