利き酒師と酒蔵の社長で考える。日本酒の「ペアリング」の教科書。(前編)

2020.12.09

vol. 02

氷見の酒蔵は氷見の魚に合う大吟醸をつくっている。

氷見漁港の様子。

坂本:さらっと流してしまったのですが、さっき蔵ステイ池森併設のバーで扱っている熟酒について教えてもらいました。

 

その中に古酒ってありましたっけ?

 

池森:若鶴酒造〈若鶴 吟醸古酒 鶴鳴〉を本当は仕入れたいのですが、人気がありすぎて品切れ状態です。

 

(※編集部注:若鶴酒造によると若鶴 吟醸古酒 鶴鳴は終売となったそうです。)

 

坂本:きっとおいしいお酒なのですね。そもそも古酒ってどんな色でどんな味がするのですか?

 

池森:褐色っぽい色をしていて、コーヒーやスパイス風味のような豊かな香りが一般的に楽しめます。

 

坂本:ちょっと聞いたのですが、日本酒には種類によって器も選び分けた方がお酒の個性が際立つと聞きました。

 

池森:おっしゃるとおりです。蔵ステイ池森の場合、熟酒に合わせる酒器(しゅき)は京焼きの陶器を使って出しています。

 

坂本:日本酒の世界では器を酒器(しゅき)と呼ぶのですね。その組み合わせの理由は何でしょうか?

 

池森:この焼き物は内側が白いので貴醸酒などの色が分かるという理由もあります。

 

京焼きの酒器と若鶴酒造の古酒。器の中が白いため熟酒の色も楽しめる。

坂本:先ほど褐色という話がありましたもんね。その色を楽しめるようにですね。

 

池森:ただ正直に告白すると、この器の選定に関しては私が「これで飲みたいから」と感性で選んだ部分があって根拠に乏しいです。

 

ですからペアリング論を深める中で私自身も酒器選びについて学び直せればと思います

 

坂本:日本酒と言うと温めたり冷やしたりして飲んでいますよね。皆さん。

 

私は冷やした日本酒を格好付けてワイングラスで飲む以外にあまり試した経験がないのですが、例えば熟酒に分類される熟成酒や古酒、貴醸酒にはどのような温度が適しているのでしょうか?

 

池森:通常であれば常温で出します。ですがお客さまから「ぬる燗(かん)にしてくれ」とご希望をいただいたら、人肌くらいに温めてからお出ししています。

 

坂本:本当に無知で申し訳ないのですが、ぬる燗(かん)って何℃くらいですか?

 

池森:人肌よりもちょっと温かい40~45℃くらいです。

 

熟酒の場合は温めると特有の香りが広がりますので、1杯目と2杯目で温度を変えて味わいの変化を楽しんでみてもいいかもしれません。

薫酒はフルーティーな大吟醸・吟醸が代表格です。

坂本:先ほどの4つの分類の続きに戻らせてください。表の左上の薫酒(くんしゅ)について聞きたいです。

 

 

大吟醸酒や吟醸酒と書かれていますよね。これだけはちょっと分かるんです。

 

日本酒と言うと少し前までコンビニエンスストアに売っているワンカップのイメージがあって、日本酒特有の味わいと香りが苦手だったのですが、この吟醸酒との出合いでイメージが一変しました。

 

すごくフルーティーというか。さっぱりしていて飲みやすく、格好付けてワイングラスで飲むと古臭い日本酒のイメージから脱却できたのです。

 

吟醸酒とは、原料の酒米の表面をいっぱい削って米特有の重たい風味を落とし、フルーティーで軽やかな香りと味わいを楽しませてくれるお酒との理解で合っていますか?

 

池森:そうですね。おっしゃるとおり薫酒はフルーティーな大吟醸・吟醸が代表格です。

 

坂本:このカテゴリーのペアリングとして真っ先に思い浮かぶ料理や食べ物を教えてください。

 

お酒の特徴に食事を合わせる必要があると先ほど学びました。

 

池森:蔵ステイ池森だとしたら、あっさりした白身の魚だったりシロエビの刺身だったりを合わせます。

 

北陸はどこも刺身がおいしいので新鮮な刺身には大吟醸酒や吟醸酒をペアリングしたい。写真提供:とやま観光推進機構。

とにかくフルーティーな吟醸酒の味わいと香りを壊さない料理を合わせたいです。

 

例えば富山県の氷見にある髙澤酒造場の杜氏さんからは「魚に合うようにお酒をつくっている」と聞いています。

 

魚介類の味わいをストレートに楽しめる刺身と大吟醸酒・吟醸酒をペアリングする考え方がオーソドックスだと思います。

 

氷見の漁港。氷見漁港で水揚げされる特産ブランド〈ひみ寒ぶり〉は全国的に有名。

坂本:蔵ステイ池森ではこのカテゴリーにどのようなお酒があるのでしょうか?

 

池森:先ほど名前を出した髙澤酒造場の〈曙〉があります。他には若鶴の〈瑤雫(ようのしずく)〉や同じ若鶴の〈洸若鶴(こうわかつる)〉、清都酒造場〈勝駒〉、富美菊酒造〈羽根屋〉、桝田酒造店〈純米大吟醸 R KIMOTO〉があります。

 

左から若鶴酒造〈純米大吟醸 洸若鶴「kouwakatsuru」~深奥の趣~〉・桝田酒造店〈満寿泉 純米大吟醸 R KIMOTO〉・富美菊酒造〈羽根屋 大吟醸〉・清都酒造場〈勝駒 大吟醸〉。

坂本:ここで「ああ、あれね」と言えれば格好良かったのですが、幾つか知っている酒蔵の名前があるだけで銘柄についてはコメントできずに申し訳ないです。

 

これらの薫酒(くんしゅ)については、どのような酒器・温度が適しているのでしょうか?

 

池森:フルーティーな香りが特徴の大吟醸や吟醸酒は大いに香りを楽しみたいのでワイングラスが適しています。具体的には白ワインのグラスです。

 

薫酒とワイングラス。

坂本:ワイングラスが正解な日本酒もやはりあるのですね。ただの格好付けではなく。

 

池森:保存方法として大吟醸は冷蔵が基本ですので、一般的な冷蔵庫の温度設定として考えると5℃くらいになると思います。

 

坂本:薫酒は冷やしてさわやかに飲む。にわか知識が正解だと分かって良かったです。

宗玄は珠洲のお酒なので珠洲の酒器とペアリングさせています。

坂本:どんどん行きましょう。先ほどの4分類の表で薫酒の対極にある醇酒(じゅんしゅ)とはどのようなお酒で、どのような料理が一般的に合うのでしょうか?

 

似た漢字ばかりが並んでいるのでなかなか頭に入ってこないのですが。

 

 

池森:醇酒とは奥深いうま味のある純米酒、あるいは純米吟醸クラスのお酒が挙げられます。

 

坂本:純米とか純米吟醸とか、ちょっと分かりにくいので教えてもらえますか?

 

池森:純米酒も純米吟醸も醸造アルコールを入れていないお酒です。

 

坂本:何でしょう。醸造アルコールとは。

 

池森:簡単に言えば純度の高いアルコールです。坂本さんの好きな吟醸酒には醸造アルコールが入っているのでスーッとした爽快な味わいがあります。

 

しかし純米酒とか純米吟醸とかには醸造アルコールが入っていません。

 

スーっという感じではなく米そのものの甘い香りが楽しめるお酒になります。しっかりしたうま味の中に辛さがあるというか、とても奥深いお酒です。

 

坂本:どのような料理をこれに合わせているのですか?

 

池森:例えばクリームチーズとドライフルーツを合わせた食べ物を蔵ステイ池森では出しています。

 

男性は嫌いかなと最初は思ったのですがすごく人気です。

 

他にはニョッキとオマールエビを絡めた料理のようにしっかりとした味わいの洋食を合わせています。

 

坂本:具体的に蔵ステイ池森ではどの銘柄を置いていますか? 念のため。

 

池森:若鶴酒造〈苗加屋〉や髙澤酒造場の〈初嵐〉、石川県の珠洲(すず)にある宗玄酒造の〈SHORYUDO〉、桝田酒造店〈Pero〉などです。

 

左から若鶴酒造〈苗加屋 純米吟醸 琳青(りんのあお)〉・髙澤酒造場〈初嵐 純米酒〉・桝田酒造店〈Pero 純米吟醸〉・宗玄酒造〈純米酒「SHORYUDO」〉。

坂本:海外でも日本酒が飲まれるようになったからでしょうか、「Pero」とか「SHORYUDO」とか今の時代はアルファベットのお酒まであるのですね。

 

これらの醇酒(じゅんしゅ)はどのような酒器・温度で飲むと最もおいしく感じられるのでしょうか?

 

池森:珠洲焼の窯元に知り合いが居ますので、そこで素焼きのごつごつした感じの陶器を焼いてもらって蔵ステイ池森では使っています。

 

特に宗玄は珠洲(石川県)のお酒なので珠洲の酒器と産地でペアリングさせています。

 

珠洲焼きの陶器と若鶴酒造の<苗加屋 純米吟醸 玲橙(れいのとう)>。

ただ珠洲焼きについては個人的な考えがちょっと強いので、ボウルに膨らみのあるリーデル社のワイングラスを置いて、珠洲焼きとリーデルのグラスのいずれかをお客さまに選んでもらっています。

 

坂本:膨らみがあるグラスとは花のつぼみのような形をしているとの意味ですか?

 

池森:そうです。醇酒の特色はうま味です。グラスのボウルの部分が膨らんでいると、膨らみでうま味も広がると言われていますので、ボウルの膨らんだワイングラスも用意しています

 

ボウルに膨らみのあるワイングラスでお酒を試飲する池森さん。撮影:武井靖。

温度については要冷蔵なので吟醸酒など薫酒と同じく5℃近くで出しています。

 

坂本:完全に覚えるまでには何度も復習が必要ですがなんとなく分かってきました。ありがとうございます。

 

(副編集長のコメント:次は第3回。日本酒のペアリングについての基本を総仕上げしてから議論を深めるために富山県の有名な酒蔵へ出掛けます。

 

知らない専門用語がさらっと出てきて思わず脱落したくなるかもしれませんが、ここでちょっと踏ん張ればおいしいペアリングの世界が待っています。引き続き楽しんでくださいね。)

酒器選びについては〈和酒BAR 縁がわ〉オーナー・下木雄介さんが登場する後編を参照。

260年以上の歴史を誇るワイングラスの老舗。

酒器の選び方については日本酒の「ペアリング」の教科書(後編)を参照。

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