「買いたい」古民家「買ってはいけない」古民家

2020.09.29

vol. 02

木造の家と暮らす人は共存関係

コンクリートの基礎にモルタル仕上げ土間

 

突然ですが、夏休みなどに長く家を離れて帰ってきた時を思い出してください。

 

部屋の中が蒸していたり変なにおいがしたり。家の中の空気がよどんでいると感じた経験はありませんか?

 

誰もが身に覚えのあるこの感覚は空き家(正確には空き物件)の傷む根源的な原因を理解する際に役立ちます。

 

木造の家と、そこに暮らす人たちは共存関係にあります。

 

快適・健康に暮らすために人間は家が必要ですが、家もまた家が、健全な状態を維持するために人間の活動を必要としています。

 

家の中を人間が動けば空気の対流が生まれます。暮らす人の営みそのものが空気の流れを生み、自然の換気システムとして湿気を逃がし家の健全性に貢献するのです。

 

築100年以上が経過した土蔵づくりの内部。丁寧に管理された空き家だったため非常に良い状態で残っている

思い切った余談をしましょう。宮崎駿原作〈風の谷のナウシカ〉のストーリーを細かく覚えていますか?

 

世界を焼き払った最終戦争から1000年後を描いたストーリーです。

 

すっかり生態系が変わり、汚染された大地には菌類の森「腐海」が広がっています。

 

「腐海」で発せられる猛毒から逃れるために安全な地を人々は探して暮らしています。主人公のナウシカが住んでいる「風の谷」と呼ばれる村は海からの潮風によって猛毒から守られていました。

 

この世界観が私は大好きです。風が吹かない田畑では農作物も健康に育たないと自然栽培の農家から聞いています。

 

人の暮らしにも建物にも風による空気の循環が必要だと教えてくれる身近な例は考えればいくらでもあります。これらの身近な知恵や経験則が古民家物件を選ぶ際にも実は役立つのですね。

 

築100年以上経過した古民家座敷

例えば、湿度の高い猛暑日が1週間続き、その間に空き家を誰も訪れなかったとすると、家のダメージは致命的なまでに深刻化します。

 

建築物にとって劣悪な環境が1週間も続けば、床を支える床下の構造や屋根を支える屋根裏の構造は、急な階段を転がり落ちるように傷み始めます。

 

人にも建築物にも好ましくない状態を好むシロアリやキクイムシの餌食にもなります。

 

空き家になった古民家を狙っているのなら、管理者がどの程度の頻度で入って風を通しているのかが大切なチェックポイントになります。

 

「部屋の空気を入れ換える」だけで建物を健全な状態に維持できるとは言えません。しかし、やらないよりははるかにましです。

  • 空気がよどんでいるか
  • 不快さを感じるか
  • かび臭いか

内見の際には神経を集中し、管理者の換気の頻度を推測してください。

「買い」の古民家の特徴
空き家となってからも人の手でこまめに換気が行われている

木造伝統工法で建てられた家か

ただ、人の手による換気が十分でなくても内見すると、比較的傷みが少なく健全な状態を保っている空き物件が中にはあります。

 

こうした空き物件には多くの場合2つの共通点があります。1つは「木造伝統工法で建てられた住宅」です。

 

木造伝統工法の住宅とは、木材の柱や梁がむき出している、しっくいや土壁が壁に塗られている、瓦屋根があるなど、多くの人がイメージする「古民家」らしい意匠の建築物です。

 

木造伝統工法の家(古民家)には特徴があります。床下や屋根裏の風通しが良く、扉・窓と枠との間にすき間があって、天然の換気効果が得られます。

 

この空気の流れは「古民家=寒い」と言われる原因の1つでもあるため、現代建築の多くは気密性を高めようとします。

 

すき間風が吹き込む古民家の木製建具

しかし、詳しく後で語りますが、古民家特有のこの気密性の「低さ」は家に人が住まなくなった時、建築物の健康維持に大変な力を発揮します。

 

家主が居なくなり人の手で換気も行われなくなって、微細な空気の対流が生まれなくなった状態でも、すき間の多さによって部屋の空気循環が自然に維持されるからですね。

 

その意味で、買いの古民家を見分けるポイントとしては(狙っている建築物が)建築当初の状態に近い木造伝統工法の住宅であるかどうかも大事だと分かります。

 

建築当初の状態に近い木造伝統工法の住宅(古民家)であれば、長い間空き家の状態が続き、人の手によって換気すらされていなかったとしても、比較的健全な状態で維持されている可能性が高いと考えられます。

「買い」の古民家の特徴
人の手による換気がこまめに行われていなくても木造伝統工法なら自然に換気が行われている

編集長のコメント:お出掛けや風の谷のナウシカの話、分かりやすいですね。

 

人の管理による換気・建造物の自然な換気の有無が大事だと分かりました。

 

次は第3回。買いの古民家・買ってはいけない古民家の見分け方はまだまだ続きます。)

消石灰に砂・のり・すさ(繊維質のつなぎ材)を混合して水で練り、壁や天井の仕上げに使用する。

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