それでも最初はいいじゃない
四津川製作所(富山県高岡市)のぐい飲み
目次ページで書いたとおり〈HOKUROKU〉はEC(電子商取引)サイトを始めます。
ECサイトを始めるウェブメディアは世の中に数多くあって、収益のポイントを広告収入や購読料以外に持ちたいという動機がその背景には一般的にあります。
もちろんHOKUROKUも同じで創刊準備の段階から「いつかはECサイトを持ちたい」「オリジナル商品をつくって販売したい」などと夢見ていました。
HOKUROKUの創刊は2020年(令和2年)5月31日です。当初は「数年後に」というイメージでした。しかし思いも寄らず創刊から1年も経たずに実現を迎えるわけです。
たった1つの商品ラインアップからスタート
ただ単にキャッシュポイントをつくりたいから〈北陸目録〉を始めるわけではありません。
本気でECサイトを使って利益を出そうとすれば、たくさんの売れ筋商品を扱わなければいけないはずです。しかし北陸目録では、たくさんの売れ筋商品は扱いません。
言ってしまえば、最初はたった1つの商品ラインアップからスタートします。
その理由としては(人員が圧倒的に足りないという事情が一番ですが)、他にも北陸目録の商品の選定プロセスが挙げられます。
北陸目録ではまず「編集部が本当にほしいと思う何か」しか扱いません。
そもそも母体のHOKUROKU自体が、SEO(検索エンジン最適化)とか提携メディアへの露出チャンスの拡大とかを考えず、自分たちで楽しいと思えるコンテンツしか出していないわけです。
もちろん、独り善がりの楽しさにならないように、HOKUROKU編集部内では開けっ広げな意見の交換が絶えず行われています。
北陸目録でも同じで、北陸に暮らす自分たちが本当にほしいかどうか、忖度(そんたく)なしで話し合われています。
その上で歴史の重みがある・北陸の地域に根差している・機械で大量生産できない・どこにでも売っているわけではないなど、HOKUROKU(もしくは北陸目録)の運営メンバーで独自に定めた選考基準があります。
さらに言えば、商品点数にノルマを設ける事情もないので、何もなければ何もないで終わりです。
その網の目を潜り抜けて扱う商品が決まったとしたら、今度はみんなで熱心に取材に出掛け、つくり手に感謝と尊敬の意を示しながら何がいいのかを考えます。
このような商品選定のプロセスを続けていると、おのずと扱う商品点数は限られていきます。
「これ、どう見てももうかる仕組みになっていないですね」と、副編集長の大坪がある日の会議で言っていました。
「まあ、最初はそれでもいいじゃない」と編集長の私(坂本と言います)、およびプロデューサーの明石博之あたりは(たぶん)考えている節があります。
目利き力が北陸目録の財産の1つ
「商品選定は編集部の話し合いで決まる」と先ほど書きました。
しかし、私としては矛盾するようですが、プロデューサーの明石博之の「目利き」をすごく信頼しています。
明石は東京の美大を卒業後、商業スペースや公的な空間のプロデュースを通じて、建築・デザイン・プロダクトなど、各方面で見聞を深めてきました。
明石が新しく手掛けた古民家「リノベ」の宿〈金ノ三寸〉(富山県高岡市)を見学に訪れると、玄関のたたきに元アメリカ海軍の潜水艦だか駆逐艦だかに供え付けられていたチェストが置かれていました。
写真の右手の暗がりに米海軍のチェストが置かれている。不思議と空間には統一感を感じられる
もちろん、明石の見立てです。どこでそんな家具が手に入るのか見当も付きませんし、どうして「重伝建1」に指定される地域の古民家に米海軍のチェストを置こうと発想したのかも分かりません。
ただ、明石が仕事を通じて、空間にマッチする古今東西のプロダクトに対し目の細かいアンテナを張り巡らせている日常が、強烈に伝わってきました。
プライベートでも身銭をたくさん使って、せっせとお宝から「がらくた」まで買い込み、「倉庫がほしい」と騒いでいる姿も知っています。
その目利き力が当面は北陸目録の財産の1つなのかなと思います。
HOKUROKU(北陸目録)で定めた選定ルールを大前提としてクリアした上で、明石が「いいでしょ」と目を輝かせて自慢してくる何かが容易に手に入る仕組みを整える、北陸目録のスタート時の体制はその程度でも十分すぎるのかなと思います。
(副編集長のコメント:もうかるようには見えないのに喜々として走り出す編集部メンバーたちを戦々恐々と見ている副編集長です。
とはいえ運営側がもうかるコンテンツと読者の皆さんにとって面白いコンテンツは必ずしも一致しないとも思っています。
北陸目録の商品ページについて次回は紹介します。)
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