「聞いてメモする」技術。記者と編集者に発信力の土台を学ぶ

2020.07.21

vol. 02

果てしなく横道に付き合う

 

―― この特集は、「地方の発信力を磨く」がテーマです。

 

その意味で、アウトプットを意識しながら話を進めさせてもらいますが、話を聞くなど情報収集の段階で、書く内容はどの程度決まっているのでしょうか?

 

書く内容とは、具体的に構成という話になると思うのですが。

 

博多:もちろん、だいたいの構成は考えていきますけれども、時にインタビューの方向や話がいろいろな展開を見せるケースも時にはあります。それこそがインタビューならではの面白さだと思います。

 

編集者の視点から見ても、例えばライターさんから上がってきた原稿に、取材対象者らしさや人間味が出ていないと、全体の構成通りに書いてくれていても、すごく気になります。

 

無駄かもしれない一言が、本質をついている場合は多いです。

 

 

事前に構成だけを決めて、こちらの思い通りの言葉だけをもらって、それを記事にするとなると、何のために生の声を聞きに行くのかなとも思います。

 

もちろん、ざっくりとした部分は決めますし、企画の意図なども事前に相手にお話をするので、その企画の趣旨に沿って相手が話してくださるという面もあります。

 

ですが、プラスアルファというか、ちょっと横道をそれた部分がすごく面白かったりするので、私は果てしなく横道に付き合って、うまく拾っていこうと考えています。

 

もちろん、制限時間内にできる範囲で、という意味ですが。

 

―― 若林さんはどうでしょうか?

 

若林:この横道の話、確かに、そのとおりだと思います。余談が出てくると、相手も楽しんでくれているのだなという気持ちになれます。

 

一方で、学生さんなど、これから情報発信する側になりたい、具体的にはライターや記者になりたいと考える方に、話させてもらう場面では、事前の構成の大切さもお伝えしました。

 

例えば、10時間のインタビューで1冊の本を書くだとか、聞いた話を一字一句、全ての言葉を生かして書かないとボリュームが足りなくなるようなアウトプットの場合、綿密な構成と質問を考えていきます。

 

以前、ビジネス書を1冊書いた時の質問票はA4の紙10枚くらい用意しました。編集者さんと編集スタッフの方で3回くらいやり取りして質問を考えました。

 

とにかく、限られたインタビューの時間を濃密にしたいと私は考えています。

 

 

―― 発信を前提に誰かに話を聞きに行く際に、プロはそこまで準備しているという話ですね。

 

アウトプットを前提として考えると、下準備の一環として、質問の準備も大事になってくると思います。

 

いい質問をして、いい情報を引き出さなければ、どれだけ書く技術が優れていても、発信力は伴わないと思います。

 

いわゆる「質問力」は情報発信において、とても重要になってくると思うのですが、例えばインタビューの前に質問は幾つくらい用意するのでしょうか?

 

若林:質問は用意しすぎると、その質問を全部「こなす」作業になってしまいます。

 

著書が多いような有名な方に取材する場合、いろいろ調べすぎると「こうですよね?」「こうですよね?」という事実確認で終わってしまいます。

 

すごく物知りになって現場に行かなければいけない一方で、それをやりすぎると、こちらがインタビューの主導権を握ってしまう恐れがあります。

 

なので、下調べを生かした上で「こうだったから、今はどうですか?」と、発展的な質問を用意するといいような気がします。

抽象的な質問をあえてする

 

―― 何か質問を考える上で、相手に関係なくでこれだけは入れるという質問はありますか?

 

発信力の土台となる聞く技術を育てようと思っても、いきなりプロの皆さんのように、上手に情報を引っ張り出す質問を用意できるとは限りません。

 

若林:その人にとって、抽象的な質問をあえてするようにしています。

 

これは同業者から学んだのですが、相手が医師など専門性の高い人の場合、そのライターの方は「最後の方にあえて抽象的な質問をぽんと放り込んでみる」と言っていました。

 

例えば「あなたにとって幸せとは何ですか?」だとか。

 

―― なるほど。これならまねできそうですね。博多さんは、いかがですか?

 

博多:すごく共感できます。堅い先生などには「何が人生で大事なのですか」といった抽象的な質問を確かに私も聞くかもしれません。

 

 

若林:こちらが取材という名目で、相手に威圧感を与えてしまっている場合にも、この抽象的な質問は効果的だと思います。

 

例えば、アスリートはもう私と比べて年齢的に下の方が多いので、取材を受ける側が少し遠慮されている場面もあります。

 

そういった取材では、「あなたの競技とは関係のないアスリートで、好きな選手は誰ですか?」などと聞きます。

 

そうすると、イチロー選手などと答えが返ってきます。

 

イチロー選手であれば、こちらもご本人のライフストーリーを知っていますから、「マリナーズからヤンキースに行った決断と、今の○○さんは似ていますね」などと、共通の話題を探しやすいです。

 

博多:なるほど。素晴らしいですね。

 

―― そういう質問は、いつごろ出すのですか? 最後の方に放り込むといった話が先ほどはありましたが。

 

若林:もう、言うことなくて、困ったーという時です(笑)

 

(一同、笑う。)

 

副編集長のコメント:「ガチガチに構成も質問も決めて準備万端!」……がいいわけでもないようです。面白さを生むためにも準備には余白が大事なんですね。次は第3回。プロの中でも意外と共有されていない「取材ノートのとり方」について。)

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