泊まる楽しみはもっと深い。新・北陸の宿。

2021.03.02

vol. 02

モノラルな評価軸は泊まる楽しさを狭めてしまう。

プロデュースを手掛けた〈民家ホテル・金ノ三寸〉(富山県高岡市)のベッドルーム。

たくさんの宿に泊まっているうちに気付きもありました。OTA(オンライン・トラベル・エージェント)の便利さによる弊害がその1つです。

 

オンライン・トラベル・エージェントは皆さんにとってもなじみ深いはずです。〈ブッキングドットコム〉や〈楽天トラベル〉などの検索サイトを具体的には意味します。

 

これらの検索サイトは、地域や値段などの条件を設定して宿を探せる非常に便利なツールですよね。過去の利用者が書き込んだ口コミや評価も参考にできます。

 

しかし他人の評価は参考になるものの重視し過ぎると宿選びが人任せになってしまいます。

 

「上質」だとか「高級」だとか「サービスの質」だとか「便利な立地にある」だとか、上下の指向性や付加価値の有無に関するコメントがOTAには並んでいます。

 

しかしそうした評価軸ばかりで宿を捉えると泊まる楽しさの幅を狭めてしまう、ユニークな宿泊体験の機会を損失してしまうと思い始めました。

 

〈尾道U2〉。ホテルの至るところに自転車ラックがある。

事業主の考えたコンセプトなり独自の工夫なりと、多くの宿は何らかの特徴を持っています。

 

その宿に対して「上質」だとか「口コミ」だとかモノラル(単一)な評価軸を当てはめてしまうと、目の前にかすみが掛かり本来持っている宿の楽しみの余地が減るばかりです。

 

「自分の感性で楽しんでやれ!」という気持ちで泊まった方がそれよりも幸せだと宿に泊まり歩いているうちに思うようになっていったのです。

誰でもない。「私」が旅をする。

もちろん自分の感性で楽しむとなると、いわば楽しむための「物差し」を何にすればいいのかという問題が出てきます。

 

しかし答えは意外に簡単かもしれません。ずばり「どんな非日常の体験をしたいか」を主体性を持って考えるだと思っています。

 

北陸に暮らしている人たちに今回の連載では、頑張れば日帰りできる距離感の北陸の宿を紹介しようと思っています。

 

〈マルダ京都〉。赤の部屋、他に青の部屋がある。この宿では色のコンセプトを学んだ。

コロナ禍の社会になって「マイクロツーリズム」という近場の観光が注目されるようになりました。

 

ただ近場の観光であればこそ、非日常の気分を味わうために宿選びがとても重要になります。

 

上質・高級・口コミなどの評価軸で単純に宿を選べば旅の体験が予定調和になってしまい非日常感の乏しい旅で終わってしまうかもしれません。

 

北陸の宿に北陸の人が泊まるのであれば、「どんな非日常の体験をしたいか」と主体性を持って考えればいいのだと思います。

 

急な坂道で有名な広島県尾道市に〈LOG〉というホテルが例えばあります。

 

アパートの趣を残した〈LOG〉(広島県尾道市)の通路。

建設重機の通れない急な坂道の途中にあるアパートをリノベーションして誕生したホテルなので膨れ上がる建築費用との戦いだったそうです。

 

言ってしまえば不便な坂道の上にあるホテルで公共駐車場からも遠いです。エレベーターもありません。利便性・アクセスの良さなどモノラルな評価軸だけで宿を選ぶと決して候補にならない宿のはずです。

 

しかしLOGの設計を手掛けた設計事務所は、インドに拠点を置く建築界で有名な〈スタジオ・ムンバイ〉です。

 

尾道は、私の故郷という縁もあります。その尾道に気になる宿が誕生したと知って居ても立っても居られない気持ちになりました。

 

不便さ・エレベーターの有無などはどうでも良くなるくらい、実際に泊まってみるとすてきな空間でした。

 

LOGのゲストルーム。

建物の外壁に珪藻(けいそう)土を使い、ゲストルームの壁と床には和紙が張り巡らせてあります。

 

お風呂の壁や床には小さなタイルをあしらい、バーの扉には表面処理していない銅板が張られています。

 

銅板の扉。

通常のホテルでは避けたいと思う経年劣化の激しい素材を意図して多用しながら、細部に至るまでしっかりデザインした空間です。

 

9月のよく晴れた暑い日、汗まみれになって駐車場から急な坂道を私は上っていきました。思い起こしてみてもなかなかの運動だった気がします。

 

それでもおもしろい建築やデザインに旅先で触れたい人には、坂を上がる面倒を強いてでも泊まって欲しい価値があると今でも思っています。

テーマを突き詰めて宿の情報を正確にキャッチする。

1棟貸しの宿〈BED AND CRAFT taë〉(富山県南砺市)。静かな田舎のまち中に立地している。撮影:山本哲朗。

自らの宿泊のテーマを考えるようになると、求める体験価値が明確になりミスマッチが減るようになります。

 

「都会の騒がしさから離れて田舎でのんびり過ごしたい(=非日常を楽しみたい)」というテーマを金沢市や富山市、福井市の中心部に暮らす人が例えば掲げたとします。

 

しかし「田舎でのんびり」というテーマで現地に訪れてみると、周りは田舎の風景でも通行量の多い県道に面していたという場合もあるでしょう。

 

こうしたミスマッチは事前のリサーチ不足がもちろん一因となっていますが、自分のテーマ設定が漠然とし過ぎていたために起きた可能性もあります。

 

兵庫県篠山市の丸山集落の風景。集落全体を楽しんでもらうために、古民家の1棟貸しの宿がある。

「こんなところに泊りたい」「こんな非日常の体験をしたい」と最初にイメージしたら「こんなところ」「こんな体験」を今度は具体化してみてください。

 

「田舎で」という抽象度の高い言葉が「静かな」に置き換わるかもしれません。あるいは「自然豊かな」だとか「森の中」だとか「湖畔で」に置き換わる場合もあるはずです。

 

非日常性を味わいたいというニーズを持つ潜在的なお客に情報が届くように一方の宿側も努力しています。

 

抽象度の高いテーマ設定を突き詰めていくと宿側からの情報を正確にキャッチできるようにもなります。

 

結果としてミスマッチも避けられるようになるのですね。

 

北陸の人が近場の北陸で旅する時こそテーマ設定をまずは突き詰めて考えてみてはどうでしょうか。

 

その作業こそが非日常の宿泊を近場の旅で楽しむ鍵になると思っています。

 

(編集長のコメント:モノラルな評価軸を当てはめてしまうと本来持っている宿の楽しみの余地が減るとは、いい言葉ですね。

 

広島県尾道市のホテルの話も「へー」と思わず声を漏らしてしまいました。皆さんはどうですか?

 

北陸に暮らす私たちが北陸の宿を探す際のポイントを次の第3回で引き続き明石が語ります。)

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