北陸に足りない「褒める技術・褒められる技術」を名人の大田さんに学ぶ

2020.06.15

No. 01

褒め上手よりも褒められ上手

 

―― はじめまして。インタビューを担当する〈HOKUROKU〉副編集長の大坪史弥と申します。

 

フリーアナウンサーとして各種の司会業をこなし、ラジオなどメディア出演のご経歴もある大田さん に、褒める技術について今日は聞かせてもらえればと思います。

 

大田:よろしくお願いします。

 

―― そもそも、HOKUROKUで「褒める技術」をどうして取り上げようとしているのか。その理由は「褒める」が北陸に足りないと感じるからです。

 

もちろん、日本全国に共通する話だとは思うのですが、保守的で口下手が多いと言われる北陸では、その傾向が特に強いのではないでしょうか。そのような問題意識を基に企画づくりがスタートしています。

 

大田:大坪さんは富山の方ですよね。私も富山の人間なのですが、その気持ちはすごく分かります。私自身も同じように感じる瞬間は多いですから。

 

―― そうなのですね。でも、大田さんは褒める名人と聞きます。「大田さんに元気をもらった」からと「大田さんの会」という特殊な会合も開かれているくらいだと耳にしました。

 

大田:よくご存じですね(笑)

 

―― 正直に言うと、それほど「褒める」が私も上手ではないので、今日の議題である「褒める技術」について何から聞けばいいのかちょっと困っているのですが、話としては何から始めるといいと思いますか?

 

大田:リアクションですね。

 

―― リアクション? リアクションとはどういう意味ですか?

 

大田:誰かに褒められた時のリアクションです。

 

―― 「格好いいね」とか言われた時のリアクションですか?

 

大田:はい。ちょっと繰り返しになってしまいますが、同じ北陸人としてあえて言うと、北陸の人は全体的にリアクションが薄いですよね。

 

言葉にしない遠慮がちな姿勢が美徳だとされる風潮もあるのかなと思います。でも「リアクションしない」は遠慮と全然違うんです。

 

―― もう少し詳しく教えてください。

 

大田:褒める極意を考える前に褒められる技術をまずは学ぶ必要がある、それが私の意見です。

 

―― 面白くなりそうな予感がしてきました。褒められる技術ですか。

 

大田:はい。その褒められる技術の土台はリアクションにあると思っています。何かを言われたらリアクションを欠かさずにする。当たり前ですけど、こんなちょっとした心掛けでも印象は変わっていきます。

 

―― なるほど。

 

大田:外国人になったくらい大げさなにリアクションから始めてみてください。この習慣を心掛けているうちに後で話そうと思っている褒められ上手への準備が整っていくのですね。

 

 

―― 褒める極意を聞きに来たのにリアクションの話、さらには、褒められ上手の話から始まるとはちょっと意外でした。

 

褒める側ではなく褒められる側の姿勢から今回の取材では学びが始まるわけですね。

 

大田:もちろん、普通の大人であれば相手が何か言ってきたらリアクションくらいはできるはずです。ですが、大坪さん、褒められた時はいかがですか?

 

―― どぎまぎして照れてしまうかもしれません。

 

大田:そうですよね。普段なら自然にリアクションできるのに褒められた途端、過度に謙遜したりそっけなくリアクションしたりしてしまいますよね。

 

―― おっしゃるとおりです。

 

大田:リアクションは褒められ上手の第一歩です。褒められ上手は褒め上手につながっていきます。

 

―― なるほど。全体像を理解できました。

無視すれば5票失う

取材と並行して褒める技術のワークショップが行われた。※ワークショップは新型コロナウイルス感染症の感染拡大前に行われました

―― 褒められ上手の第一歩とも言えるリアクションの大切さを学んだきっかけは何かあるのでしょうか?

 

大田:きっかけは、フリーアナウンサーの仕事のかたわらでウグイスの仕事をさせてもらった時 になります。

 

―― ウグイスとは「○○です。よろしくお願いします」と選挙期間中に街宣カーから候補者と一緒にアナウンスする人ですよね。

 

大田:そうです。国政の経験もありますし地方選では20回以上応援させてもらいました。

 

―― 事前に耳にはしていたのですが、ウグイスのお仕事はいつから始められたんですか?

 

大田:フリーアナウンサーの活動を始めて2~3年目くらいです。知人に誘われました。政治の話だし最初は乗り気ではなかったのですが今後の勉強にもなるかなと思って始めました。

 

―― フリーアナウンサーの方がウグイスを担当している場合もあるのですね。

 

ワークショップの様子

大田:ウグイスの役割って何だと思いますか?

 

―― 役割ですか。なんでしょう。「候補者についてしゃべる」ですか?

 

大田:そう思いますよね。そのとおりでもあるのですが「候補者を当選させる」が本当の役割です。

 

候補者を当選させるためには票が必要です。1人につき1票しか投票権はありません。さまざまな選挙を今までに担当させてもらいましたが、たった4票差で落選した経験もあります。たった1票、されど1票なんです。

 

―― なるほど。

 

大田:その1票を獲得するためには何が重要だと思いますか?

 

―― うーん。候補者が掲げる政策でしょうか? もしくは人柄かな?

 

大田:そうですよね。素晴らしい政策や候補者の人徳ももちろん重要です。ただ、候補者とウグイスのリアクションも大きく影響していると厳しい選挙活動の中で私は気付づきました。

 

―― ウグイスのリアクションですか。

 

大田:支持する政党を持たない、いわゆる、無党派層が選挙では3〜4割常に存在します。この層の支持を得られるかどうかが結果に大きく関わります。

 

無党派層に訴える場合、候補者やウグイスが有権者の反応に熱心なリアクションをするかどうかで票の行方が決まる部分も極端に言えばあるのです。

 

―― 浮動票ってやつですね。

 

大田:街頭で手を振ってくれたり声を掛けたりしてくださる有権者へ「ありがとうございます!」とリアクションを返すなどはウグイスとして当たり前の話です。

 

ですが、地域によっては数多くの方が街頭にいらっしゃいます。対応しきれなかったり気付かなかったりとリアクションを返せない場合も当然出てきます。

 

そうなると「○○さんってさ、選挙カーで無視するらしいよ」という悪いうわさがすぐに広がります。悪口ほどすぐに拡散します。

 

―― 街頭の方の気持ちを考えると確かに分からなくもありません。

 

大田:リアクションで1票を拾える反面、無視すれば、その人が広める悪評で多くの票を失うのですね。だからこそ「反応すれば1票が生まれ、無視すれば5票を失う」と思ってリアクションを返しています。

 

―― 選挙の厳しい現場でリアクションの大切さを肌身に感じたわけですね。

 

大田:はい。人の印象を決定付ける要因としてリアクションの占めるウエートはすごく大きいと学びました。

 

話を本題に戻すと、人から褒められたらとりあえず大きくリアクションする、それだけでも周りから「あの人を褒めると気持がいい」と思われる、言い換えれば、褒められ上手に近付けると思います。

 

―― そこに話がつながってくるのですね。「褒める」を学ぶためには「褒められる」を最初に上手になる必要があって、褒められ上手になるためにはリアクションが大事になってくる。

 

大田:そのとおりです。

 

 

編集長のコメント:思春期の子育てが大変なのも冷めた部下の教育がしんどいのも「相手のリアクションがない」からなのかもしれませんね。

 

リアクションを生かした褒められる技術について次は話が続きます。)

大田淑美(おおたよしみ)さんプロフィール。
県内を中心にフリーアナウンサーとして活躍。ウグイス嬢としても活動し、直近の富山県知事選を含む地方選では20以上の選挙を担当。ほぼ負けなしで候補者たちの当選をサポートしてきた。

詳細はNo5:「照れくさい相手は文字に書いて褒める」参照

詳細はNo2:「褒められ上手が北陸を救う」参照

2012年(平成24年)からはウグイス嬢としての活動も始める。地方選では20以上の選挙を担当。ほぼ負けなしで候補者たちの当選をサポートしてきた影の立役者。

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