北陸の日本酒 × 料理の「ペアリング」論を若鶴酒造の社長と利き酒師に学ぶ話(前編)

2020.12.10

vol. 03

ワインよりも幅広い料理に

 

―― 4つの分類でいえば左下のカテゴリーを最後に教えてください。爽酒(そうしゅ)はどういったお酒なのでしょうか?

 

爽酒(そうしゅ)は左下のカテゴリー

池森:いわゆる普通酒(一般酒)・本醸造酒がこのカテゴリーに入ります。

 

―― いろいろな専門用語がまた出てきました。

 

池森:簡単に言えば、味も淡く香りも控えめなオーソドックスなお酒です。このカテゴリーは食を邪魔しません。

 

広範囲の料理と相性が良く、お酒自体も温めたり冷やしたりさまざまな楽しみ方ができるので、蔵ステイ池森のミニバーセットで出すお酒はこの爽酒から選ぼうと思っています。

 

―― 日本酒の中でもスタンダードな味わいだから、部屋飲み用として出すお酒として無難なのですね。

 

池森:はい。

 

―― ミニバーセットに使いたい銘柄は具体的に決まっているのでしょうか?

 

池森:若鶴酒造の銘柄に〈辛口 玄 銀ラベル〉というお酒があります。

 

若鶴酒造〈辛口 玄 銀ラベル〉

この180mlタイプを部屋に置いてセットで食べ物に何を持ってくるかを考えようと思っています。

 

―― この手のお酒(爽酒)は一般的にどのような料理が合うのでしょうか?

 

池森:日本酒は、もともと広い範囲の料理に合うお酒なのですが、中でもこの爽酒は、イカの刺身のようなあっさりした食事から、濃厚でこってりした食事にもどちらにも合います。

 

―― 濃厚でこってりした食べ物とは例えば何が挙げられますか?

 

池森:蔵ステイ池森では、例えば、ホタルイカの沖漬けとも出します。

 

―― 確かにかなりしっかりした味わいですね。福井・石川の人はちょっと縁遠いかもしれませんが。

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ホタルイカ。写真は沖漬けではなく釜ゆで。写真提供:とやま観光推進機構

このジャンルにはどのような酒器が適しているのでしょうか。部屋に用意するミニバーセットにはベストマッチの酒器も添えておくと思うのですが。

 

池森:爽酒(そうしゅ)は蔵ステイ池森の場合、能作10の〈ぐい呑〉で出しています。スズでできた酒器で飲むとお酒がまろやかになるからです。

 

―― 能作ってあの能作ですね。テレビ東京〈ガイアの夜明け〉でも特集されていたので富山はもちろん石川・福井の人にもその名前はとどろいているかもしれません。

 

能作のスズ製の〈ぐい呑〉と若鶴酒造の辛口 玄 銀ラベル

どうして能作の酒器を選んだのですか?

 

池森:味がまろやかになるからです。

 

―― ああ、先ほどもおっしゃっていましたね。失礼しました。

 

確かに、ガイアの夜明けでも、すし屋だか小料理屋だか詳しくは覚えていませんが、スズの酒器で食事を楽しんでいるお客さんが「お酒がまろやかになる」と口をそろえて言っていた気がします。

 

池森:スズの酒器は、香りを抑えてしまう面もあるので、大吟醸のようにフルーティーなお酒には適していません。しかし、本醸造や普通酒のように最初から香りを抑えてつくった爽酒の場合は、まろやかさが増して余計においしくなると認識しています。

 

―― お酒の温度は何℃くらいがおいしいのでしょうか?

 

池森:それこそ爽酒は冷やしても常温でも温めても、どうやって飲んでもおいしいです。

正解がない日本酒業界で新しいペアリングを

―― 日本酒の4分類に沿って基本的なペアリングの話をここまでに教えてもらいました。

 

今回のミッションは、蔵ステイ池森の宿泊者に用意する部屋飲み用ミニバーセットづくりです。

 

お酒は、スタンダードなタイプ(爽酒)の玄を選び、ペアリングの可能性に幅を持たせたわけですが、宿泊者だけの空間で宿泊者だけが部屋飲みを楽しむシーンを考えると、調理を必要とする食べ物は出せません。生の食材も出せません。

 

おのずから個包装された消費期限の長い食べ物が候補になってくると思うのですが、現段階で何か目星はあるのでしょうか?

 

池森:日本酒に限らずお酒のペアリングには産地を合わせるという考え方があります。

 

若鶴酒造の玄を基準のお酒と設定すると、若鶴酒造が出すおつまみが適しているのではないかと考えています。

 

富山県砺波市にある若鶴酒造。

―― 若鶴酒造って富山の酒蔵でしたよね?

 

池森:そうです。

 

―― 酒蔵なのにウイスキーもつくっているみたいな記事をどこかで読んだのですが、その酒蔵ですか?

 

池森:はい。まさに、そのウイスキーブランドから〈HARRY CRANES〉というおつまみシリーズが発売されていて、ここから玄に合うおつまみを選んでみようかと思っています。

 

〈HARRY CRANES〉のおつまみ。中央に見える瓶は北陸で唯一のウイスキー蒸留所・三郎丸蒸留所のつくる〈サンシャインウイスキー〉

―― ウイスキーのおつまみですか。詳しくは分かりませんがウイスキーと日本酒、全然味が違いますよね?

 

そのウイスキーのためにつくられたつまみが日本酒に合うのでしょうか?

 

池森:確かに、HARRY CRANESはウイスキー向けにつくられた商品です。しかし、先ほども言ったように、日本酒、特に爽酒の玄はペアリングの幅が本当に広いです。

 

しかも、北陸の地元食材を扱うメーカーと若鶴酒造が組んでつくった商品なので、地酒とのペアリングも相性がいいと考えられます。

 

また「これが完璧な答えだ!」と明確な正解がない日本酒業界の端っこに身を置く者として、せっかくなら今回は、新しいペアリングにも挑戦してみたいと思います。

 

若鶴酒造の敷地内の様子

―― 手元の「スマホ」でHARRY CRANESをちょっと調べてみましたが、北陸の食材にこだわったラインアップで、パッケージなどの世界観も洗練されています。

 

不意に聞きますが、若鶴酒造の関係者を池森さんは誰か知っていますか?

 

池森:社長の小杉さんと親しくさせてもらっていますが。どうしてですか?

 

―― 社長をご存じですか。なるほど。それは好都合です。

 

ちょっとひらめいてしまったのですが。

 

池森:何でしょう?

 

 

―― ミニバーセットの候補にHARRY CRANESを考えているのであれば、HARRY CRANESはどういったブランドなのか、どういったペアリングが考えられるのか、若鶴酒造へ一緒に聞きに行ったら議論は深まると思いませんか?

 

池森さんが選んだ若鶴酒造の玄がどういうお酒なのかも知りたいですし。

 

池森:ちょっと緊張しますね。お願いすれば引き受けてくれると思いますが。

 

―― さらに提案なのですが、若鶴酒造の「勉強会」を経て池森さんなりのペアリングを考えたら、第三者の専門家を交えて試食会を最後に設けてはいかがでしょうか。

 

その方が完成度も増すでしょうし、この特集を読んでくれている読者への説得力も違ってきます。

 

専門家の「洗礼」を受けた上で晴れてミニバーセットを完成させ、お客に提供するイメージです。

 

池森:専門家とはどなたでしょうか?

 

―― 石川県の山中温泉にある〈和酒BAR 縁がわ〉の下木雄介さんという人を他のメディアでかつて取材しました。

 

下木雄介さん。撮影:坂本正敬

利き酒師の上位資格である酒匠を石川で初めて取得された人で、日本酒と料理の関係性を突き詰めながら国内外で活躍する専門家です。

 

日本酒づくりの最前線を取り上げたNHKの番組にもちょこっと出ていました。

 

この下木さんに試食してもらい改善点などを議論すればペアリング論は深まると思います。いかがでしょう?

 

池森:ハイグレードなお題がさらなるハイグレードに移行しましたね(笑)

 

それならば、せっかくの機会なので試食会ではHARRY CRANES×日本酒のペアリングに加えて、蔵ステイ池森のバーで普段から出している氷見の食材×地酒のペアリングも試してもらいたいです。

 

その学びを受けて普段のメニューもブラッシュアップできればと思います。読者の皆さんにもペアリングを考える材料が増えていいのではないでしょうか。

 

―― 聞いてみましょう。そのためにもまず若鶴酒造を紹介してもらえませんか?

 

池森:分かりました。

 

副編集長のコメント:次は第4回。ミニバーセットの日本酒とおつまみの候補をつくった若鶴酒造へ出掛けます。

 

HARRY CRANESとはどんなブランドなのか、玄とはどんなお酒なのか。若鶴酒造の社長・小杉康夫さんに教えてもらいました。

 

ちなみに、下木雄介さんとの試食会については「利き酒師と酒匠で考える。日本酒の『ペアリング』の教科書(後編)」で紹介します。併せて楽しんでくださいね。)

10 富山県高岡市で1916年(大正5年)に創業した鋳物メーカー。仏具や花器、茶道具、スズのテーブルウエア、ホームアクセサリーなどを手掛ける。

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