イナガキヤスト×大木賢。「バズる」写真論。

2020.07.06

第1回

プロとアマの間に「レベル」の違いはない。

大木賢写真事務所(富山県南砺市)。大木賢さんが古民家を改修して住居兼撮影スタジオとして使っている。写真中央のガラス越しに見える後ろ姿の男性がイナガキヤスト(稲垣泰人)さん。対談は大木賢写真事務所で行われた。

〈Twitter〉や〈Instagram〉などSNSの「バズる写真論」。ちょっと前書き。

突然ですがイナガキヤスト(稲垣泰人)さんを知っていますか?

 

石川・福井の人はちょっと聞かない名前かもしれませんが、「富山が本気を出した風景」といったキャッチコピーとともに立山などの美しい写真をSNS(ソーシャル・ネットワーク・サービス)に掲載して、日本中の人たちを感動させている人です。

 

私(〈HOKUROKU〉編集長の坂本)自身も〈Yahoo!ニュース〉に取り上げられている様子を見てイナガキさんを知りました。その前後には新聞・ウェブメディア・〈YouTube〉など、さまざまな媒体で取り上げられるほど話題の人です。

 

写真家・イナガキヤスト(稲垣泰人)さん。撮影:大木賢。

この人に「バズる」写真の撮り方を聞きたいと思ったところから、この特集はスタートしました。

 

対談相手として真っ先に思い浮かんだ人は大木賢さん。富山を中心に活躍するプロのフォトグラファーで、同じく数年前までブログやTwitterで「バズる」写真を世に出し続けていました。

 

フォトグラファー・大木賢さん。撮影:イナガキヤスト。

当日は編集長の私・大木さん・見学希望者の他3人と合計5人でイナガキさんの登場を待ちました。

 

一台の車が事務所の前をゆっくりと通り過ぎていきます。運転席の男性はわれわれの居る室内を「ここかな~」という感じでのぞいていきました。

 

「イナガキさんが来た」

 

と一同がどよめき始めます。人気のフォトグラファーである大木賢さんも「会いたい」と希望するくらい、イナガキさんは富山では時の人です。

 

その本物のイナガキさんが通りに面したガラス戸を開き、上枠をくぐるようにして入ってきます。待ち受ける私は有名人の登場を待つ追っかけのファンのような気分でした。

 

よくよく聞いてみると、一方でイナガキさんもプロのフォトグラファーとの対談で内心では恐縮しきっていたとの話。そんな双方のぎこちない雰囲気から話はスタートしました。

 

以下、本編のスタートです。

イナガキヤスト×大木賢。対談の始まり。

(イナガキさん、ガラスの引き戸を開いて登場)

 

イナガキ:どうも、こんにちは。

 

坂本:お待ちしておりました。はじめまして。HOKUROKU編集長の坂本と申します。本日はようこそいらっしゃいました。

 

イナガキ:こちらこそ、よろしくお願いします。

 

坂本:あの、いきなりで恐縮なのですが、こんなに大きい方だったのですか? 世界一平均身長が高いオランダでも通用しますよね。私も低くはない方なのですが、見上げるほどあります。

 

イナガキ:190cmあります。

 

坂本:小学生のころから前習えをするときの並び順は一番後ろですか?

 

イナガキ:はい。常に一番後ろでした。

 

大木:僕が横に並ぶと、その差が激しいです(笑)

 

大木賢さん(左)、イナガキヤストさん(右)。ぎこちない距離感。

坂本:今日はこんなに取材の見学希望者がいっぱい居ます。話題のイナガキさんに会いたくて勝手に押し掛けてきました。

 

イナガキ:いえいえ。そんな。

 

大木:僕は今日、おまけみたいな存在なので。

 

イナガキ:どうか、そういう扱い、やめてください。こちらこそプロのカメラマンさんの前ですごく緊張しています。

 

坂本:失礼しました。では大木さん、土間からテーブルの方に上がってもよろしいですか?

 

大木:どうぞ。

「バズる写真」の定義は「人の心を動かす写真」。

 

坂本:早速ですが今日の対談テーマは「バズる写真論」です。とはいえ「バズる」という言葉、一般的に好ましい響きではないかもしれませんね。

 

大木:そうですね。「バズらせる」と言うと何か悪っぽい印象を受けるので、人の心を動かす方法とでも言い換えておきましょうか。

 

イナガキ:それは助かります。僕もちょっとその辺には引っ掛かりがあったので。

 

坂本:もともと大木さんは、この対談前からイナガキさんをご存じでしたよね?

 

カメラはSONY α7RIII、レンズはSONY Vario-Tessar T* FE 24-70mm F4 ZA OSS SEL2470Z

大木:もちろんです。コロナの影響で自宅待機していると、さまざまな場所でイナガキさんの写真が目に入ってきます。

 

坂本:逆にイナガキさん、大木さんはご存じでしたか?

 

イナガキヤストさん。

イナガキ:はい。私も作品をお見かけしていました。初めて知ったきっかけは、大木さんがTwitterで投稿していた「写真初心者でもカメラのMモードを使いこなせるようになる図」です。

 

 

坂本:投稿は2016年(平成28年)とあります。

 

イナガキ:それだけ前の投稿がいまだにリツイートされてるってすごいなと思います。

〈写ルンです〉が最初のカメラ。

坂本:イナガキさん・大木さんにはそれぞれ、写真を始めてから人生で最初にバズった写真を撮るまでの経歴を聞かせもらいたいです。

 

大木さんは幼稚園に通っていたころ〈写ルンです〉で写真を始めたと聞いています。

 

大木:よくご存じですね(笑)小学校でフィルムの一眼レフを買ってもらって写真を始めました。

 

それで写真をずっと続けてきて、18歳の時に初めてちょっと「バズった」写真を撮りました。高岡駅の写真です。まだTwitterで500「いいね」くらいでしたが、すごくうれしかったと記憶しています。

 

 

これがきっかけではないですけれど、金沢・富山周辺の写真をいろいろと撮り始めました。

 

坂本:イナガキさんは富山で生まれ、同じく富山で育ったとの情報があります。学校を卒業された後は県内で仕事に就いたのですか?

 

イナガキ:はい。現在は富山の高岡にある会社で働いています。写真との出合いに関しては、20歳の時に初めてキヤノンのエントリーモデルの一眼レフ〈EOS Kiss〉を買って写真の楽しさを知りました。

 

子どもが生まれてから本格的な一眼レフを買って家族の写真を撮り始めた形になります。

 

カメラはSONY α7III、レンズはSONY FE 135mm F1.8 GM。

「いいね」を継続してもらえるようになった時期は今年に入ってからですが、最初に「バズった」と言えるタイミングは2019年(平成31年/令和元年)です。長野県の駅のホームで息子と車掌さんを撮った写真です。すごく多くの方に褒めていただきました。

 

 

坂本:この写真、私も大好きです。切り取られた瞬間の前後に続く物語まで見えてすごくいいですよね。

 

とはいえこれ以前にもイナガキさんはご自身の写真をSNSに投稿していたわけです。この写真の前後に撮り方を変えただとか、何か変化があったのですか?

 

イナガキ:いえ、何も変えていません。以前から同じ写真を撮って投稿しているだけです。

 

ただフォロワーの多い人たちに「いいね」やリツイートしてもらった出来事があり、流れが大きく変わったと思います。すごく「バズった」時には芸能人にも届きました。

 

坂本:いい写真を撮り続けてアップし続けていたら影響力のある人に気付いてもらえたという話なのですね。

「バズらせる」案件に対してイナガキさん以上の成果を提供できるフォトグラファーは居ない。

坂本:びっくりなのですが、イナガキさんはいわゆるプロのカメラマンではないのですよね?

 

イナガキ:はい。先ほども言ったとおり普通の会社員です。こうした対談にお誘いいただきとても光栄なのですが、最初はお引き受けが難しいと思いました。

 

 

大木さんはプロのフォトグラファーです。僕とは正直レベルが違うお方なので対談は失礼だと感じました。

 

坂本:大木さん、いかがでしょうか?

 

大木:うーん。プロとアマの間に「レベル」の違いはないと思うんですよね。

 

プロとアマの違いについて は後に話が及ぶと思うのですが、いずれにしても僕のはるかかなたで人の心を動かす写真を撮り続けるイナガキさんは素直にすごいと思います。

 

それにプロの方がアマチュアよりもすごいみたいな話はないと思うのです。

 

実際「バズらせる」案件に対してイナガキさん以上の成果を提供できるフォトグラファーは日本にそう居ないはずです。

 

 

「成果」にフォーカスするのであれば僕よりイナガキさんの方が「レベル」は上なわけで、こちらこそ恐縮しています。

 

坂本:別の取材で一緒になったあるプロのカメラマンとも先日同じ話になりました。

 

もしイナガキさんと同じくらい「バズる」写真を撮れと言われたら自分にできるか分からないと、そのカメラマンは言っていました。

 

イナガキ:いえいえ、勘弁してください。そんなわけは絶対にありませんから。

 

(副編集長のコメント:次は第2回。「映え」には不可欠な写真加工の問題に続きます。)

イナガキヤスト(稲垣泰人)さんのプロフィール。
〈Twitter〉で5万人以上のフォローワーを持つ写真家。T&D×東京カメラ部「Try & Discover フォトコンテスト2019」 優秀賞/土屋鞄 2019ランドセルフォトコンテスト 大賞/長野県観光インスタアワード 優秀賞
https://twitter.com/inagakiyasuto

大木賢さんのプロフィール。
1994年(平成6年)富山県生まれ。金沢大学在学中にフリーランスとして独立。広告・書籍・企業広告などの撮影の他、個人の日常風景も撮影する。

坂本・イナガキヤストさん・大木賢さんの他、3人の見学希望者が大木賢写真事務所に集まっていた。

富士フイルムが1986年(昭和61年)から販売したレンズ付きフィルムカメラの登録商標。

富山県西部にある駅。

SNS(ソーシャルネットワークサービス)に対して寄せられる高評価のリアクションの意味。

第4回「TwitterとInstagramには違いを感じます。」を参照。

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