法律家の「謎解き」。弁護士Iからの挑戦状。(ふるさと納税編)

2020.08.21

第5回

居心地の悪い逆転勝訴。

※写真はイメージです。Brian Turner〈flickr〉より。

解答。

「後出しじゃんけん」は許されないという泉佐野市の主張にはそれなりの説得力がある。

 

国地方係争処理委員会も泉佐野市の主張をほぼ受け入れている。一見すると泉佐野市が有利にも見えた。

 

しかし2020年(令和2年)1月30日、大阪高裁が下した判決は泉佐野市の敗訴であった。

 

理由は次の通りだ。

 

総務大臣がどのようなルールをつくるかは法律上、総務大臣の政策的・専門的な裁量に委ねられている。

 

その総務大臣が〈ふるさと納税〉の趣旨に立ち返り、悪循環が生じた原因を排除しようと決めたのだから「裁量の範囲内」との判断である。

 

「法律で総務大臣にお任せをしている以上、どんなルールにするかを総務大臣がある程度自由に決められる」と大阪高裁は判断したのである。

 

「後出しじゃんけん」の点については、過去にさかのぼって手にした寄付金を返納させるなど泉佐野市の地位を失わせる効果はないため問題ないと判断した。

 

趣旨から外れていたふるさと納税制度の秩序を回復する取り組みとして大阪高裁はむしろ評価した。

「原判決を破棄する」

この判決を受けて泉佐野市は最高裁10に上告11する。

 

国地方係争処理委員会と大阪高裁の判断が分かれる中で最高裁がどのように判断するか注目が集まった。

 

2020年(令和2年)6月30日には最高裁判決が言い渡される。

 

「原判決を破棄する。」

 

原判決とは大阪高裁の判決である。大阪高裁の判決を破棄する。泉佐野市の逆転勝訴である。

 

総務大臣が定めた1の基準(新しいふるさと納税に参加するためには、これまでに著しく多額の寄付金を受領した自治体でない=「お利口だった」自治体でなければ駄目)を最高裁は無効とした。

 

理由は幾つかある。改正前のふるさと納税の制度において、返礼割合を3割以下にする・返礼品を地場産品に限るといった総務省の「助言」に泉佐野市は法的に従う必要はなかった。

 

従わなかったからといって法を犯しているわけでもない。

 

にもかかわらず新しいふるさと納税の制度(募集適正基準)は、総務大臣の「助言」に従わなかった「お仕置き」として、泉佐野市を不利益に取り扱っている。

 

「お仕置き」のような不利益な扱いは認められない、これが最高裁の理屈である。

いささかの居心地の悪さを覚えた。

ふるさと納税の本来の趣旨を忘れて寄付金集めに集中し、高い返礼割合・地場産品でない換金性の高い返礼品を提供した泉佐野市が結果として勝った。

 

この判決には人情として違和感が大きい。だからこそ林景一裁判官は「結論にいささかの居心地の悪さを覚えた」のであろう。

 

しかし論理を揺るがしてはいけない。最高裁の判断である。林裁判官は次のように続けた。

 

「泉佐野市の行為には眉をひそめざるを得ないが、改正前の『ふるさと納税』は当不当のレベルの問題である。

 

総務大臣の助言を無視したとはいえ、あくまでも法律の枠内にとどまる行動をとったに過ぎない。

 

総務大臣の目から見ればどれほど不適正に思えても、そのことゆえに不利益な処分を行うことは当然に正当化できない。」

 

人情で言えば国が正しい。論理で言えば泉佐野市に分がある。人情と論理の「交差点」で判事が悩まされた問題である。

 

結論として今回は論理が勝ち・人情が負け、泉佐野市が勝ち・総務省が負けた。

 

都会出身の私は人情よりも論理を優先する合理的な生活に親しんできた。法律家でもあるからなおさらだ。

 

しかし人情には人間らしさがある。人間らしい人情に触れ合うと論理とのせめぎ合いを強いられる場面がある。

 

今日も北陸のどこかで人情と論理の「交差点」に立ち、頭を悩ませている人が居るかもしれない。その感覚は法の世界も同じである。あなたは決して1人ではない。悩ましい問題に直面し意思決定に悩んでいる人たちの導きの糸に、この読み物がなればと願う。

 

(編集長のコメント:皆さんの裁きはプロの裁判官と一緒でしたか? 違いましたか? 引き続き次回の「謎解き」連載を楽しみに待っていてくださいね。)

 

文:伊藤建

カバー写真:Eric(flickr)

写真:flickrの素材より
編集:坂本正敬・大坪史弥
編集協力:明石博之・博多玲子

参考
http://www.city.izumisano.lg.jp/ikkrwebBrowse/material/files/group/33/shinsa_kankoku_20190904.pdf

https://mainichi.jp/articles/20191003/k00/00m/010/246000c
大阪高等裁判所の略。大阪府大阪市にある日本の高等裁判所の1つ。

ふるさと納税の対象となる自治体を「基準に適合すると総務大臣が指定した自治体」に限る新指定制度をつくった法律は、寄付金の募集の適正な実施に係る基準を総務大臣がつくるように委任している。総務大臣がどんな基準をつくるかは総務大臣の政策的専門的裁量に委ねられている。総務大臣の定めた1の基準(募集適正基準)は、ふるさと納税の趣旨が忘れられて生じた悪循環の原因を排除する目的があるために、裁量の範囲内と判断された。

10 最高裁判所の略。司法機関として憲法で定められた最高の国家機関。

11 第二審の判決を不服として、変更を求めるために再審査を求める行為。

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