法律家の「謎解き」。弁護士Iからの挑戦状。

2020.08.17

第1回

「ふるさと納税」の起源。(プロローグ編)

※写真はイメージです。Stefan Baudy(flickrより)

法律家の序言。

HOKUROKU運営メンバーにして、弁護士でもある伊藤建です。

 

このマガジン・プログラムでは、北陸3県にまつわる裁判を取り上げ、論理と人情の交差点で悩んだ法律家の足跡を、「謎解き」のようなスタイルでたどります。

 

法律というと、血も涙もない論理の世界だと思うかもしれません。しかし、過去には論理と人情がせめぎあいの末、人間味のある判決が出たからこそ、有名な事件になった裁判が少なくありません。

 

この北陸3県も、例外ではありません。例えば、富山県黒部市の宇奈月温泉には、「木簡事件記念碑」という観光名所があります。

 

この石碑は、戦前の大審院(現在の最高裁判所)の画期的な判決がなされた、宇奈月温泉を舞台とする「宇奈月温泉木管事件」にまつわる石碑です。

 

この事件がどれくらい有名な裁判なのかといえば、法学部の学生なら誰でも学ぶ、重要な判例をセレクトした『判例百選』のまさに最初に登場するほどの話です。

 

本来、最初に取り上げる北陸の事件は、この宇奈月温泉木管事件を考えていました。

 

ただ、この事件を深く知るためには、人情と対立する法の論理を知らなければなりません。

 

そこでこのマガジン・プログラムの第1弾は直近の話題、人情に反する論理を優先した「ふるさと納税」をめぐる2020年6月の判例を紹介します。

 

一見すると、北陸と直接のつながりはないかもしれません。しかし、「ふるさと納税」制度を活用して創刊した『HOKUROKU』とのつながりは十分にあります。

 

第2弾以降に続く北陸の裁判を題材とした「謎解き」の練習として、チャレンジしてみてください。

「ふるさと納税」をめぐる騒動の状況と背景知識の整理。

読者の中には、「ふるさと納税の牛肉が届いた!」と喜ぶ友人を持つ人も居るかもしれない。

 

しかし、自分で制度を活用した経験がないため、「ふるさと納税」の具体的なイメージがわかない人の方が多いはずだ。

 

かく言う私も、『HOKUROKU』のクラウドファンディングをするまで、詳しい内容は把握していなかった。

 

その際に学んだ「ふるさと納税」の制度の概要を、騒動の背景知識として説明する。

 

「ふるさと納税」は、2008年(平成20年)の地方税法改正により導入された。その趣旨は、次の2つにある。

  1. ふるさとやお世話になった地方団体に、感謝・応援する気持ちを伝える
  2. 税の使い道を自らの意思で決める

通常、国税である消費税は国に、地方税である住民税は住んでいる都道府県と市町村に支払う。

 

例えば、富山県富山市に住んでいる私は、所得税を国に、住民税を富山県と富山市に支払っている。

 

しかし、地元で生まれた人が、進学や就職を機に都会に引っ越してしまうと、幼少期には地方でさまざまな行政サービスを受けながらも、地方にはほとんど税金を納めない場合も起こりうる。

 

引っ越した人の多くは、納税を引っ越し先の都会で納め、地元には納めないからだ。

 

「ふるさと納税」は、この納税地の偏りを正す制度として、大きな期待をもって導入された。

寄付額に応じて所得税が還付され、住民税が控除される。

「ふるさと納税」で寄付をすると、寄付者にはどういったメリットがあるのだろうか。

 

まず、一定の範囲内ではあるが、寄付額の2,000円を超える部分について、所得税と住民税の支払いで恩恵を受けられる(所得税が還付され、住民税が控除される)。

 

例えば、私が幼少期を過ごした千葉県に寄付をすると、国に支払った所得税のうち、寄付額の2,000円を超えた部分が戻ってくる。

 

その上、富山県や富山市に対して支払うべき住民税も免除される。

 

つまり、実質的には千葉県に税金を支払い、千葉県の財政を応援した形になる。

 

さらに、「千葉県の○○のプロジェクトに寄付をする」という使い道まで選べる。単なる寄付では終わらない、画期的な制度なのだ。

 

まさにHOKUROKUも、富山県の「ふるさと納税」事業として行われた。

 

HOKUROKUの創刊プロジェクトを選んで寄付をした参加者の資金は、富山県に寄付される。

 

同時に、寄付をした参加者はその寄付額の分だけ税金の支払いを免れる(※支払い免除の額に上限はある)。

 

一方で、富山県の地域活性化のための事業として認められたHOKUROKUは、富山県に対して寄付されたお金を受け取る。

 

以上が、「ふるさと納税」の基本的な理解となる。ところが、この「ふるさと納税」の制度は、ボタンの掛け違えから、想定外の道をたどり始める。

 

この想定外の道は、最高裁判事をして「結論にいささかの居心地の悪さを覚えた」と語らせる、国と地方の徹底抗戦へと通じていた。

 

(編集部コメント:ここまでがプロローグ。次は「ふるさと納税」の制度が想定外の道のりを歩み始める、物語の本編へと続きます。)

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