ヒットメーカーの漁師さんに学ぶ。身近な物から「価値を生む」方法。

2020.08.31

第1回

50円の魚が8万円に。

取材は漁業のかたわらで、干物製造販売・観光船サービスを行う東海勝久さんの会社IMATOの2階で行われた。窓から見える橋の向こう側が富山湾。

富山県には、富山湾に面して新湊という大きな漁港があります。今回の話の舞台は、この新湊漁港になります。

 

県内にある16の漁港のうち、第3種漁港と言われる大きな漁港は、新湊と氷見の漁港しかありません。

 

氷見は、<氷見の寒ブリ>など、ブリのブランド化に成功している知名度の高い漁港なので、むしろ氷見の方が知られているかもしれませんね。

 

ちなみに新湊はベニズワイガニやシロエビ(シラエビ)の水揚げが盛んです。

 

新湊漁港。撮影:坂本正敬。

石川県で第3種漁港と言えば、珠洲市の蛸島漁港と、加賀市の橋立漁港、福井県で言えば小浜市の小浜漁港になります。

 

富山県外の人は、これらの漁港に置き換えて考えると、規模がイメージしやすいかもしれません。

新湊漁港は、ちょっと変わった港と言えるかも。

漁業と言うと、一般的にどのようなイメージを思い浮かべますか?

 

高齢社会に突入して久しい日本の地方で盛んな産業という理由もあって、担い手不足による先細りの業界と考える人も少なくないかもしれません。

 

新湊漁港の様子。撮影:坂本正敬。

確かに、北陸3県はどこも、個人・団体で漁業をする経営組織の数が、過去20年間で右肩下がりの状態です。

 

実際にその数字は、北陸3県がまとめた、2018年版の『漁業センサス』にも書かれています。漁業センサスとは5年ごとに行われる漁業の「国勢調査」です。

 

県ごとに各県がまとめた資料を見比べると、3県全てで漁業経営者の数が減っています。それに伴って漁業就業者の数も、減り続けている状態です。

 

新湊漁港。撮影:坂本正敬。

しかし、今回の舞台となる新湊漁港は、ちょっと変わった港と言えるかもしれません。

 

過去20年を5年ごとに振り返ってみると、新湊での漁業の働き手は(新湊東部を除く数)187人(1998年)→159人(2003年)→194人(2008年)→178人(2013年)→165人(2018年)と、一定数を維持しています。

 

例えば同じ県内の第3種漁港である氷見で漁業に従事する就業者の数は、284人(1998年)→241人(2003年)→210人(2008年)→162人(2013年)→122人(2018年)と減り続けています。

 

氷見漁港の関係者に話を聞けば、「新湊には若い人が集まる」という印象もあると教えてくれました。

 

新湊は縮小傾向の漁業の世界でも、一定の活気を保っている漁港と、見方によっては言えるかもしれません。

経験も技術もない漁師が、限られた魚しか捕れない環境で生き残ろうと必死に頑張ってきた。

この新湊漁港の漁業協同組合に所属しながら、独特な立ち位置で地元の魚のブランド化に奮闘する漁師が、東海勝久さんです。

 

もともとは富山の氷見の人でしたが、新湊の漁港に友人と一緒に就職した経歴を持ちます。

 

東海勝久さん。

漁業従事者として勤務を続け、何十年ぶりの新規着業の親方として漁業権を与えられた異色の人。新規着業後は漁師としての才能を開花させるだけでなく、捕れた魚のブランド化を次々と成功させます。

 

そのブランディングの第1弾が今回、詳しく話を聞いた<万葉かれい>です。万葉かれいとは、マコガレイをブランド化した水産物です。

 

富山湾に流れ込む庄川が削った海底谷の入口、水深100mには、るマコガレイというカレイの一種が生息します。

 

そのカレイを独自の漁法で無傷のまま捕らえ、水揚げ後は品質のいい個体を水槽に一晩から数日入れて、泥を吐かせ、くさみを消してから、生きたまま市場に出す手法を東海さんは確立しました。

 

万葉かれい。

さらに万葉かれいと命名し、大きさを400g以上と定め、漁期も夏前後とさまざまなハードルを設けて、独自性、優位性を磨きます。

 

その結果、新湊ではかつて1枚50円程度で扱われていたマコガレイが、地元紙の報道によれば、2019年(令和元年)5月6日の初競りで、過去最高の1枚8万円の値が付いたといいます。

 

さすがに8万円は新元号のお祝いも兼ねたご祝儀的な金額ですが、普段でも万葉かれいは1枚、数千円の値が付きます。

 

新湊漁港の様子。撮影:坂本正敬。

聞けば、この万葉かれいに関する一連の取り組みは、最初からブランド化をしようと思って始めたプロジェクトではなかったのだとか。

 

むしろ、経験も技術もない漁師が、限られた魚しか捕れない環境で生き残ろうと必死に頑張ってきた結果、自然に生まれたブランド品だったと東海さんは言います。

 

もちろん、マーケティング戦略に精通した企業参謀のようなアドバイザーも居ません。

 

外部の力を借りず、自分たちの力だけで実現したという意味では、地元の特産品を自力でブランディングしたいと考える北陸3県の人たちにとって、大変な参考になるはず。

 

キーワードは「足元にある何かを徹底的に磨く」です。ピンと来た人はぜひとも、最後まで読んでみてくださいね。

 

(編集部コメント:次は第2回。いよいよ東海さんのインタビュー、スタートです。)

富山新聞(朝刊)「万葉かれい1匹8万円 令和相場10倍 新湊漁港で初競り」2019/5/8 P28

この記事を書いた人

坂本 正敬

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