置く・掛ける・つるす。「展示と陳列」の正解。

2020.06.29

vol. 01

「なんとなく格好いい」に頼ってはいけない。

 

坂本:はじめまして。〈HOKUROKU〉の坂本と申します。本日はよろしくお願いします。

 

:こちらこそ、よろしくお願いします。

 

坂本:外に大きな「紙」という看板を見付けたのですが、このアトリエは何かのお店だったのですか?

 

筧:はい。曾祖父母が明治の終わりに、この場所で紙屋を創業しました。平成まで続いていたのですが、令和に時代が移り変わるとともにお店を閉めました。

 

筧さんのアトリエの外観。裏は足羽山。

その後は私がアトリエ兼仕事場として再オープンしました。今後はワークショップなども開催する予定です。外の看板は迷ったのですが、せっかくなので歴史を重んじて残しました。

 

坂本:アトリエの中には画家としての筧さんの作品も展示されています。画家としてはどのような経緯でキャリアを歩み始めたのでしょうか?

 

筧:福井の越前市に私の尊敬する画家さんがおられて、その方が絵を始めたきっかけです。先生の絵に衝撃を受け、その先生が教室を開いていると知って、翌日には習いたいと入門していました。

 

坂本:アトリエにはお母さまの絵も展示されています。ご家族は根っからの芸術家系なのでしょうか?

 

筧:いえ、そうでもありません。父は学校の体育系の教師です。ただ先ほどお伝えしたとおり、小さいころから自宅には奇麗な色紙や和紙がありました。美しいものに触れて育ったという環境はあったかもしれません。

 

筧さんの植物画。

坂本:画家と並行してディスプレーコーディネーターとして活躍されていますね。ディスプレーコーディネーターという職業があるとは知りませんでした。

 

筧:そうだと思います。なぜなら私が勝手につくった肩書なので(笑)

 

坂本:そうだったのですね(笑)こちらはどういった経緯で始められたのでしょうか?

 

 

筧:もともと美術系の学校を卒業して、金沢にある会社で北陸3県の展示や陳列の仕事をしていました。その後は仕事を引き継ぎながら故郷の福井で独立し、ディスプレーコーディネーターを名乗り始めました。

 

坂本:例えば福井では百貨店のお仕事もされていらっしゃるそうですね。

 

筧:ショーウインドーやメインのステージなど、いろいろとお仕事させてもらっています。

 

坂本:個人のお店についてはどうでしょうか。例えば洋服屋とか、和菓子屋、雑貨屋だとか。

 

筧:はい。個人店のディスプレーもお手伝いしています。他には企業の展示会の出店などもお手伝いさせてもらっています。

 

坂本:まさに展示と陳列のプロフェッショナルだと、あらためて理解しました。

陳列と展示はコミュニケーションツール。

アトリエの一角に陳列される紙の商品。

坂本:そういえば「陳列と展示の正解。」について、事前に詳細な資料をまとめてくださり、ありがとうございます。

 

筧:いえいえ。思い付いた限りを書いたまでです。

 

坂本:資料の中には「個人的な趣味志向でディスプレーしてはいけない」と書かれていました。これはどういう意味でしょうか?

 

筧:陳列と展示はオーナーの「なんとなく格好いい・すてき・おしゃれ」に頼ってはいけないという話ですね。

 

陳列と展示は人と人・人と物とを結ぶコミュニケーションツールと言えます。少しだけ専門的に言えば「演出型の販促ツール」とも言えます。

 

最終的な決定は個人の感性に左右されるかもしれませんが、最初はやはり基本を押さえて、ルールに基づいて演出を考えていく必要があると思います。

 

坂本:実際に仕事で展示や陳列をコーディネートする際、筧さんは何から始めるのでしょうか?

 

筧:おそうじでしょうか(笑)

 

坂本:そうじですか?

 

筧:はい。もちろん何も手を加えなくても、演出型の素晴らしい陳列と展示ができているお店もあります。

 

ただ一方でオーナーさんのこだわりや長年の業務によって、雑多な状態になっているお店も少なくありません。その場合はおそうじして一度まっさらな状態にします。

 

坂本:そうじの次は何をするのでしょうか?

 

筧:コンセプトメイキングです。テーマ決めと言ってもいいかもしれません。テーマを決めた上で売り場のゾーニングを見直し、具体的にどこに何を置くかと考えながら陳列と展示を展開していきます。

 

坂本:そうなると陳列と展示は最後なのですね。

 

筧:はい。テーマを最初に決めなければ、何をどのように飾ってどのように並べるのか、何も決められません。

 

坂本:テーマ決めをしっかりやらずに思い付きで陳列や展示を考えると、まとまりがない状態になってしまうのですね。

誰に何を売りたいか。

坂本:ちなみにテーマとは具体的にはどのような言葉で表現されるのでしょうか?

 

筧:一概には言えませんが、誰をターゲットに・何を売りたいかをきっちりと考えれば、おのずと決まってくると思います。

 

 

例えば和菓子屋さんで涼しげな夏の和菓子をご年配に売り出したいと思ったら、「水」「涼」など夏の季節感が1つのテーマになると思います。

 

坂本:ちなみにこのアトリエのテーマは何なのでしょうか?

 

筧:ここですか(笑)

 

(筧さんがアトリエを見回す。)

 

主役が作品なので「絵の世界観を最大限に引き立てる」がテーマでしょうか。テーマが決まればゾーニングも見えてきます。

 

アトリエの様子。

ここは通りに面してガラス張りになっています。ですから大きな作品を最も奥まった正面の壁に必然的に展示しました。

 

坂本:確かに最初に作品が目に入りました。

 

筧:作品を邪魔しないように、視界をさえぎる物も置かず、床と壁の余白を大きくしています。

 

基本として少なくとも壁の3分の2は何も飾らない状態=余白を見せたいです。

 

床については余計な物を置かず、床面を広く出すほど高級感が演出できます。こうした考え方をゾーニングと呼びます。

 

 

ただゾーニングについてはお店の立地・広さ・業態などによって、一概に言えない部分が大きいです。

 

なので今回はそこまで話を広げるのではなく、今すぐ実践できる展示と陳列の技術論をお話できればと考えております。

 

(副編集長のコメント:どれだけこだわって展示しても雑多な状態では伝わりません。まずはそうじからですね。次回は展示・陳列で覚えておきたい「5つの型」について教えてもらいます。)

筧(かけひ)いづみ。福井市生まれ。ディスプレーコーディーネーターとして県内外の百貨店や小売店、展示会場の陳列と展示を行う。画家としての顔も持ち、数々の展覧会で入選・特選する。公式ホームページはhttps://izumikakehi.amebaownd.com/

前壽則さん。

お客の最初に目に留まる展示スペース。

陳列と展示に関する基礎的な考えを4枚の資料にまとめてくれた。

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