気付かせる・足を止めさせる・手に取らせる
―― 取材前にいただいた資料には、お店の価値や世界観を人の五感に(特に視覚に)訴える手段として陳列や展示があると書かれていました。
筧:はい。
―― さらに陳列や展示には、
- 気付かせる・興味を持たせる
- 足を止めさせる
- 手に取らせる
という狙いがあるとも書かれていました。この辺りをもう少し詳しくお話いただけますか?
筧:3つのうち1番に近づくほど展示(ディスプレー)の役割が大きくなり3番に近づくほど陳列の役割が大きくなります。
1番の気付かせる・興味を持たせる展示の具体的な舞台としてはショーウインドーや出入口近くの大きな展示コーナーが挙げられます。
―― 最も人の目に留まる場所ですね。そこで展示を展開する際、何から考え始めればいいのでしょうか?
筧:くどいですが、テーマをもう一度明らかにしたいです。何をどのように誰に対して見せたいのか。テーマが決まらないと何を展示すればいいのか決まりません。
その上で、さまざまな方向からの視線に耐えられるように立体感と奥行きを意識する必要があります。
展示の正面にお客さんが立ち止まって、じっくりと正対して見てくれるケースはまれです。
道の反対側から・車に乗りながら・歩きながらなど、さまざまな角度から動きの中で展示は眺められます。立体感と奥行きを演出してください。
基本の構成は5つ
―― 立体感と奥行きを実現するためには具体的にどのような考え方があるのでしょうか?
筧:まず覚えたい展示の基本構成が5つあります。
- 三角構成
- 左右対称(シンメトリー)構成
- 左右非対称(アシンメトリー)構成
- 直線構成
- リピート構成
―― 順番に教えてください。
筧:三角構成では正面から見たとき、あるいは上からのぞき込んだとき、展示したいアイテムで三角形を描くように物を並べます。
三角構成。奥の皿、向かって手前の左の皿、手前の右のグラス2つで三角形を描いている
最も背の高い・サイズの大きい物を一番奥に置き、低く小さなアイテムを手前に置きます。「かたまり」や「重なり」を下の底辺では意識します。
―― 素朴な疑問なのですが、そもそもなぜ三角にするのでしょうか?
筧:色にイメージがあるように形にもイメージがあります。
成功や絶頂などのポジティブなイメージが三角にはあり、安定感や立体感、ボリュームも生まれます。
―― 三角形の種類にも意味はありますか? 例えば、正三角形と二等辺三角形の違いだとか。
筧:正三角形が基本だとすれば、二等辺三角形はシャープでフォーマルな印象が生まれ、不等辺三角形は動きが出てカジュアルな印象が生まれます。
―― この例では、向かって手前右にグラスが2つあります。同じ物だけで三角を描かなくてもいいのですね。
筧:構いません。ちなみに構成と切り離した技術の話になりますが、複数の同じアイテムを扱う際には「グルーピング」も併せて覚えておくと便利です。
この手前右のグラス2つにはグルーピングが使われています。
―― 同じ物を複数個まとめる=グルーピングするとの意味ですか? この場合は、グルーピングした2つのグラスを三角構成の一角に代用しているわけですね。
筧:同じような物を数多く飾る場合はもちろんですが、異なるアイテムをまとめる場合にもグルーピングは便利な技術です。
―― 異なるアイテムの場合はどのようにグルーピングすればいいのでしょうか。
この場合は、同じグラスを2個グルーピングしています。しかし、ちぐはぐなデザイン・サイズ・色のグラスが気が付けばたくさんあるケースも、家庭だと特に多いのではないでしょうか。雑多な商品を扱うお店も一緒のはずです。
同じガラスのコップでグルーピングしたいけれど、サイズやデザイン、色が違うなどといった場合はどうすればいいのですか?
筧:そのまま並べると散漫な印象になる雑多なアイテムを扱う際には、トレーやガラスドームなどを利用してまとめる方法もあります。
―― それもグルーピングと呼んでいいのですね。
筧:陳列や展示には5つの構成があると言いました。
グルーピングのような技術をこの構成に重ね合わせてアレンジを加え、最終的な見せ方に導いていく、これが基本の考え方になります。
(副編集長のコメント:構成パターンを知っているだけで悩む時間がぐっと短くなりますね。残り2つの構成パターンと構成を引き立てる色使いについて次回では学びます。)
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