「人が集まる場所」のつくり方をGNLの明石さん・BnCの山川夫妻と考える

2020.05.31

第1回

自分が行きたい場所じゃないと意味がない

左から、WE建築計画の1西出雅史さん、グリーンノートレーベルの2明石博之さん、コラレアルチザンジャパンの3山川智嗣さん・4山川さつきさん

―― よろしくお願いします。素晴らしいメンバーに今日は集まってもらいました。

 

座談に先駆けて、企画者である〈HOKUROKU〉編集長の私、坂本から、集まってもらった意図を説明させてもらいます。

 

若い世代を中心に、北陸に暮らす人たちから「行く場所がない」とか「遊び場がない」という言葉を耳にします。

 

もちろん、行く場所も実際にはそれなりにあって、ここに集まってくれた皆さんは富山に石川に、カフェだとか宿だとかレストランだとかバーだとか、すてきなスポットをたくさんつくってくれているわけです。

 

しかし、東京や大阪などの大都市に負けないくらい北陸のそこかしこにワクワクするような場所が存在するかと言えば、そうではないかもしません。

 

ならば、素晴らしい拠点を北陸ですでに立ち上げている人たちを呼んで、これまでの道のりを語り合ってもらい、後に続く人たちの「導きの糸」になるようなコンテンツをつくりたいと思いました。

 

そこで、大人気のカフェ〈cafe uchikawa 六角堂〉や〈水辺の民家ホテル〉など数々の拠点を富山で立ち上げてきたHOKUROKUプロデューサーでもある明石博之さんと、古民家リノベーションを通じて宿やカフェやラウンジなどの商業施設を富山の井波で次々とオープンさせてきたコラレアルチザンジャパンの山川智嗣さん、およびさつきさんに集まってもらいました。

 

今回の座談では、場所づくりの経験を持たない素人の私が小賢しく司会進行役を務めるよりも、実務経験が豊富な人に助けてもらった方がいいはずです。

 

そこで、建築家として北陸で、さまざまな商業施設づくりを手掛けてきたWE建築計画の西出雅史さんに司会進行役をお願いしています。

 

西出:今日はよろしくお願いします。

 

山川:西出さんがインタビューするんですか?

 

西出:そうなんです。人生で初めての経験なので緊張しています。本当に大丈夫ですかね(笑)

 

山川:てっきり、西出さんは、インタビューを受ける側だと思っていました。

 

 

―― 西出さんとは、どのような話をするか事前に打ち合わせしています。安心して、西出さんの司会進行に身をゆだねてもらえればと思います。

 

私も話に時々横入りしますが、書記係のような役割にあくまでも徹します。

 

西出:それでは早速始めさせてもらいますね。

 

いきなりで恐縮ですが、山川さんが手掛けてこられた宿や飲食店は、すごいところにありますね。なぜ、ここでやろうと思ったのですか?

 

―― いきなりすみません。「すごいところ」とは、8,000人ほどしか人口が居ない静かな土地という意味ですか?

 

西出:はい。

 

山川:一時期中国で働いていて2016年(平成28年)に帰ってきました。設計事務所を東京で開業する選択肢も当時はありました。しかし、ちゃんとしたものづくりに携わりたいと考えていました。

 

たまたま僕も妻も井波にご縁があり、ネコと暮らせる家を買いました。建具屋さんを営んでいたすごく大きな家だったので僕たちが1階に住んで2階は、宿泊できるようにすればいいんじゃないかという発想が全てのスタートとなりました。

 

元建具屋をリノベーションした宿〈TATEGU-YA〉。木彫刻家・田中孝明さんの作品を展示している。写真提供:CORARE ARTISANS JAPAN

西出:職人との交流と宿泊体験を結び付けた発想はどこから来るのでしょうか?

 

山川:「宿泊した人がまた来たくなるまちとはどんなまちなんだろう」と考えたら、知り合いができただとか、地元の人との出会いがあった場所だと思いました。

 

木彫刻の盛んな井波には人口8,000人のまちに200人近くの彫刻家が暮らしています。「職人に弟子入りできる宿」というコンセプトがそこで決まりました。

 

その職人さんともう一度会いたいだとか、機会があった時に作品を頼みたいと思えるような接点を〈BED AND CRAFT〉を通じて提案できたらと思いました。

 

さつき:建具屋さんが宿としてオープンすると、泊まりに来た上海の友人が「いいな、俺も欲しい」と言って井波で物件を買うような話もありました(笑)

 

西出:すごい友人ですね(笑)

 

山川:ただ、その友人も、別荘として年数回しか使いません。もったいないからホテルにしようかという話になりました。BED AND CRAFTの2軒目がそれです。

 

養蚕(ようけい)で栄えた豪商の家をリノベーションした2軒目の宿〈TAË〉。漆芸家・田中早苗さんの作品を展示している

2軒目のオープンでさらに人が集まるようになると長期宿泊する外国人も次第に増えていきました。

 

西出:食事を宿では出していないですよね?

 

山川:はい。宿をオープンした当初は、まちでご飯を食べてもらっていました。しかし、お店の数も少ないので宿泊期間中の3日連続ですし屋に行くようなファンキーな旅行者も現れてきました(笑)

 

健康にもあまり良くないから、地元の野菜を使って料理ができるキッチン付の長期宿泊用ホテルをつくろうという話になります。それが、次の展開となる〈KIN-NAKA〉です。

 

元料亭をリノベーションした宿。〈KIN-NAKA〉〈MITU〉〈TenNE〉と3つの異なる宿泊空間が1棟に同居している

西出:要するに、ないものや必要なものを次々とつくっていったら、現在の形になったのですね。

 

山川:そうなのです、と言いたいところですが実は、少し違っています。いろいろなメディアにそのころ取り上げてもらって「宿泊客の7割が外国人」みたいなタイトルで露出する機会が増えました。

 

すると、興味を持った日本人が増えて、車で来るお客さんが増えました。金沢からバスで1時間かけて来てくれる外国人旅行者が以前は主体だったのですが。

 

車で来るお客さんが増えると、朝早くチェックアウトして金沢などの観光地へ行ってしまう方も出てきます。井波のまちに暮らす職人さんたちと交流を楽しんでもらいたいのに「このままではまずい」と思いました。

 

そこで、各宿のチェックイン機能を新たな別棟に集約しました。まちを散策しながら自分の宿を探してもらうフロントの〈BnC LOUNGE〉です。さらに、スタッフや地域住民と交流できるカフェ・バー〈nomi〉をつくりました。

 

座談が行われた〈BnC LOUNGE〉(奥)と隣接したカフェ・バー〈nomi〉

西出:ここまで話を聞いて思った点をちょっと立ち止まって聞かせてもらっても構いませんか?

 

ビジネスを始める・場所を立ち上げる時に何を、優先して考えるのでしょうか。サービスから場所を決める考え方もありますし、場所からサービスを決める考え方もあるはずです。

 

例えば、コンビニエンスストアなどのフランチャイズではサービスが最初から決まっています。サービスありきの場所選びだと思います。

 

一方で、場所ありきのサービスでも、サービス内容を決定するまでには、人口や観光客数、近隣商業施設の有無など数々の検討事項が絡んでくるはずです。

 

山川:お話したとおり場所ありきのサービスです。場所の資源とか魅力を生かした建築や空間を提供しているので。明石さんもそうなんじゃないですか? 六角堂とか。

 

 

明石:僕もそうですね。六角堂をつくった理由は、僕自身が安心して食べられる飲食店が欲しかったからです。じゃあつくっちゃえって。自分が楽しめるお店や場所をつくって、その延長線上で、お客さんや友だちが楽しんでくれればいいなって思っていました。

 

さつき:今から場を立ち上げようとする人の話を聞いていると、どうやったら顧客が楽しんでくれるかを考えすぎている印象があります。もちろん、それはそれで大切なのですが、明石さんの言うとおり、自分たちがまず楽しいと思える場所にした方が、いいのではないかと思います。

 

明石:自分が行きたいカフェじゃないと場所をつくる意味がないと思う。

 

山川:「何もないまちですけど私たちにもできますか」とある人から以前相談されたんです。けれど、何もないまちは存在しません。そのまちをいかに、引き立たせて楽しみながら伝えられるか、それが、僕たちの仕事なのかなと思います。

 

座談会が行われた〈BnC LOUNGE〉とその周辺

編集長のコメント:「自分が行きたいカフェじゃないと場所をつくる意味がない」とは個人的にすごくしびれた言葉でした。自分が読みたいウェブメディアじゃないとつくる意味がない、そんな風に思ってHOKUROKUを創刊したので。

 

ただし、ここまで振り切るにはかなりの勇気が必要ではないでしょうか。自分の思いや好みだけで突っ走って失敗したらどうなるのでしょう。この辺りを、明石さん・山川夫妻はどう考えているのか。第2話に続きます。)

西出雅史さんのプロフィール。
一級建築士、WE建築計画代表、BRANCH合同会社代表社員、金沢科学技術大学校建築学科で非常勤講師。1987年(昭和62年)千葉県生まれ、石川県育ち。各国を放浪後に、建築設計事務所WE建築計画を設立。商業建築(〈hammock cafe Amaca〉など)、住宅の設計を中心に活動中。2019年(平成31年/令和元年)、植物好きが高じて珍奇植物店〈ashitaba〉(運営BRANCH合同会社)を石川県小松市にオープン。
 
明石博之さんのプロフィール。
場ヅクル・プロデューサー、グリーンノートレーベル株式会社代表取締役、株式会社コンショク代表取締役、〈カフェuchikawa六角堂〉〈水辺の民家ホテル〉オーナー 。1971年(昭和46年)、広島県尾道市(旧因島市)生まれ。プロダクトデザインを多摩美術大学で学ぶ。卒業後は、まちづくりコンサル会社に入社。妻の故郷である富山県へ2010年(平成22年)に移住。漁師町で出合った古民家をカフェに「リノベ」した経験をきっかけに、まちの価値を拡大する「場」のプロデュース・空間デザイン・まちづくりに取り組んでいる。
 
山川智嗣さんのプロフィール。
代表取締役、建築家。富山県生まれ。明治大学理工学部建築学科卒業後、プランテック総合計画事務所入社、カナダに留学後、2009 年(平成21年)中国上海へ。チーフデザイナーとして多くの公共建築・商業建築の設計に携わる。2011 年(平成23年)、トモヤマカワデザインを上海で設立。2017 年(平成29年)、職人と新たな価値を創造する、株式会社コラレアルチザンジャパンを設立。職人に弟子入りできる宿泊施設〈BED AND CRAFT〉をプロデュースするなどクリエイティブディレクターとしても活躍している。
 
山川さつきさんのプロフィール。
取締役、建築家。兵庫県生まれ。金沢工業大学工学研究科博士前期課程建築学専攻卒業後、プランテック総合計画事務所入社。2009年(平成21年)中国上海へ。多くの商業建築の設計に携わる。2011年(平成23年)、トモヤマカワデザインを山川智嗣さんと共同設立。株式会社コラレアルチザンジャパンを山川智嗣さんと共同設立後、上海でのオリエンタルなデザイン経験を古民家改修で表現する。
 
山川さんたちの暮らす富山県南砺市の井波地区は人口が8,000人ほど。かつて鉄道が走っていたが廃線となり、公共交通は現在、ローカルバスのみ。
 
「職人に弟子入りできる宿」をコンセプトに井波地区の空き家を活用する宿泊施設のブランド。
 
富山県射水市の新湊地区に明石博之さんがつくった〈cafe uchikawa 六角堂〉。年間2万人以上が訪れる人気スポット。

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