大人たちの遊ぶ姿が若者のお手本に
ケベック州のモントリオールを流れるセント・ローセンス川に浮かんだスパ。フェリーをリノベーションしてスパにした。撮影は、筆者の知人
新型コロナウイルス感染症の影響もあり2020・2021年の冬シーズンは北陸の観光業も大打撃を受けています。
しかし、福井も石川も富山も冬(12月・1月・2月)の観光はそれ以前から弱いと言われていました。
各種のデータを見ても北陸3県はどこも、夏と比べて観光客数が半数近くに落ち込んでいます。
先ほどからお手本にしてきたケベック州も実は同じです。夏に比べて冬は観光客が減ってしまいます。観光客数が冬に落ち込むとは、雪国の宿命なのかもしれませんね。
ただ、ケベック州の場合は冬でも、まちに活気が感じられます。人っ子一人通らない北陸の冬のまち中といった感じとは大きく違っています。
地元に暮らしている大人が(その大人に憧れた若者が)遊べる仕掛けが真冬でもたくさんあるからでしょうか。あるいはその逆で、多くの人が出歩くために、アクティビティが充実するのでしょうか。
例えば、スパ(温泉とエステが合体したような施設)でも遊べます。
ケベックシティから見たセント・ローレンス川。水面が凍っている。撮影:坂本正敬
ケベック州の州都ケベックシティにはセント・ローレンス川がまちに沿って流れています。
その川沿いにはおしゃれなスパがあります。いい大人が水着姿で、屋外入浴やサウナをわざわざ真冬に楽しんでいます。
ケベックシティのスパ。大開口部のガラス窓がある室内や露天風呂からはセント・ローレンス川を一望できる。撮影:坂本正敬
中に入れば、若者のデートにも使われていると分かります。氷に覆われた大河を背景にカップルたちが屋外風呂でセルフィ―(自撮り)を撮り、SNS(会員制交流サイト)に熱心に投稿しています。
1月下旬から2月中旬までの最も寒い時期に、ケベックシティではウィンター・カーニバルも行われます。
カーニバルのにぎわい
屋外で遊ぶ寒さを少しでも紛らわすために、赤ワイン・ブランデー・メープルシロップなどでつくった「カリブー」と呼ばれるお酒を地元の人たちは昼間から飲みます。
冬の催しは北陸各県でも行われています。しかし、県庁所在地のど真ん中で開催される大規模な冬の祭りは印象にありません。
ケベックシティの場合、カーニバルの期間中は夜になるとパレードまで開かれます。DJ(ディスク・ジョッキー)が屋外広場のブースで音楽を流すダンスパーティーも開かれます。
極寒の中でパレードの見学に集まる老若男女の人々
こうしたのノリノリのパレードやダンスイベントをまねしたいという単純な話ではありません。
「どうせ避けられない冬ならば楽しんでしまえ」という「ケベコワ」たちの生き方を象徴する光景として紹介しているわけです。
繰り返しになりますが、10,300km近く北陸から離れた現地を取材している間、北陸に暮らす私たちが見習える部分があるのではないかと何度も考えました。
大雪を生かした店頭の屋外カウンターバーで酒を飲む大人たち。撮影:坂本正敬
「どうせ雪は降るんだし、寒いのは変わらないのだから、我慢するのではなく生かす方向を模索できないか」と考える人が北陸にも増えれば、冬の閑散とした夜のまち並みも変わってくる気がします。
ケベックシティのウィンターカーニバルは1955年(昭和30年)にスタートしてから少しずつ規模を拡大してきました。北米最大の雪まつり(世界最大のカーニバルの1つ)として今では知られています。
米インターネット検索サイトGoogleのロゴが、ケベック・ウィンター・カーニバルの期間中、同カーニバル風のデザインに変わるほど有名です。
言い換えると、地元の人たち(特に大人たち)が冬を楽しもうとする姿勢が、諸外国から観光客を呼び寄せる1つの目玉プログラムを、観光の厳しい雪国の冬に生んだのですね。
冬に出歩く地元のいい大人たち
氷でつくったカクテルグラス。撮影:坂本正敬
「どうせ避けられない冬ならば楽しんでしまえ」という「ケベコワ」の哲学がなければ〈アイスホテル〉も実現しなかったかもしれません。
ケベックシティの郊外、まちの中心部から20分ほど自動車で走ったバルカーティア休暇村には、スウェーデンから技術提供を受ける形で、雪と氷でできたアイスホテルが冬季限定で登場します。
アイスホテルの教会。訪れた日には結婚式が行われていた。撮影:坂本正敬
現地ガイドによると、バルカーティア休暇村の敷地内に落ち着くまでにケベック州内で場所を転々としながら試行錯誤が行われてきたと言います。
その結果、北米の各地から宿泊客・見物客が訪れる観光地と今ではなりました。もちろん、冬をもっと楽しい季節にしようと工夫する「ケベコワ」たちの姿勢はこのアイスホテルからも感じられます。
アイスホテルの客室例。撮影:坂本正敬
まずは大人が楽しみ、地元の若者や子どもたちも憧れるようになって、他の地域に暮らす人にも興味を持たれる、そんな自然な流れが北陸でも生まれればいいですよね。
「何を言っているの?」という冷ややかなリアクションが多い気もしますが、この特集を準備する間にも・特集を出した後も、似たような考えを持つ人が少なからず北陸に存在すると知りました。
ジョン・レノン風に言えば「I’m not the only one.」です。異なる考えを持った人も、その真逆の意見を持ったままジョインしてくれるとうれしいです。
それでは皆さん、冬の北陸を今年も満喫しましょうね。
冬のケベックシティ。撮影:坂本正敬
(副編集長のコメント:ケベックシティとモントリオールから雪のあるまちの楽しみ方を編集長がお伝えしました。
「冬の厳しさがあるからこそ春の訪れを喜べる」なんて意見もありますが、個人的には「冬だって楽しみたい」と思っています。
はっきりとした四季があるからこそ、どの季節だって住みこなしてしまう北陸人でありたいです。)
文・写真:坂本正敬
編集:大坪史弥・坂本正敬
編集協力:明石博之・中嶋麻衣
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