1匹の魚を大切に港へ持ち帰る
―― 本日はお忙しい中、ご協力いただき誠にありがとうございます。
東海:こちらこそよろしくお願いします。今日はどのようにお話すればいいのでしょうか。
―― 身近な農畜水産物をどうやってブランド化するか、そのテーマについて今回はお話しください。
当たり前すぎて見過ごされがちな地元の農畜水産物に価値をいかに見出し・磨き・ブランド化して多くの人に手に取ってもらうのか、その方法を学ばせてもらえればと思います。
東海:まさに商売のタネですね。普通は話しませんよ。そういう話は(笑)
―― おっしゃるとおりかと思います。それでも取材を引き受けてくださいました。最初は正直お話いただけないかなとも思っていました。
東海:自分の話をメディアで発信したい人も居るかもしれませんが、僕は別にそういったタイプの人間ではありません。
ただ僕は、もともと氷見3の人間でありながら、20年以上この新湊の浜で暮らしてきて、新湊の人に大きなチャンスを与えてもらいました。
間接的にでも新湊への恩返しになるのであればと思って今回は協力させてもらいました。
50円で取引されていたマコガレイ
―― 東海さんは漁師として船を出すかたわら、水産加工販売会社IMATOの代表として新湊の海産物のブランド化に取り組んでこられました。
〈万葉かれい〉を中心に今回はお話を聞かせてもらいたいのですが、万葉かれい以外にも今までに出掛けたブランド品はどのくらいあるのでしょうか?
東海:自分たちの会社で一から立ち上げたブランド品で言えば、万葉かれい4〈越のわたり蟹5〉〈越の干蟹6〉〈越のひもの7〉などがあります。
左から越のわたり蟹、越の干蟹、越のひもの。写真提供はIMATO。画像は編集部が作成。
―― カレイ・カニなどの生きた魚から干物などの加工品に至るまでさまざまな製品のブランド化に取り組んでいらっしゃいますが、これらのブランド品には何か共通してルール化できるノウハウなどはあるのでしょうか?
東海:どうなのでしょう。正直に言うと最初からブランド化を目指しているわけではなく、どれもタイミングとご縁で生まれています。一概には言えないと思います。
―― 分かりました。それでは最初にヒットした万葉かれいの話を中心にお聞かせください。
万葉かれいについては、もともと新湊の競りで安く取引されていたマコガレイを「無傷で水揚げすれば1匹500円で買い取る」と言われたところからブランド化が始まったと、何かに書かれていました。
東海:マコガレイを無傷の状態で港に持ち帰ったら1匹500円で取り引きしてもらえると言われた話は事実です。しかしそこがブランド化への始まりでありません。
大前提としてマコガレイは安い魚ではありません。
例えば大分県の〈城下(しろした)かれい7〉は同じマコガレイでありながら1枚1万円の値段で取引されます。
―― マコガレイについては富山県の魚津水族館で展示を見ました。
砂の上をはうように気持ち良さそうに泳いでいました。休憩のために砂の上に止まると周囲に擬態して見分けが付かなくなるくらいでした。
一般的なマコガレイ(WEB魚図鑑より)https://zukan.com/fish/leaf10954
新湊の場合は調べてきたのですが、このマコガレイが富山湾に流れ込む庄川の掘った海底谷の入口・水深100mに暮らしているのですよね。
マコガレイについては北陸だと福井でも〈若狭かれい8〉というブランド化の試みがされています。
若狭がれい。旬の時期は11月~2月末。提供:福井県観光連盟
東海:はい。おっしゃるとおりです。しかし新湊ではこの同じマコガレイが1枚50円程度と安かったのです。
「どうしてこんなに新湊では安いのだろう」という疑問がそもそもの始まりです。周りに聞いても「そんなの当たり前だろう」という感じでした。
―― その気付きから次は何を始めたのですか?
東海:当時の僕は新湊産のマコガレイを自分で出荷するすべもなく、どうやって高付加価値を付ければいいのか、その方法も分からずでした。
「無傷で水揚げしたら500円で買ってくれる」という人がそんな折に居たので、じゃあ泳がしてみようと、つまり生きたまま無傷で港に持って帰ろう思いました。それで持ち帰ってみると実際に500円になりました。
―― そもそもマコガレイを無傷で持ち帰るとは、どれくらい難しい作業なのでしょうか。
東海:マコガレイは刺し網で捕ります。泳いでくる魚が頭から突き刺さるように網を仕掛ける漁法が刺し網です。魚が網に刺さって捕まれば当然ですが胴体は傷つきます。
―― 2018年版〈漁業センサス〉を見ると、小型底引き網10・刺し網・大型定置網11・はえ縄12・沿岸いか釣り・引き縄釣り12・採貝・採藻・その他が新湊では行われていると書かれています。その中の刺し網ですね。
東海:はい。その魚の胴体が傷ついた状態を、われわれは「がわをかく」と言います。
しかし、10枚捕れるマコガレイのうち1枚程度が偶然にも無傷で捕まる場合があります。
無傷で捕まるマコガレイがあれば、それが市場に並びます。市場に並んだ結果が今度は小売店に並び、最後は飲食店に届きます。
傷の有無で値段が変わる話は、魚も野菜も一緒です。ですから無傷のマコガレイを高く買い取るという話になるのですね。
だからこそ「どうして10枚に1枚程度、無傷のマコガレイが捕れるのか」、「さらにもっと多くのマコガレイを無傷で捕るためにはどうすればいいのか」、疑問を解決したいと研究を重ねました。
―― その努力に敬意を表しつつ、あえて無邪気に聞きますが、どうしたら捕れたのでしょうか?
東海:捕れちゃったんです(笑)そう言っておきましょう(笑)
―― 失礼しました(笑)
東海:でも、その「1枚500円で買い取る」といってくれた人も、1枚ではなく10枚の無傷のマコガレイを生きたまま持ってかえると「10枚も要らない」という話になります。
それなら10枚を売るにはどうすればいいのか、必死に考えました。そもそも何であの人は500円で買ってくれたのだろうか、その理由を説明できれば他でも増やせると思って、また勉強を始めます。
その勉強の積み重ねが気が付けばブランド化につながっていました。最初からブランド化しようと思っていたのではなく、足元の1匹の魚をいかに大切に扱って港に持ち帰るかを真剣に考えただけです。
手に入る魚を磨く・ブラッシュアップする
―― 漁と言うと巨大な網に膨大な魚がひしめいている印象があります。どうして足元の1匹を大切にするといった発想になれたのでしょうか。
私もキャベツ畑でアルバイトをした時期があるのですが、膨大なキャベツを前に1個1個を大切にするという発想がまひしてしまった思い出があります。
普段から漁師さんは大量の魚を網で捕っていると思います。1匹1匹という発想にはなりにくいと思うのですが。
東海:一般的にはそうかもしれません。しかしそもそもの話として僕の縄張りはたくさんの魚が捕れるような場所ではありません。
同じ漁業権を持っている網元でも割り当ててもらう縄張りによって漁獲量も変わってきます。
私の縄張りは魚種が少ないため、どの魚をブランド化しようかなどと、ぜいたくに悩めるような環境ではありませんでした。
取材後に港周辺を一緒に周る際、各漁船について解説してくれた
最初は、兼業だったので漁の道具も十分には持たず技術もありませんでした。魚が捕れていなくても練習として網を上げてみるだとか試行錯誤の段階でした。
魚種も少なく量が捕れない、技術もない。そんな漁師が生き残るためには、手に入る魚を磨いていく・ブラッシュアップするしか他に手が思い浮かびませんでした。
逆を言えば、小さい規模だからこそ限られた資源に専念できてラッキーだったのかもしれません。
(副編集長のコメント:次は第3回。「東海のカレイ」に吹いた追い風とは?)
4 肉厚で上質な新湊産のマコガレイ。刺身は春から夏にかけてが旬。
5 ワタリガニ科のカニ。ズワイ・ベニズワイに続く射水市新湊地域の第3のカニ。
6 左右それぞれのカニの爪と最後列の脚を除き、カニの身をむき身にして干した食べ物。
7 ベニズワイガニの干物。富山県食品研究所と共同研究し、干物製法について特許出願中。
8 大分県日出(ひじ)町のブランド品。
9 田村正紀著〈ブランドの誕生〉(千倉書房)の付表3、特産品のブランド化レベルでは、未ブランド・準ブランド・ブランドの3段階のうち準ブランドに分類される。北陸3県で言えば滑川のホタルイカ(富山)・氷見ぶり(富山)と同じブランド化レベルと評価されている。
10 海底で網を引き回して底魚を捕る漁法。
11 海中の一定の場所に常設し、魚群を誘導・捕獲する漁法。
12 1本の縄に何本も枝縄を下げ、その先に釣り針を付け、一定時間水中に放置した後に引上げて、掛かった魚を捕る漁法。
13 えさを付けた長い釣り糸を船から垂らして引き回し魚を捕る漁法。
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