<ふるさと納税>の起源。(法律家の序言とプロローグ)
※写真はイメージです。Stefan Baudy(flickrより)
法律家の序言。
<HOKUROKU>運営メンバーにして、弁護士でもある伊藤建です。
このマガジン・プログラムでは、北陸3県にまつわる裁判を取り上げ、論理と人情の交差点で悩んだ法律家の足跡を、「謎解き」のようなスタイルでたどります。
法律というと、血も涙もない論理の世界だと思うかもしれません。しかし、過去には論理と人情がせめぎあいの末、人間味のある判決が出たからこそ、有名な事件になった裁判が少なくありません。
この北陸3県も、例外ではありません。例えば、富山県黒部市の宇奈月温泉には、「木簡事件記念碑」という観光名所があります。
この石碑は、戦前の大審院(現在の最高裁判所)の画期的な判決がなされた、宇奈月温泉を舞台とする「宇奈月温泉木管事件」にまつわる石碑です。
この事件がどれくらい有名な裁判なのかといえば、法学部の学生なら誰でも学ぶ、重要な判例をセレクトした<判例百選>のまさに最初に登場するほどの話です。
本来、最初に取り上げる北陸の事件は、この宇奈月温泉木管事件を考えていました。
ただ、この事件を深く知るためには、人情と対立する法の論理を知らなければなりません。
そこでこのマガジン・プログラムの第1弾は直近の話題、人情に反する論理を優先した<ふるさと納税>をめぐる2020年(令和2年)6月の判例を紹介します。
一見すると、北陸と直接のつながりはないかもしれません。しかし、「ふるさと納税」制度を活用して創刊したHOKUROKUとのつながりは十分にあります。
第2弾以降に続く北陸の裁判を題材とした「謎解き」の練習として、チャレンジしてみてください。
<ふるさと納税>をめぐる騒動の状況と背景知識の整理。
読者の中には、「ふるさと納税の牛肉が届いた!」と喜ぶ友人を持つ人も居るかもしれない。
しかし、自分で制度を活用した経験がないため、ふるさと納税の具体的なイメージがわかない人の方が多いはずだ。
かく言う私も、HOKUROKUのクラウドファンディングをするまで、詳しい内容は把握していなかった。
その際に学んだふるさと納税の制度の概要を、騒動の背景知識として説明する。
ふるさと納税は、2008年(平成20年)の地方税法1改正により導入された。その趣旨は、次の2つにある。
- 古里やお世話になった地方団体に、感謝・応援する気持ちを伝える
- 税の使い道を自らの意思で決める
通常、国税である消費税は国に、地方税である住民税は住んでいる都道府県と市町村に支払う。
例えば、富山県富山市に住んでいる私は、所得税を国に、住民税を富山県と富山市に支払っている。
しかし、地元で生まれた人が、進学や就職を機に都会に引っ越してしまうと、幼少期には地方でさまざまな行政サービスを受けながらも、地方にはほとんど税金を納めない場合も起こりうる。
引っ越した人の多くは、納税を引っ越し先の都会で納め、地元には納めないからだ。
ふるさと納税は、この納税地の偏りを正す制度として、大きな期待をもって導入された。
寄付額に応じて所得税が還付され、住民税が控除される。
ふるさと納税で寄付すると、寄付者にはどういったメリットがあるのだろうか。
まず、一定の範囲内ではあるが、寄付額の2,000円を超える部分について、所得税と住民税の支払いで恩恵を受けられる(所得税が還付され、住民税が控除される)。
例えば、私が幼少期を過ごした千葉県に寄付すると、国に支払った所得税のうち、寄付額の2,000円を超えた部分が戻ってくる。
その上、富山県や富山市に対して支払うべき住民税も免除される。
つまり、実質的には千葉県に税金を支払い、千葉県の財政を応援した形になる。
さらに、「千葉県の○○のプロジェクトに寄付する」という使い道まで選べる。単なる寄付では終わらない、画期的な制度なのだ。
まさにHOKUROKUも、富山県のふるさと納税事業として行われた。
HOKUROKUの創刊プロジェクトを選んで寄付をした参加者の資金は、富山県に寄付される。
同時に、寄付をした参加者はその寄付額の分だけ税金の支払いを免れる(※支払い免除の額に上限はある)。
一方で、富山県の地域活性化のための事業として認められたHOKUROKUは、富山県に対して寄付されたお金を受け取る。
以上が、ふるさと納税の基本的な理解となる。ところが、このふるさと納税の制度は、ボタンの掛け違えから、想定外の道をたどり始める。
この想定外の道は、最高裁判事をして「結論にいささかの居心地の悪さを覚えた」と語らせる、国と地方の徹底抗戦へと通じていた。
(編集部コメント:ここまでがプロローグ。次はふるさと納税の制度が想定外の道のりを歩み始める、物語の本編へと続きます。)
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