「買いたい」古民家「買ってはいけない」古民家

2020.09.28

vol. 01

使える古民家は減っている

ちょっと前置き

リノベーションする物件として北陸3県でも古民家に関心が集まっています。

 

〈HOKUROKU〉のプロデューサーである私・明石博之も富山の古い空き家(正確には空き物件)を取得し、カフェにリノベーションした過去があります。

 

その経験がきっかけで、建築空間デザイン・インテリアコーディネートに到る幅広い領域のプロデュース業を今では、なりわいにするようになりました。

 

行政や業界団体から空き家調査を依頼される立場にもなり、建築や不動産の専門家とはまた異なる物差しで、建築物の良しあしを見極める仕事もしています。

 

建築士の資格もなく、建築の教育を受けた経験のない私でも、500軒以上の空き家を見て、専門家の助けを借りながらリノベーションの実績を重ねるうちに、見る目も養われてきました。

 

「空き家をリノベーションして何かをしたい」との相談を数多く受ける中で、空き家(特に古民家)に対する世間的な関心を肌で感じています。

 

ただ、古民家の場合は大規模な修繕を必要とする老朽化した物件も少なくありません。

 

令和の時代に古民家を取得してリノベーションしようと思えば、オーナーとして最低限は頭に入れておきたい知識とチェックポイントがあると強く感じます。

 

この場合の知識やチェックポイントとは工事業者や建築士が知っている専門的なレベルの話ではありません。

 

オーナー(暮らしたり、活用したりする人)が楽しく古民家と向き合いながら、自信を持って賢く判断するためのコンパクトで応用の効く暮らしの知恵といった感じでしょうか。

 

北陸3県に残るすてきな古民家がもっと活用される、そんな輝かしい未来をイメージしながら、再活用を前提とした古民家物件の選び方、およびリノベーションのポイントを解説できればと思います。

 

書く内容を整理しながら気付いたのですが、この話は古民家を買う側だけではなく、空き物件を適正に管理したい人たちにも役立つ情報が多々含まれていると思います。

 

さまざまな人にこの文章が役立てばと願います。

古民家ってなんだ?

北陸の津々浦々に残っている木造伝統建築。当時の技術によって新築で建築しようとすると大変な金額に

そもそも、今回のテーマである「古民家」とはなんなのでしょうか。

 

古民家とは、築70年以上の木造伝統工法で建てられた住宅を意味します。執筆時点の2020年(令和2年)から70年ですから1950年(昭和25年)より前の時代になります。

 

1950年(昭和25年)は、第2次世界大戦の終戦から5年後です。現行の建築基準法がこの年に制定され、日本の建築は大きな転換期を迎えました。建築に関する法律がそれまでは日本に存在しなかったからです。

 

しかし一方で、1950年(昭和25年)以前に日本の伝統技術によって建てられた住宅(私たちが「古民家」と呼んでいる建築物)は「後出しジャンケン」のように制定された法に適合しない建築物として扱われ始めます。

 

木造伝統工法は、長きにわたり地震大国の日本で培われてきた建築技術を有しています。木造伝統工法で建てられた古民家は、風土に合わせてローカライズされた優れた建築とも言えます。

 

当時の職人たちは電動道具やくぎを使わず、今ではまねできないくらい高い建築技術を駆使して住宅を建ててきました。

 

現行の建築基準法に照らし合わせてみれば、古民家は確かに、耐震性や耐荷重性が基準を満たしていないと判断されます。だからといって、地震に弱いだとか大雪の重みに耐えられないといった話ではありません。

10年以上放置されると工事費用も莫大に

金沢の東茶屋街は北陸地方では最も「古民家リノベ」が進んでいる。歴史的な外観を保ちつつ、おしゃれな店へのリノベーションが見られる

しかし、この木造伝統工法の古民家が今「危機」に直面しています。

 

古民家は、先ほど「築70年以上前に伝統工法で建てられた古い住宅」だと言いました。

 

築70年以上となれば建てた当時の主人の多くは亡くなり、子や孫に不動産が相続されているはずです。

 

しかし、代替わりをする過程で所有者が複数になり意志決定ができなくなった結果、売買も処分もできなくなるケースが多発しています。

 

親の不動産の相続を子ども達が破棄したり、相続する相手の居ないまま施主が亡くなったりして所有者不在の建物も増えています。

 

古民家も空き家になって数年のうちは、リノベーションして十分に活用できる状態を維持しています。しかし10年以上も放置された状態が続くと傷みが激しくなり、工事にかかる費用も莫大になる可能性が高まります。

「買い」の古民家の特徴

空き家になってから10年以上、時間が経過していない

私が住む地域にも、10年以上放置されて廃屋のような状態に陥る建築物がたくさんあります。

 

10年前に初めて見た時は数百万円の投資で十分に住めるくらいだった空き家も今では、屋根瓦が落ち雨漏りしています。壁も崩れ落ち床下や柱の多くは腐っています。

 

活用できる状態の町家づくり建築物。空き家になってから管理されず8年が経過した時点で取り壊された

ここまで傷むとリノベーションの費用は軽く1000万円以上を覚悟しなければなりません。

 

価値を失った古民家が増えれば「リノベ」の費用が高くなるため誰も手を出せなくなってしまいます。

 

古民家が増えているのに莫大な投資が、購入の意思決定を遠のかせてしまう。この悪循環が、令和の時代に古民家の直面する残念な逆説的事態なのです。

当たり前の話を学ぶ

古民家をリノベーションしてビジネスを考える人からすれば、莫大なイニシャルコストは開業後の経営に大きな負担となります。

 

かといって、価格の安さに目を奪われ最初の物件選びを間違ってしまうと、予想以上の改修工事が必要になったり、お金をかけて工事しても根本的な問題が解決できなかったりする恐れも出てきます。

 

こうした最悪の事態を避けるためにも、古民家を買う予定の人はある程度の知識を事前に身に付ける必要があると考えています。

 

学ぶべき内容の多くは、専門家レベルの難しい知識ではなく、考えてみれば当たり前の話ばかり。

 

賢い古民家オーナーになるための基礎知識を次からは紹介していきます。

 

先ほども言ったように古民家を買う側だけではなく、空き物件全般を適正に管理したい側にも役立つ情報が含まれているはずです。最後までぜひ読んでみてください。

 

編集長のコメント:長い前置きはここまで。次からはいよいよ、買いの古民家・買ってはいけない古民家の本題に入ります。)

〈cafe uchikawa 六角堂〉。https://inacafe.net/

この記事を書いた人

Avatar

関連する記事

オプエド

この記事に対して、前向きで建設的な責任あるご意見・コメントをお待ちしております。 書き込みには、無料の会員登録、およびプロフィールの入力が必要です。