北陸「ローカルCM」ミュージアム

2021.04.12

第1回

「開館」にあたって

イラスト:Mariko Noguchi

今週からスタートする「北陸『ローカルCM』ミュージアム。」を企画・制作した〈HOKUROKU〉編集長の坂本正敬です。

 

SNS(会員制交流サイト)で「懐かしい北陸(福井・石川・富山)のテレビコマーシャル」を北陸の人たちに募り、名前の挙がったCMの広告主、広告代理店、および制作会社に映像素材や情報の提供を呼び掛けて、一堂に会した作品群を視聴できる環境を整える試みです。

 

 

収集をスタートしてみると意外にも(あるいは全く意外ではないのかもしれませんが)著作権者(広告主、広告代理店、および制作会社)によって素材(ビデオテープ)や制作情報が適切に保管されていないケースが目立ちました。

 

その理由はどうしてなのでしょうか。

 

テレビコマーシャルは著作権上で映画と同じ扱いを受けながら、芸術の一分野と認知される映画と異なり、学識者に「低く」見られる風潮があります。

 

その支配的な風潮の影響で著作権者の側にも文化財の意識が生まれにくく、丁寧に管理しておく動機が働きにくかったのかもしれません。

 

テレビ(テレビコマーシャル)の世界では「アンチコモンズの悲劇」という言葉も古くから知られています。

 

テレビ番組やテレビコマーシャルは1つの映像にいろいろな権利者が関係しているため、それぞれに許諾を取る手間や各種のコストを考えると誰も二次利用しなくなるとの話です。

 

ご当地CMの二次利用が想定されていない(誰も二次使用しないと著作権者が当時考えていた)点も、適切に保存されなかった一因かもしれません(もちろん大切に保管している広告主も居ましたが)。

 

いずれにせよ映像や制作情報が残っていない事実に少し悲しい気がしました。

ご当地テレビコマーシャルも文化や郷土史の一部

大学時代に筆者は美学を学びました。とりわけ映画美学を修める中で〈東京国立近代美術館フィルムセンター〉(現・国立映画アーカイブ)が手掛ける映画フィルムの収集・復元・保存の活動を知りました。

 

ポスター・スチール写真・プレス資料など関連資料を含めた旧・東京国立近代美術館フィルムセンターの収集活動は、それぞれの時代に生まれた文化・芸術の歩みを単に積み重ねるだけでなく、次世代が新たな一歩を踏み出す際の礎になります。

 

アメリカで言えば〈National Archives and Records Administration〉、イギリスで言えば〈British Film Institute〉、ドイツで言えば〈ZDF Archives〉、フランスで言えば〈Institut national de l’audiovisuel〉などがさらに大きなアーカイブをつくっています。

 

学生時代には「まぁ、大事なんだろうね」と軽く考えていましたが、今回の件を通じて資料の管理と保存の大切さをあらためて痛感しました。

 

ご当地テレビコマーシャルは北陸の郷土文化や郷土史の一部です。見る者の郷土愛を潜在的に育み、同郷の人たちを結び付けるコミュニケーションツールにもなってくれます。

 

かといって日本で唯一の広告ミュージアムである〈アドミュージアム東京〉(東京都)に全国各地のローカルCMまでアーカイブ化を期待するわけにもいきません。

 

北陸の広域WebメディアであるHOKUROKUが率先してその一部を担いながら、自社の(あるいは自社の手掛けた)広告や関連資料を文化財として保管しようとする気運を北陸の広告主や制作者の間でもっと高められればと思っています。

 

HOKUROKU編集長・坂本正敬

北陸「ローカルCM」ミュージアムのクレジット

企画・取材・文:坂本正敬

カバー写真:山本哲朗・武井靖

イラスト:Mariko Noguchi

編集:大坪史弥・坂本正敬

リーガルチェック:伊藤建

編集協力:明石博之・中嶋麻衣

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