「聞いてメモする」技術。記者と編集者に発信力の土台を学ぶ

2020.07.20

vol. 01

誠心誠意、毎回準備します

 

―― 本日はよろしくお願いします。

 

今日の状況を最初に整理させてもらいますが、HOKUROKU編集長の私・坂本と若林さん、博多さんの3人でお話させてもって、博多さんは、東京帰りで間もないという理由からオンラインで取材参加していただきます。

 

つまり、会議室には私と若林さん、オンラインで博多さんとつながっています。

 

博多:はい。よろしくお願いします。

 

若林:よろしくお願いします。

 

―― 今日のテーマは実は大きくて、地方の発信力の強化です。地方には発信力が足りないという課題をさまざまな場所で耳にします。

 

しかし一方で、ブログや〈note〉、オウンドメディアなど、今は地方に居ても情報を発信できるツールが整っています。

 

では、実際にそうしたツールを使って発信力を磨くためには、どうしたらいいのか。

 

仮に情報発信を「書く」だとしたら、いきなり文章術だとか見出しや切り口の考え方だとか、アウトプットの部分を訓練するのだけではなく、むしろその土台となる情報集めや、メモして整理する練習も始めた方がいいのではないかと考えました。

 

だからこそ今日は、大きな目標として地方の発信力の育て方を念頭に置きつつ、足元では発信力の土台の話を聞かせてもらいたいと思います。

 

博多・若林:よろしくお願いします。

 

―― 最初、このテーマで誰に話を聞かせてもらおうかなと思った時、全国紙の現役の記者が、ある人を介して若林さんを紹介してくれました。

 

話を聞き、メモして、書くという文脈では、適任者だという理由からです。

 

若林:何か偉そうな感じにならないか、すごく心配しています。

 

―― 一方で、話にさらなる広がりと深みを出すために、集英社で雑誌と書籍の編集に携わってきた博多さんにも今日はご参加いただき、発信力の土台の育て方を考えられればと思います。

 

博多さんは現在、富山と東京の二拠点で生活されている方でもあります。

 

博多さんと若林さん、それぞれ簡単に自己紹介をまずはお願いしてもよろしいでしょうか。では、博多さんから。

 

博多玲子さん

博多:こんにちは。私は集英社で雑誌や書籍の編集に携わらせてもらって、食、旅とか、器の作家さんのインタビューとか、ライフスタイル全般を担当させてもらってきました。

 

―― そもそも出版社に入った経緯は何なのですか?

 

博多:大学4年生の時、学生時代から出版社でアシスタントのアルバイトをやっていた同窓生に、集英社で女子の編集者を募集していると教えてもらいました。

 

もともと女性誌をほぼ全部読むくらい雑誌が好きで、本を読む、文章を書く作業が好きだったという理由もあって、思い切って応募した形になります。

 

―― 出版社に入ると、今回のテーマである聞く技術・メモしてまとめる技術などの基礎的な訓練は、会社研修みたいな感じで教えてもらえるのですか?

 

博多:諸先輩たちによる担当部署、例えば、ファッション・ライフスタイルなど別に、編集の考え方やノウハウについてのレクチャーが最初にありました。

 

その後、1~2年は先輩と組んでいろいろ教えてもらいましたが、基本的に現場で後で学びました。

 

集英社の場合、女子編集者が配属される部署は主に女性誌なので、私もまず〈non-no〉で編集を勉強させてもらって、女性誌の流れでずっとやりながら、そのうちにコツが分かってきて、面白くなってきたという感じです。

 

もともと私は、絵描きになりたいという夢がありました。編集者になるために入社した人が多い職場で、少し自分が場違いだと感じた瞬間もありました。

 

しかし、人が好き、人に興味があったから続けてこられたと思います。また、絵描きを目指して美術を勉強した経験も、結果として写真の構成やグラフィックをデザインする上で役に立ちました。

 

―― 若林さんは、北國新聞に入社されています。それまでの経緯をお願いします。

 

若林朋子さん

若林:私は生まれは富山ですが、関西の大学に進学して、地元に帰ってきて仕事がしたい、スポーツの仕事がしたいとずっと思っていました。

 

ただ、スポーツクラブでアルバイトしていた大学生のころ、周りの友達はアスリートとして才能のある人ばかりで実技は駄目だと思いました。かといって、教える方もあまり上手ではありません。

 

それでもスポーツの仕事がしたいと思った時、雑誌〈Number〉だとか、沢木耕太郎さんとかの仕事を見て、書く仕事をやってみたいと思いました。それで新聞社を受けました。

 

―― 新聞社は、一通り受けたのですか?

 

若林:全国紙と地元紙を受けました。結果として、ご縁のあった北國新聞社に入社しました。20代はスポーツを担当し、インターハイとか国体とかを取材していました。

 

―― 念願が叶ったのですね。

 

若林:はい。30代は文教担当になりましたが、週末などの忙しい時期には、スポーツの取材も手伝ってきました。それで、41歳になったときに、お世話になった新聞社を退社します。

 

辞めた理由は、介護の問題などもありながら、いつかは独立して仕事したいと思っていたためで、現在は地方でフリーのライターとして活動しています。

 

―― 現在はどのような媒体で書いているのでしょうか。

 

若林:ネット媒体が8割、紙媒体が2割で仕事しています。ネットでは〈Yahoo!ニュース〉、〈東洋経済オンライン〉、朝日新聞の媒体など。

 

紙媒体についても書籍から広報誌までさまざまで、スポーツで言えば〈Truth〉というフリーペーパーの執筆・編集を担当しています。

時間が許す限り本人の情報は全て目を通す

―― 博多さんも若林さんも、情報の発信を長年続けてきた専門家です。だからこそ、地方が課題としている情報発信の土台の部分、話を聞く・メモする・整理する技術について聞かせてください。

 

まず、情報発信のために情報収集する、例えば、人に話を聞くとなったら、いつも何から始めるのですか?

 

 

博多:話を聞く相手の下調べです。インタビューという状況で考えれば、お話を聞く時は、相手の経歴、出身、もし著書を出されていたら、著書には全て目を通します。

 

例えば、作家の浅田次郎さんに取材した時、全て本を読み返しました。

 

浅田さんは〈鉄道員(ぽっぽや)〉などを書く大作家のイメージがありますが、初期のピカレスクと言われる作風のころも大好きです。

 

その熱意をお伝えすると、「そうでしょ、あれ面白かったでしょ」と言ってもらえて、コミュニケーションがスムーズに進んだりします。

 

実際にインタビューしに行く時は、聞く側の誠意だとか人間性を通じて、「この人だったらちゃんと書いてもらえるな」と思ってもらう、心を開いてもらう作業が大切だと思います。

 

その意味で誠心誠意、毎回準備していきます。

 

―― 若林さんは、どうでしょうか?

 

若林:事前の準備は本当に大切だと思います。博多さんが編集者としての立場で語られたので、私は執筆を担当するライターとしての立場から言います。

 

例えば以前、二見書房でフィギュアスケートの本を書かせていただいたときに、担当の編集者さんが日本で最初に書かれたフィギュアスケートの本を、国会図書館で探し出してきてくれました。

 

見れば、1915年(大正4年)に出版された本です。ちょうどそのころ羽生結弦選手がソチ五輪で金メダルを取ったタイミングだったので100年前の資料になります。

 

ただ、その100年前の本があったからこそ「この100年を書きたい」という発想になりました。

 

編集者さんはすごい本を持ってきてくれたという驚きがありましたし、書く側は、きっちり準備しなければいけないなと思いました。

 

博多:素晴らしい編集者さんですね。

 

副編集長のコメント:取材は対象者に会う前から既に始まっているようです。でも、事前に構成や質問はどのくらい考えるのでしょうか?次回は具体的な質問の考え方をお聞きします。)

誰もが文章や漫画、写真、音声を投稿できるメディア。
集英社のファッション&ビューティ誌。
文藝春秋社のスポーツ総合雑誌<Sports Graphic Number>
ノンフィクション作家。
教育、研究、医療のニュースを取り上げる部署。
17世紀のスペインを中心に流行した小説の形式で、「 悪漢小説」や「悪者小説」とも言われる。

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オプエド

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