川柳と俳句の違いも学べます。移住者たちの川柳「金猫賞」発表の話
vol. 05
愛をもってうがち、ユーモラスに切り取る
写真ACからの写真
最後は「金猫賞」の発表です。ここでドラムロールの音でも流れる仕組みを将来的に用意できればよいのですが今回は無音で続けます。
受賞作はこちらです。
「越してきてしごと聞かれる夫のね」
(そっちねさん)
ご近所さん、あるいはママ友との会話のワンシーンでしょうか。
「なんで移住してきた(引っ越してきた)の? ご主人の仕事の関係?」という地元の人たちの好奇心から生まれる問いに、ちょっとした皮肉をニコニコしながら投げ掛け返す見事な川柳です。
「別にどうだっていいじゃない。引っ越してくる人がそんなに珍しいの?」との思いがその皮肉には含まれるのだと思います。「夫が働き妻はその夫の仕事についていく」といった硬直化したジェンダー(性)による役割分担の根強さを北陸の地にあるいは感じたのかもしれません。
しかし、その皮肉を直接投げ返すだけでは不毛な分断の社会になってしまいます。
「言われてみれば変だね」と双方が笑い合えるようにちょっと肩の力を抜いた川柳本来のスタンスがこの作品には感じられました。
全体的な印象で言えば上5・中7・下5の音が奇麗に整っています。
上5と中7で状況が提示され下5の「夫のね」で奇麗に着地しつつ意外な展開が提示される、その着地の確かさと展開の意外さが読後の余韻を生んでいます。
この川柳からも「銀猫賞」の発表で紹介した「吐く」意識が強く伝わってきます。
「もう、うんざり」という怒りのマントルが根っこの部分で緩やかに、しかし確実に対流している様子が感じられます。
しかし、中7の「しごと」といった平仮名表記や下5の「夫のね」というチャーミングな言い回しで、その怒りも中和されています。
結果として風刺の雰囲気が担保され、単なる怒りの吐露ではない、伝統短詩という1ランク上の感情表現に昇華している印象があります。
移住者らしい、しかも生活者としての視点からつくられた素晴らしい川柳だと思いました。
「招き猫賞」もね
「銅猫賞」「銀猫賞」さらに「金猫賞」の発表は以上となります。
引き続き「銀猫賞」のshirokumaさん、「金猫賞」のそっちねさん、第2回以降の投稿も楽しみにしています。
ちなみに今回は、あと2つの投稿がありました。
「晴れた日が続くと逆に鬱になる」
(mariko)
「つごう良く関東関西使い分け」
(hakase)
どちらも力作で入選作と甲乙つけがたいレベルです。
これらの作品が他の作者の投稿を呼び込んだという側面もあるはずです。
そこで、第1回を記念する意味も込め特別に「招き猫賞」を贈ります。
金銀銅の受賞者にはそれぞれ正賞として表彰状、編集長をキャラクター化したオリメタダシステッカーを副賞として送付します。招き猫についてはオリメタダシステッカーのみを送ります。
「こんなに入選率が高いなら送ってみようかな」という皆さん、そのとおりです。今がまさにチャンスですのでどしどし投稿を待っています。
「なんでそうなる?」と思う話
第2回の川柳のお題を最後に発表します。募集期間は細かく決まっていませんが、川柳の集まり方も見ながら2020年(令和2年)の終わりまでと考えています。
お題は「なんでそうなる?」と思う話。
川柳のお題(前句)はもともと7・7音の14音字でつくられていたと学んだので14音でつくってみました。
時事ネタ、暮らしや土地の習慣の中から「なんでそうなるの?」という話を移住者らしい視点と愛をもってうがち(突き抜き)、ユーモラスな言葉で切り取ってください。
(応募はこちらから。)
(副編集長のコメント:発表は以上で終わりです。点者としての力量もこのコーナー自体のレベルも回を重ねるごとにパワーアップしていきたいと思います。作者の皆さんもその変化を一緒に楽しんでくださいね。)
文:坂本正敬
編集:大坪史弥・坂本正敬
編集協力:明石博之・中嶋麻衣
田口麦彦著『地球を読む 川柳的発想のススメ』(飯塚書店)
楜沢健著『川柳は乱調にあり 嗤う17音字』(春陽堂)
吉田健剛著、森田雅也監修『古川柳入門』(関西学院大学出版会)
杉山昌善著『今日から始める現代川柳入門ードラマチック川柳のすすめ』(有楽出版社)
オプエド
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