便利さに負けると魅力は半減する
カフェ&バーの奥にある扉を開けると、ダイニング空間が広がる。写真:四津川製作所
前回までは、2棟ある〈金ノ三寸〉のうち「八」棟に入り、チェックインカウンターとカフェ&バーの空間を紹介しました。
入り口から見てバーの奥にある真ちゅう扉の先に、宿泊者専用の空間があります。扉を開くと、中庭の見える土間のダイニングルームがまず目に留まります。
ダイニングに配置された最大8名が食事できる真ちゅうのテーブル
ダイニングではまだ、靴を履いているせいもあり、自分自身が、屋外の延長で過ごしている意識があります。
和のテイストをモダンな解釈でデザインし、格子の扉や違い棚をモチーフにした間接照明などを仕込んで、空間にアクセントをちりばめました。
真ちゅう製のペンダントライトも、アートユニット〈てがかり工作室〉さんの作品です。
「八」棟の中庭。室外と室内の中間のようなプライベート空間。撮影:明石博之
ダイニングルームからガラス越しに見える空間は、町家の特徴とも言える中庭です。
ダイニングルームから中庭を通って、下足のままゲスト専用のキッチンルームと往復できる空間設計にもなっています。
中庭には大きなひさしが掛かっているため、雨の心配も不要です。
隣の建物に見える板壁は、伝統建築のムードを高めるために、新しく造作しました。
旅のムードを高める、没入感を高めるために妥協できないポイントだと思います。
窮屈な思いをせずに過ごせる宿
ここからは靴をぬいで上がる
ダイニングルームと連結して、フローリングに通じる小上がりがあります。
左手に中庭が見えます。その先には再び下足に履き替えるキッチンがあり、奥にはトイレがつ、親子3~4人が入れる広い湯船のお風呂と洗面所があります。
土間のようなキッチン。中庭と連動しているため、下足のままダイニングとの往復も可能
1階は、どちらかというとにぎやかで、動的な使い方をするシチュエーションが多いのかもしれません。
ゆっくりと過ごしたい時は階段を上がり、2階に移動してください。
2階へと通じる階段。空間の中にモダンな要素をふんだんに詰め込んである
ホテルのベッド選びは毎日使うベッドと異なる
中庭からの光を最大限に利用する障子窓
2階のフロアには、中庭に面した3面全部の窓に、障子を組み込みました。
優しい光が2階ホール全体を、柔らかく包んでいます。私は町家のこの光が大好きです。
早めにチェックインして、陽の光があるうちにこのソファに座ってみました。
何度も見慣れた場所のはずなのに、優しい光とフロアランプの明かりに、癒やされました。
「八」棟のベッドルーム、和室仕様となっている。奥の壁上部(写真正面)の明かりは、わずかな自然光が入り込む仕掛けを施している
2階には、寝室が4つあります。その1つが写真の畳の間です。
畳の床より少し高い位置に、ちょっと浮遊感のある板間をつくり、ベッド用のマットレスを敷いています。
ホテルのベッド選びは、毎日使うベッド選びと異なります。固いクッションを台座に、やや柔らかめのクッションを置いている「ダブルクッション」タイプがホテルでは少なくありません。
金ノ三寸でも、米国Sealy(シーリー)社のダブルクッションタイプのベッドを採用しました。体重分散機能に優れていて、気持ち良く寝られるはずです。
照明の位置にも空間全体で配慮を
くつろげる環境づくりとして照明と光源にも配慮しました。
2階には、天井付けの照明器具をほとんど使っていません。多くの照明器具は、壁付けのブラケットライト2もしくは、床置きのフロアランプです。
天井からつるすペンダントライトはかなり低い位置に取り付けられています。
天井に埋め込んでいるダウンライトは、狭い範囲を照らすタイプで、光源が目に入りづらくなっています。
「八」棟のベッドルーム、こちらはフローリングの部屋。写真:四津川製作所
フローリングのベッドルームに関して言うと、写真右手の人物が座っている場所は、本来は隣の建物(棟)の一部でした。
あえてそのまま見せて、ブラケットライトと机を配し書斎のような空間にしています。
全ての要素を、当たり前のように便利に、スマートにするだけでは、面白くありません。
面白さが便利さに負けてしまうと、古民家リノベーションの魅力は半減してしまいます。
こうした遊びの空間も、非日常を感じさせてくれる大切な要素だと考えています。
北陸の宿巡りでは、遊びの部分にも着目したいと思います。
2階から階段で降りてきた時に見えるダイニングテーブルの様子
(編集長のコメント:金ノ三寸のルームツアーはまだまだ続きます。次は、隣の「月」棟へ。
宿の解説コメントから宿泊体験の語りも次第に始まります。楽しんでくださいね。)
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